ヌーヴェル・ヴァーグ最期の１ピース，ジャン・ユスターシュ監督の『ママと娼婦』

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2003年10月02日

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ヌーヴェル・ヴァーグ最期の作家ジャン・ユスターシュ監督の『ママと娼婦』をご紹介いたします。
監督：ジャン・ユスターシュ　出演：ジャン＝ピエール・レオー、ベルナデット・ラフォン、フランソワーズ・ルブラン　
　全編、人間の視野に最も近い50mmレンズを用い、白黒フィルムにて撮影、全編同時録音。音楽は登場人物が聴くレコードのみ、といういかにもヌーヴェル・ヴァーグ的な方法で作られた傑作です。ジャン・ユスターシュ監督は８１年にピストル自殺しており、かなりヘビーな映画と思い心身の状態が良い時に観るべき映画として鑑賞の機会をうかがっていた映画でした。『ママと娼婦』というタイトル通り、二人の女の母性と娼婦性の両義性の間を揺れ動く青年の苦悩と挫折感を演じるジャン＝ピエール・レオーの等身大の熱演は必見です。トリュフォーの＜アントワーヌ・ドワネルの冒険＞シリーズの一本かと錯覚するほどです。３時間４０分にも及ぶ、財産も仕事もなく、冗舌な言葉だけを唯一の資産として生きているアレクサンドル（ジャン＝ピエール・レオー）と母性的な年上の女、娼婦のごとき若い看護婦の恋愛模様が、内省的というよりもただだらだらした展開で描かれているだけなのに、観ているうちに麻薬的に引き込まれてゆく面白さです。これはもう必然的に煮詰まっていく男女関係の修羅場を執拗に描いて比類がないんじゃないんでしょうか。彼ら三人の孤独、諍い、恐怖は過剰に錯綜し始め、彼らが絶望的に疲れてゆく様は、同時録音という事もあって生々しい生活音とともにリアリティを感じさせ始めるともう堪らなくなってきます。ほとんどモノローグのようにかみ合わなくなる会話が不協和音を奏ではじめると仏語の言葉は魔術的な音楽になり陶酔を呼び始めるのです。ヌーヴェル・ヴァーグの監督に共通のとめどない「会話」の心地よさなんでしょうか。この心地良さお好きな方には最高の傑作です。ヌーヴェル・ヴァーグ最期の１ピースが嵌ったと言う感じでしかもヌーヴェル・ヴァーグ私的最高傑作です。

わるい仲間(1963年)
サンタクロースの眼は青い(1966年)
豚(1970年)
ナンバー・ゼロ(1971年)
ペサックの薔薇の乙女 1、2(1968年，1979年)
ママと娼婦(1973年)
ぼくの小さな恋人たち(1974年)
不愉快な話 1. 虚構、2. ドキュメント(1977年)
アリックスの写真(1977年)
ヒエロニムス・ボスの快楽の園(1979年)
求人(1980年)

1981年11月5日、パリの自宅にてピストル自殺。
その早過ぎる死が悔やまれてならない伝説的な映画監督である。

ekato