━『スモーク』

 
「世の中で大切なものは、煙のようなもの.....禁煙ョ?!」



Special Thanks ! To Marilyn Monroe with Love.

○o。ウェイン・ワン監督作品『スモーク(1995年、米・日)』。o○



監督:ウェイン・ワン 原作・脚本:ポール・オースター
製作:ピーター・ニューマン、グレッグ・ジョンソン、ケンゾー・ホリコシ、ヒサミ・クロイワ
出演 ハーヴェイ・カイテル/ウィリアム・ハート/ストッカード・チャニング/フォ
レスト・ウィテカー/ジャンカルロ・エスポジート



現代アメリカ文学を代表する小説家の一人ポール・オースター(右:PAUL AUSTER)が1990年の12月25日のニューヨーク・タイムズのクリスマス特集版に実際に書き下ろしたクリスマス・ストーリー『オーギー・レーンのクリスマス・ストーリー』に感銘を受けた中国系アメリカ人ウェイン・ワン監督(左:WAYNE WANG)が、この短編に「感動して、すっかりはまりこんでしまった」ことから始まった。ウェイン・ワン監督が早速、映画化のことでポール・オースターに電話をかけてから、脚本の第1稿までに、3年かかった。ふたりはブルックリン界隈を歩きながら、長い時間をかけて、この映画のことを話し合ったそうです。

「中国人の映画監督、ユダヤ人の脚本、黒人やスペイン人やコーサカス人の俳優という映画はこれまでなかったんじゃないかな。
ぼくとポールはいつもこんな映画を作りたかいと言い合っていた。いろいろな文化がなにげなく混在している街を撮りたいとね。」




場所はブルックリン、時は1990年。街角の名も無いタバコ屋のオヤジ、オーギー(ハーヴェイ・カイテル)。オーギーのタバコ屋には様々ななじみ客が毎日訪れる。最愛の妻を事故で亡くして以来ぱっとせぬ小説家(ウィリアム・ハート)、郊外の寂しい通りで自動車修理工場、といっても一人っきりのそこの主人(フォレスト・ウィテカー)。これに一人の黒人少年(ハロルド・ペリノー)が加わり、この4人を軸に、タバコ屋に集まる男達女達の日常を、過去と現在、嘘と真を巧みに交差させながら進んでゆく。ちょっとした波風はあるものの、物語は淡々と進行していきます。それぞれのエピソードは決して劇的なわけではないが抑えた演技と演出で静かに感動させてくれます。嘘も真もそれなりに味わいがあって、そんないくつもの交差したストーリーの網の目に浮かび上がる人間ドラマがとても心に響いてくる。
That's right!何度でも観たくなる作品というのはこういう作品のことで、1シーン1シーンの、ちょっとした言葉や、表情や、仕草、そんな一つ一つがほんとに愛すべきもので、何度観ようがまた観たくなる映画です。ブルックリンの街の喧騒とか、車の騒音とか、煙草の匂いとか・・そういうものが記憶に心地よく残る珠玉の名作です。ポール・オースターの原作・脚本だけあって、物語には深みがあり、現実とも虚構ともつかない語りに味わいがあるます。いくつもの物語を抱えた男と女が交差する街角の煙草屋。すべての記憶や歳月は煙のようにたゆたい、どこか曖昧さを湛えて行き交う。男達の哀愁、親と子、夫と妻、男と女。一度観ただけでは判リづらいが、過去と現在を、嘘と本当を巧みに交差させながら、変わらぬように見える日常こそが、人生の大きな部分なんだってことを、静かに語ってくれる映画です。 ほろ苦い大人の映画です。見れば見るほど、よくできた素晴らしい作品だと思いますがァ...気づけば、オーギーと作者オースターが”ぐる”になって話を面白くしていくのがオースター流ということでありましょう。

95年ベルリン映画祭金獅子賞受賞。95年度キネマ旬報外国映画ベストテン第2位。



「何が真実かどうかは、問題ではない。もしもストーリー・テリングが人の気持ちを捉えることができれば、そのストーリー・テリングは成功したといえる」

脚本はオースターの短編『オーギー・レーンのクリスマス・ストーリー』(邦訳は新潮文庫『スモーク&ブルー・イン・ザ・フェイス』に所収)をモチーフに彼自身が執筆。



「信じる者が一人でもいれば、その物語は真実になる.....」

ハーヴェイ・カイテル/オーギー・レン(タバコ屋の店主)VSウィリアム・ハート/ポール・ベンジャミン(小説家)の名演!は、まさにポール・オースターとウェイン・ワンそのもの。

「あの薄暗いブルックリンのスタジオで閉じ篭って書いてたポールを、街に連れ出したことぐらいが僕のやったことさ」




悪ガキがそのまま大きくなったようなオヤジだ。たたけば埃の一つや二つありそなそれでいて、つぶらな瞳。彼のライフワークは、一日に5分とかからないが、過去12年間、毎朝7時きっかりにアトランティック・アベニューとクリントン・ストリートの交差点に立ち、全く同じ場所を一枚ずつ写真に撮り続けてきたのである。いまやその作品は四千枚以上に達していた。1月1日から12月31日までの写真がきちんと順番に並んで、その一枚一枚の下に、几帳面な字で日付が書き込んであった。何千枚とある同じ場所で同じ時刻に撮影された写真。しかし、彼が言うように、町は毎日その表情を変えている、一日だって同じ顔の日はない、晴れている日、曇っている日、暑い夏の日、凍える冬の朝...同じ写真は1枚としてない。そういうオーギーのライフワークには、愛するブルックリンへの思いが籠められている。



「どれも同じ」と見せられたアルバムを初めのうちはいい加減に繰って、オーギーから「ゆっくり見ないと何も見えてこない」と叱られたりしていたポールが、その1枚にさり気なく写った亡き愛妻の姿を発見する。深い悲しみに襲われ声をあげて泣くポール....。最愛の妻を不幸な事故で失って以来ペンを持てずにいる作家のポールだった....。
私は、人が泣くシーンが好きです。特に男が泣くシーンが好きです。この映画で幸せだった時間、そして悲しい過去が交錯して思わず声をあげて泣くポールの涙は、極上の”泣き”です!これだけで、この映画は傑作であると確信します。
偶然にせよ、最愛の妻の日常の一齣を記録していてくれたオーギー。都会の中でのうら寂しい中年の一人暮らしの男二人の友情と連帯感、決して家庭の愛では満たされないだろうダンディズムを持つ男同士の絆を通して互いの痛みを優しく見守り、尊敬しあうことで、二人は強く結ばれているのです。



そして、二人でアルバムを見ながら語った次の日の朝も、またいつものようにオーギーはシャッターを切ります。
そして、作家ポールには書く力が蘇ってくるのです。




店の常連で作家のポール・ベンジャミン(ウィリアム・ハート)は数年前に妻を強盗の流れ弾で失って以来、仕事が手につかない。ぼんやりとして車にはねられそうになったポールはラシードと名乗る少年(ハロルド・ペリノー・ジュニア)に助けられ、彼は命の恩人ラシードを感謝の印に家に泊めてやる。ラシードには、2
つの秘密があった。一つはチンピラ強盗が落とした6000ドルの大金を隠し持っていた。もう一つは、幼い頃蒸発した父親を探していた。少年は数日後に出ていくが、数日後にその叔母が来た。彼の本名はトーマスで、行方不明で心配しているという。



○ハロルド・ペリノーJr/ラシード・コール/トーマス・ジェファーソン・コール(ポールを助け家に世話になる黒人)

ポールを再訪したトーマスは、実は強盗現場で落ちていた六千ドルを拾ったのでギャングに追われていると明かす。ポールはトーマスを家に置き、オーギーに頼んで店で使ってもらう。トーマスはオーギー秘蔵の密輸キューバ葉巻を台無しにしてしまうが、例の六千ドルで弁償するというのでオーギーも許す。実はトーマスは十二年前に自分を捨てた実の親を探していて、やっと探し当てた。



○フォレスト・ウィテカー/サイラス・コール(義手の自動車修理人)

彼の父サイラス(フォレスト・ウィテカー)は郊外の寂しい通りで自動車修理工場を買い取ったばかりだった。サイラスには妻も子供もいた。過去を悔やみながらも新しい家庭を築き幸せそう....。その姿に触れ、言い出せないトーマス。黙って立ち去るトーマスの心は葛藤する。
しかし、チンピラ強盗に追われて、身を寄せた先はやはり父親の元だった。トーマスは自動車修理工場に行き、本名を隠して掃除のバイトをする。



自分の子供とも知らずに、得体の知れないトーマスに不信感を持っていたサイラスだったが、次第に打ち解け、悲しい自分の過去を話すようになっていた。左腕の義手には、悲しい秘密が隠されていた。愛する女性を運転ミスで殺してしまったこと。幼い子供を残して蒸発したこと.....。
そんなある日、トーマスの安否を気遣うポールとオーギーが訪れる。
何かわけありの様子に問い詰めるサイラス。堰を切ったように語り始める少トーマスの語り始めた衝撃の事実に.....。親子の対面を果たす時が来たのだった。




○ストッカード・チャニング/ルビー(オーギーを訪ねてきた元恋人)



18年前にオーギーを裏切り、別な男と結婚をした恋人、ルビー。アイ・パッチが強烈な名キャラ!オーギーとの間に娘がいたこと、その娘は麻薬中毒で、しかも妊娠して大金が必要との事でオーギーの前に現れたのだった。オーギーは昔の事として冷たくあしらうが、娘が逢いたがっていると食い下がる。



二人は娘の元へ、初めて逢う父親の前で娘は母親ルビーを雌犬とののしり、「子供は堕した、ガタガタ言わないで」と二人を追い返す始末....。この映画、最悪の名シーン!ロンドンのスラムで暮らす家族の、ドメスティックバイオレンスの吹き荒れる滅茶苦茶な生活をリアルに描いた、性格俳優ゲイリー・オールドマンの初監督作品「ニル・バイ・マウス(1997)」を思い起こさせるな!



○アシュレイ・ジャッド/フェリシティ(ルビーの娘)

ポールがサイラスに聴かせる傑作な与太話!「雪山での出来事の話」。


「よく聴いて。今から25年前、ある若い男がたった一人でアルプスにスキーをしに行った。しかし、途中、運悪く雪崩に遭ってしまい、若い男は雪が呑み込み遺体はずっと見つかることはありませんでした。その時、彼には幼い息子がいました。
それから月日は過ぎ、その子も父と同じようにスキーヤーになった。そしてある冬の日のこと、その息子は雪山を一人で滑り降りる為に、同じ山に行きました。 
その息子は途中食事をするために休憩をとります。チーズ・サンドの包みを開きながら、息子は足元に何かあることに気付きます。そこには氷付けになった若い男の死体が閉じ込められていたのです。息子はその男をじっと見て自分によく似ていることに気付いたのです。死体は氷の中で保存されて何の傷もなく、まるで生きているようだった。その氷付けになっていた若い男は、それを見つけた男の父親だったのです。父親は雪崩に遭ったときの姿のまま残っていました。息子は、深いショックを受けたと思います。なぜなら見つけた時の父親は自分よりも若かったのですから。」




晩秋、ポールにニューヨーク・タイムズ紙がクリスマス向けの短編を依頼してきた。ネタがないと困るポールに、オーギーは自分の14年前のクリスマスの体験を語って聞かせる。帰宅したポールは『オーギー・レーンのクリスマス・ストーリー』の原稿に取りかかる。
オーギーが、作家のポールにとっておきのクリスマス・ストーリーとして語るこの物語は、映画ではエンディング・タイトルのバックで、トム・ウェイツの歌う「イノセント・ウェン・ユー・ドリーム」と共に改めて白黒映像で流れます。極上の与太話をお楽しみあれ!

「私はちょっと黙って、オーギーの顔に、いわくありげな笑みが広がっていくのを見つめた。たしかなことはわからない。でも、その瞬間彼の目に浮かんだ表情は、何とも意味深長に思えた。何かひそやかな悦びをたたえて、ぎらぎら輝いているように見えた。私ははっとした。もしかしたら、何もかもオーギーのでっち上げじゃないだろうか?おい、僕をかついでいるのか、そう問いつめてみようかとも思ったが、やめにした。どうせまともな答えが返ってくるはずはない。まんまと罠にはまった私が、彼の話を信じた---大切なのはそのことだけだ。誰か一人でも信じる人間がいるかぎり、本当でない物語などはありはしないのだ。」
(柴田元幸訳『オーギー・レーンのクリスマス・ストーリー』から引用させていただきました。)




Special Thanks ! To Harvey Keitel and William Hurt with Love.



挿入曲はスタンダード・ナンバー『煙が目に染みる』のカバー・ヴァージョン。ラストのモノクロの『オーギー・レンのクリスマス・ストーリー』で流れる名曲は、 トム・ウェイツの『Innocent When You Dream』です。トム・ウェイツはもう一曲『Downtown Train』も歌っている。



【ブルー・イン・ザ・フェイス】
監督:ポール・オースター、ウェイン・ワン
製作:グレッグ・ジョンソン、ピーター・ニューマン、ダイアナ・フィリップス
製作総指揮:ハーヴェイ・カイテル、ボブ・ウェインスタイン、ハーヴェイ・ウェインスタイン
脚本:ポール・オースター、ウェイン・ワン



この作品は、「スモーク」の続編ではなく、「スモーク」から出発している映画です。名作「スモーク」の余韻覚めやらぬ撮影直後、可能なキャストをそのまま使って、短時間(確保できた撮影時間はたった3日)かつ低予算で2本目の映画が撮れないかという案からきています。そして、「スモーク」での脇役や、ゲストを盛り込んで、「ブルー・イン・ザ・フェイス(顔が真っ青)」になるまでセリフを喋らせるというわけで、それぞれの出演者のためにシチュエイションをいくつか考えだし、それぞれをフィルム1巻分(約10分)の長さにして撮影されたもので、即興的なアドリブの効いた演技と、時折挟まれる、インタビュー風のブルックリンにまつわるエピソードの数々が滅法面白い。なんせマスコミによってこの映画の撮影の噂が広められ、この映画に”参加”することが映画俳優たちのはやりとなったそうです。敬愛するジョン・ルーリーの演奏シーンやルー・リードの眼鏡与太話(でもかなり本気!)、ジム・ジャームッシュの禁煙話やマドンナの歌う電報配達女...には驚喜しました。
私は、この映画の存在を知らず、セシルンさんの日記で教えてもらいました。Special Thanks !せしるん さんU^ェ^U

出演:ハーヴェイ・カイテル/ジャレッド・ハリス/ジャンカルロ・エスポジート/マイケル・J・フォックス/ジム・ジャームッシュ/ミラ・ソルヴィノ/マドンナ/ルー・リード




監督・脚本:ポール・オースター(初めての単独監督作品)
出演:ハーベイ・カイテル/ミラ・ソルビーノ/ウィレム・デフォー/ヴァネッサ・レッドグレイヴ

ekato

”火をかしてください ぼくの暗い心に
火を灯してください あなたの赤いマッチで”.....。Special Thanks MAYUMI ITSUWA!U^ェ^U





『時代おくれの酒場』Special Thanks .Tokiko Kato U^ェ^U


この街には不似合いな
時代おくれのこの酒場に
今夜もやって来るのは 
ちょっと疲れた男たち
風の寒さをしのばせた
背広姿の男たち

酔いがまわればそれぞれに
唄の一つも飛び出して
唄を唄えば血がさわぐ
せつなさに酔いどれて
気がつけば窓のすきまに
朝の気配がしのびこむ

ああどこかに何かありそなそんな気がして
俺はこんな所にいつまでもいるんじゃないと
この街には住みあきて
俺の女もどこかへ行った
あいつ今頃どこでどうして
どんな男といるんだろ
夢のにがさも知りもせず
夢をさがしているんだろう
ああどこかに何かありそなそんな気がして
俺はこんな所にいつまでもいるんじゃないと



Special Thanks ! To Kazuko Matsuo with Love.




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