●NASAが温暖化は太陽周期が原因と「公式」発表なる件について●
一昨日の記事に対し、懐疑論者と思われる方から「最近NASAが地球温暖化の原因は二酸化炭素ではなく、太陽活動によるものであると公表しました」などとするコメントがありました。後で調べてみて分かったのですが、この方は、あちこちのサイトに同じコメントを寄せておられるようです。また、他の懐疑論者のブログや2チャンネルは、この話題で結構盛り上がっていることも知りました。 いわく、「NASAが地球温暖化原因は「太陽活動異変」によるものと公式に認めた」「NASAの公式見解として、地球温暖化or寒冷化はすべて太陽の活動に左右されており、 人類が産業革命以降に排出した温室効果をもつガス(二酸化炭素など)の影響はほとんどないそうです」「NASAは数年前から地球温暖化の原因が産業活動にあるという仮説に疑問を提示してきましたが、 ここにきて確証を持ったという感じ」「これでIPCCも温暖化の原因が太陽活動であることを認めざるを得なくなるだろう」「いや、今度はCO2が原因で太陽活動が活発化したと主張するんじゃないの?」などなど… なんつうか、鬼の首でも取ったような騒ぎなのですね。 NASAはこれまでも、なにしろ最高責任者マイケル・グリフィンからしてブッシュの覚えめでたき懐疑論者だったことから、地球温暖化について何度も物議を醸すネタを提供してきた前歴があります。グリフィン自身、テレビで「温暖化は事実だが戦うべき対象だろうか」「地球の気温で何度がいいかなんて分からんやないか」などと発言、あまりの脳天気さに多くの科学者から一斉に「無知にもほどがある」と袋だたきにされ、平謝りにその発言を撤回したこともありました。だからまあ、NASAの発表と聞いて、第一印象はまたか…ではあるのですが、せっかくの機会ですので、忙しい時間を割いて少し調べてみました。 で、わかったこと。NASAのオフィシャルサイトを相当念入りに、特にプレスリリースは丹念に調べたのですが、いわれるような「公式発表」はどこにも発見できませんでした(もし発見した方がおられましたら、ぜひご教示ください)。その代わりに探し当てたのは「Daily Tech」という技術系らしき雑誌のサイトに付属するブログの 「NASA Study Acknowledges Solar Cycle, Not Man, Responsible for Past Warming」という6月上旬の記事です。コジローなりに和訳すれば「NASAの研究が過去の温暖化は人為ではなく太陽周期の結果であることを認める」といったところです。 この記事を書いたのはマイケル・アンドリュースという人で、NASAの研究者リストを検索しても見あたらず、さらに探して「Daily Tech」のブログを何人かで分担して書いているうちの一人であることが分かりました。で、肝心の内容ですが、NASAに属するある研究機関が、太陽周期により地表気温に最大0.1度の影響があることをつかみ、またそれを使うことで産業革命以来の地上の気温変化をうまく説明できた…といったことのようです。 どうも、自分の英語力が不足なのか、それともこのブロガーの科学知識が不足なのか、この記事には氷河期の話やら、太陽周期の話やらがごっちゃに出てきて非常に混乱させられます。ちなみに氷期と間氷期の移り変わりは太陽と地球の位置関係で決まり、ミランコビッチサイクルを基に計算できる10万年オーダーのサイクルですが、いわゆる太陽周期は太陽黒点の増減で表現される太陽の活力変化でわずか11年サイクルです。ついでながら、例の武田某センセイが「地球はこれから寒冷化に進む」と予言し警鐘を乱打する次期氷期の到来は、先のミランコビッチサイクルに基づく計算で3万年後になることがわかっています。 「これから」ねえ…(^^;) 「長生きする…」とはこのことです。 ともあれ、この時間スケールで1万倍の開きがある自然現象が同じ文脈で出てくること自体がまず驚きなのですが、このブログ記事の主題である太陽の活力変化によって地球が受け取るエネルギー量が増減し、このことが地球の気温に与える影響についてはこれまで、無視できるほど小さいとされていましたから(それよりも、黒点減少→太陽風の弱まり→宇宙線量増加→地上雲量増加→日傘効果による地上気温低下…のサイクルの方が影響は大きいと考えられています)、全球平均で0.1度も影響があるとなればこれはたしかに新しい発見かもしれません。ただし、産業革命からこれまでの気温上昇はIPCCの評価で0.74度、NASAも同程度の気温上昇を観測事実として認めているわけで、じゃあ、太陽周期で最大0.1度の気温上昇を見込んだとして、あとの0.64度上昇の原因はどう説明するのでしょう? 考えられることとしては、この研究が、温暖化に伴う気温変化の長期的トレンドを修正したうえ太陽周期への感応に限って地上の気温変化を分析した可能性があります。これは、地上の植物などがどの程度の二酸化炭素吸収能を有するかを研究するようなときにも使われる手法ですから、援用された可能性はあります。そのうえで、0.1度という数値をはじき出したとしたら、その成果を素直に評価したいと思いますが、それは人為による地球温暖化説と全く矛盾はしないですね。 といった次第で、どうも、このアンドリュースくんという一知半解のブロガーがこの研究成果を知って、我田引水的に作文をした印象が強いのですねえ。根拠がはっきりしているならNASA発表のオリジナルが読めるサイトをリンクすべきですがそれもないしい… で、こんなブログ記事を日本の懐疑論者の誰かが読んで、「NASAが地球温暖化原因は「太陽活動異変」によるものと公式に認めた」と自分のブログに書くと、次々にコピペで広がっていくという構図なんじゃないかなあ… ちなみに「公式」なんて、さすがのアンドリュー君も書いてません。それどころかNASA発表とも書いていない。だから「公式」とか「公表」とかは、NASAの虎の威を借りたい日本の懐疑論ブロガー独自の「創作」だと思います。 あ?先にも述べたように、NASAはこれまでの前歴から、地球温暖化をめぐる科学の議論では虎にはなりませんけど… (NASAのまじめな職員の名誉のために付け加えますが、もちろん温暖化関係のまじめな研究もたくさんあります) …それにしてもなあ、自分で調べもせずに伝聞にコピペであんなに盛り上がれるもんなんかなあ… コジロー、元ブンヤの職業根性がそうさせるのか、それとも元々疑い深いヤな性格のせいか、この手の怪しい話題、ソースを調べずには恐ろしくて論評できないけどなあ… ん~、そう難しい英語でもないんだから、、原文読めよ。 ←ランキングに参加してます、ワンクリックでご協力を