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カテゴリ:改訂 『日米口語辞典』
分子生物学者にして名文家、福岡伸一氏によるベストセラー『生物と無生物のあいだ』(講談社現代新書)に、『最新 日米口語辞典』(エドワード・G・サイデンステッカー、松本道弘 共著)を讃美する個所があった。(10月11日のブログ参照)
面映い。 そのために、アマゾンのランキングで同辞書が売れ始めたことを知った。 喜んでいいものか。 痛し痒しだ。 この「痛し痒し」は、同辞書によると「be a mixed blessing」となっている。 正しい。 しかし、故サイデンステッカー氏と共著した私の今の眼から見ると、三分の一は書き直さねばならない。 今書き改めれば、加筆・修筆が多く、真赤になるだろう。 当時私の英語力は、米大使館での同時通訳修行時代を終えたばかりの30代前半で、英語道ランクでいえば、弐段に過ぎない。 したがって、優秀な編集者3人と数人のネイティブの協力がないとできない、野心プロジェクトであった。 社運を賭けてやるという原雅夫社長の心意気に惚れ込んで、身も心もボロボロになりながら、ほぼ独りで書き上げた作品である。 これが「読める辞書」として話題をさらい、ベストセラーになった。 本当に辞書がベストセラーになり、同時通訳を志す人たちの必携の辞書と化した。 あれから30年近く経って再読してみると、読んでもらっては困る個所が余りに多いことを知って、愕然とした。 かつての私は生意気で、使えない和英辞典を書き直すという野心に燃え、ネイティブとディベートしながら・・・つまりお互いの面子を捨てて・・・異文化交流に役立たせるという大義名分を掲げたものだ。 しかし、ハッと気がつくと、私自身がこれまでの巷の和英辞典と同じ間違いを犯していることに気づいた。 辞書は腐るという大前提を忘れていた。 このことに気づいて、10年前に、この辞書をアップデートしなければならない、と研究社の『自分の辞書を作る』の中で述べた。 朝日出版社が気づいてくれることを念じながら・・・。 しかし完全に黙殺され、今も読み続けられている。 ベストセラーを出された福岡氏が今も愛読されていると知り、再び焦り始めた。 蝉の抜け殻になりかけた、30年以上も前の『日米口語辞典』がいまだ読み続けられている。 出版社の意向を待たずに一刻も早く私が書き改めなければ、読者に申し訳ないという慙愧の念にかられ始めた。(続く) お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2007年10月28日 05時56分16秒
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