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ジプシー音楽映画『ベンゴ Vengo 』


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【知覚の扉】入魂の”ジプシー音楽映画”トニー・ガトリフ『ベンゴ Vengo 』
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『ベンゴ Vengo 』
監督・脚本・音楽: トニー・ガトリフ(最新作は昨年の『僕のスウィング』)
出演: アントニオ・カレーナス / トマ・ティート / ラ・パケーラ・デ・ヘレス / ベルナルド・パリージャ / シーク・アマッド・アル・トゥニ



映画の舞台はスペインのアンダルシア地方。
この『ベンゴ Vengo 』は、娘を失った悲しみに暮れる男とそのロマ(ジプシー)のファミリーの物語です。物語はアンダルシアの男カコが年頃の一人娘ペパを亡くした悲しみを紛らわすために開く盛大なフラメンコパーティから始まります。カコは、兄マリオがカラバカ一家の長男の殺人の咎で敵対するカラバカ一家の「血の復讐」の対象となっており、甥のディエゴの命に危険が及んでいることを知り、苦悩する。長男を殺されたカラバカ一家は復讐に燃え、祖父の代には仲の良かった二家族が孫の代になって殺し合い憎しみ合う関係になってしまったのです。タイトルの「ベンゴ」とは復讐のことであり、ヒターノ社会におけるファミリアの強い絆、哀しい定め、血の掟がテーマとなってストーリーが展開していきます。 彼は娘を失った悲しみの代償に軽い言語障害があり手足の不自由な甥ディエゴを溺愛し、娼婦の世話までしようとする。しかし陽気に振舞う2人はカコの娘ペパの面影を忘れることができなかった.....。家族を失う痛みをよく知る男が、また新たな家族の喪失を回避するためにファミリー間の抗争に終止符を打とうとするが.....。



超一流のミュージシャン達のライブ演奏と舞踊に彩られた男達の復讐のドラマが展開してゆきますが、ストーリーは単純で観ているうちにもはやこの映画にはストーリーはあまり重要な位置を占めていないことに気づいてきます。この映画を観る者は必ずや随所に織り込まれたフラメンコの圧倒的な美しさ、力強さに魅了されて行く事と思います。ロマの血を引くアンダルシアの人たちにとってその悲しみも憎しみも情熱も後悔も嫉妬も全てフラメンコ音楽で表されるのです。生きることすなわち音楽というのがよく分かります。ロマは、放浪のなかで異文化を吸収し、厳しい迫害を耐え、独自の文化と物語を育んできた民族です。故郷を持たず、放浪するロマにとって、民族の誇りを守るということは、現在と同時に神話的な物語を生きることを意味するからです。

「ベンゴ」は単にフラメンコを扱っているのではない。
映画自体が本能的にフラメンコなのだ。
トニー・ガトリフ監督



監督の言葉にあるように、冒頭からフラメンコをたっぷり聴かせてくれます。フラメンコと聞くと、派手な衣装を付けた踊り子達が華麗なステップで所狭しと踊るものだと思いがちでしょうが、この映画では演奏と唄い手が主役です。途切れなくフラメンコの音楽が流れ、娘を失った心の傷にいまも打ちひしがれたままの男・カコの静かでやさしく哀しい物語が展開されていきます。
フラメンコが情熱的に迫ってくるこの映画は「観る」というより「浴びる」のがいい。





ロマ民族(ジプシー)は北インドから流離し、数百年かけてアラブ・アフリカ・ヨーロッパに広がった流浪の民です。移動、迫害、いく世代にもわたる旅を経てヨーロッパ大陸の片隅であるアンダルシアに辿りついたロマ民族。彼らのたくましさ、民族の誇りと血の絆、その流浪と迫害の歴史を背負う苦しみの中から生まれたフラメンコ。彼らの生きざまそのものの音楽であるフラメンコを「フラメンコの揺籃」と称されるアンダルシア地方を舞台に描いた情熱のフラメンコ映画です。





ロマの血には音楽が流れており、怒りがリズムを刻み、悲しみがメロディとなって、フラメンコとなることがよくわかります。彼らには音楽がすなわち人生であり、自然であり、生活である。そこには彼らの迫害の歴史も織り交ぜながら、これでもかという位に彼らと音楽が生活の中で切っても切れない関係にあるということを見せます。世界最高のフラメンコ・ダンサーであるアントニオ・カナーレスを主演に迎え、情熱のフラメンコを見事に映像化したこの作品は、セザール賞の最優秀音楽賞を受賞しています。しかし、なんと役の中ではカナーレスが踊る場面は一切なし。娘を失った悲しみに暮れる男という渋い役をその磨きぬかれた魂で見事に演じきっています。この演出は監督の意図する所が如実に表れているかと思います。



オープニングの現代スペインを代表するフラメンコ・ギターの第一人者トマティートと、エジプトのスーフィー歌謡の楽団が、一堂に会するパーティー会場のシーンは圧巻です。印象深いヒターノの音楽とアラブ音楽やアラブ楽器とのジョイントが繰り広げられ、白衣の踊り子がくるくると旋舞をはじめるスーフィーダンスの美しさは官能的でイスラム音楽との興味深い魂のジャムセッションが観られます。



ロマは北インドから流離し、数百年かけてアラブ・アフリカ・ヨーロッパに広がった流浪の民ですからその音楽もタラフ・ドゥ・ハイドゥークスのようなアラブ音楽から、スペインのフラメンコまで、その音楽様式も実に幅広い。アラブ音楽とフラメンコの饗宴はまるでロマの大移動を描いた叙事詩のようです。



フラメンコギターの最高峰に立つトマティートとその仲間が奏でる魂の音楽、 崇高さ漂う修道院の中を響き渡らせるフラメンコギターの名手、トマティートの力強く驚異的かつ情熱的なギターのスピード感、ノリの良さ、テクニックとも凄いの一言!まさに鳥肌もんです!



そして、これぞフラメンコというシギリージャを渋いダミ声で歌うのは1934年へレス生まれのラ・パケーラ。ヒターノの魂=カンテホンド(奥深いヒターノの叫び)をたっぷり聴かせてくれます。そしてエジプト、スーフィ音楽の最後の伝承者である、身も心も捧げるかのごとく歌うアマッド・アル・トゥミ。アンダルシアの真っ青な空に震えながら立ち上がる歌声を持つ偉大なるフラメンコシンガー、ラ・パケーラ・デ・ヘレス。



そして最後はこの映画のテーマ曲「ナシ・エン・アラモ」。ゆったりとしたタンゴ・フラメンコのリズムに乗って歌っているのは、レメディオス・シルバ・ピサという17歳の少女。

"私はさまよう あてもなく風景もなく 私には故郷がないから この指に灯を灯し 魂の歌をあなたに歌う 心の弦をふるわせて 私はアラモの生まれ アラモで生まれた女 私には居るべき場所がない 懐かしい風景も まして故郷などありはしない"

とても17歳とは思えない郷愁を込めて切々と歌われます。エンディングにも流れるこの曲が実に心に染み入り素晴らしい!!
「ベンゴ」が伝える本物のフラメンコの情熱と炎は私たちの心を揺すぶり続け、何かを語りかけてくるに違いない。ガトリフ監督のフラメンコに対する熱い情熱と信頼のもとに集まった「ベンゴ」の最高のミュージシャンたち、フラメンコのルーツがここに終結しています。



トニー・ガトリフ監督の作品には、いつも何千年もの歴史の中から生み出され、ロマ民族と他民族の音楽が融合してできた魂を揺さぶるジプシーの音楽が流れています。最新作『僕のスウィング』ではジプシー音楽とスウィング・ジャズが融合されたマヌーシュ・スウィングを、『ガッジョ・ディーロ』ではルーマ二ア・バルカン音楽を、そしてこの『ベンゴ』ではアンダルシア・フラメンコをストーリー、映像と見事にマッチさせています。“マヌーシュ・スウィング”は、あの世界的に有名なジャズ・ギタリストのジャンゴ・ラインハルトが生んだ音楽です。 ロマ民族には書き文化がなく口承の文化であり常に自らのルーツであるロマ(ジプシー)をテーマに映画を撮り続け、愛情を込めて記録し続けてきたトニー・ガトリフ監督の入魂の傑作です。トニー・ガトリフの映画の俳優・女優たちのその大半が職業俳優ではなくて、ダンサーや演奏家によって演じられたもので、劇中の男たちや女たちの汗臭さや肌のぬくもりがスクリーンを通して肉迫してきて、シンプルな物語の中で心豊かな人間たちの喜怒哀楽や生死の劇的瞬間を存分に描き切っています。毎回出演する多彩なミュージシャンも魅力で、映画ファンだけでなく、音楽ファンにも人気を集めています。



<ヨーロッパのジプシー音楽>
およそ千年前に北西インド方面からヨーロッパに移動してきたと言われる漂泊の民ジプシーは、数百年の時をかけてヨーロッパ各地に分散/定住し、その各々が独自の文化を築いてきた。ジプシーに対する呼称も地方ごとに異なるわけで、たとえばドイツではシンティやツィゴイネル、フランス北部ではマヌーシュ、同南部ではジタン、スペインではヒターノ、イタリアではツィガーノ、イギリスではジプシー、そして東欧~バルカンでは現在はロムと呼ぶのが一般的になっている。古来のジプシー文化を引き継ぎつつも、住み着いた土地の伝統文化や風土に柔軟に溶け込みながら絶妙な混血文化を作り上げてゆくのが彼らならではのやり方であり、音楽もその土地ごとに独自の発展を遂げてきた。
ヨーロッパのジプシー音楽といえば、何はともあれスペインのフラメンコが有名だが、それ以外にも多種多様なジプシー音楽がある。南仏のジプシー・キングスに代表されるルンバ・フラメンコはオーセンティックなフラメンコにラテン音楽のテイストを加えた現代ジプシーのポップスだし、日本公演も大評判だったルーマニアのタラフ・ドゥ・ハイドゥークスに代表されるヴァイオリン主体の東欧ロマ音楽、あるいはセルビアやマケドニアなどトルコ文化の強い影響下にあるバルカン諸国のブラス・バンド音楽も、『アンダーグラウンド』や『黒猫・白猫』などの映画のヒットも相まってにわかに人気を高めている。そして、そうしたジプシー音楽の中でも、音楽的に最も洗練され、西洋社会に広く受け入れられてきたのが、ジャンゴ・ラインハルトを始祖とするマヌーシュ・スウィングであると言えるだろう。

(「僕のスウィング」HPより転載)



『僕のスウィング』

監督・脚本:トニー・ガトリフ

出演:オスカー・コップ/ルー・レッシュ/チャボロ・シュミット/マンディーノ・ラインハルト/ベン・ズィメット /ファヴィエーヌ・マイ
撮影:クロード・ガルニエ



音楽:マンディーノ・ラインハルト/チャボロ・シュミット/アブデラティフ・チャラーニ/トニー・ガトリフ

全編に流れる「マヌーシュ・スウィング」がもう最高!!!
「マヌーシュ・スウィング」とは、フランス中部以北からベルギーにかけて暮らすジプシー=マヌーシュの音楽と、スウィング・ジャズが融合した音楽で、自らもジプシーの血をひく天才ギタリスト、ジャンゴ・ラインハルトによって生み出されました。





▼プロフィール▼
トニー・ガトリフ
1948年9月10日アルジェリアに生まれる。父親はフランス人、母親はアンダルシア出身のロマ。60年代の転換期にアルジェリアを去り、身ひとつでフランスに渡る。サンジェルマン・アン・レイ演劇学校に学び、E・ボンド作クロード・レイジ演出による『救われた人々』で初舞台を踏む。75年に16ミリの白黒映画『La Tete en Ruines』で映画デビュー。83年『Les Princes』で海外で数々の賞を受賞し、世界的にも認められた。この作品はパリ郊外に定住したロマに対して、同調せずに感情移入を抑えてとらえ、批評家の注目を集めた。自らのルーツでもある"流浪の民=ロマ民族(ジプシー)"を永遠のテーマに作品を作りつづけている。「ガッジョ・ディーロ」(97)では、フランスの人気俳優ロマン・デュリスを主演にむかえ、ルーマニアのロマ民族に出会い、魂の音楽と真実の愛に気づき成長していく青年の物語をみずみずしく描き、映画ファンだけでなく多くの音楽ファンも魅了した。本作「ベンゴ」はガトリフ監督が『Corregitano』以来、20年かけて練っていた企画であり、彼の集大成ともいえる作品となった。その功績は世界にも認められ、2000年ヴェネチア国際映画祭のクロージングを飾った。
(「ベンゴ」劇場用パンフレットより引用)



「流浪の民ロマは、形あるものを継承するのではなく、生身の肉体で日々、現実とともに神話的な物語を生きている。...まったくその通りだと思える完璧な解釈をはじめて耳にしました。ヨーロッパの図書館に行くと、中世の時代からロマについて書かれた本がたくさんありますが、どれもロマではない人々がロマンティックに脚色したでっち上げです。また、ロマは何でも適当に喋ってしまうところがありますが、本音はなかなか明かさない。ロマの文化は、そのまま自分が存在することの証となるもので、簡単に喋るわけにはいかない。ロマは今この時がすべてで、過去とか未来という概念を持ちません。過去、現在、未来をすべてひっくるめて、"テハラ"というひとつの言葉で表現してしまいます。昔は墓も持たなかった。精神が解放された後に残った身体は石ころと同じなのです。非常に重要な人が死んだ場合には、遺品もすべて燃やす。現世に生きた痕跡というしがらみをすべて消し去るのです」



アントニオ・カナーレスは、現代の「もっとも模倣されたフラメンコ・ダンサー」だと言われる。この天才ダンサーであるカナーレスがまったく踊りを見せないことについて.....

「ずっとフラメンコを映画に撮りたいと思っていたのですが、フラメンコを耳で聴き、心と身体で感じることはできても、映像できちっと描くことは非常に難しかった。それを克服し、資金を調達するのに時間がかかった。映画にできると思ったのは、(カコ役の)カナーレスとディエゴ役の対比を核にするというアイデアが出てきてからです。カナーレスは、ハンサムで感受性が鋭く、素晴らしいダンサーであると同時に、内面には祖先から引き継いだ苦悩を抱えている。これに対してディエゴは、言葉や身体が不自由な身障者ですが、精神には何ものにもとらわれない純粋さがある。この正反対にある外面と内面の対比ができたところで、映画を作ることにしました」



ダンサーであるカナーレスはまったく踊りを見せず、言語障害があり手足が不自由なディエゴがひたすら踊るのだ。この二人の対比は印象に残ります。


「ディエゴこそ偉大なダンサーです。フラメンコの踊りは、手足を苦しそうなほど捻じ曲げ、折れるかと思うポーズをとり、全身で表現をします。手足が不自由なディエゴは、全身を使ってまさにそういう動きをするわけです。それはもう究極のダンサーといえます」

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