カテゴリ:70年代男女混合グループ
72年に解散したペンタングルに在籍していたジョン・レンボーン(44年ロンドン生まれ)が同僚のジャッキー・マクシー(43年ロンドン生まれ)を誘って新たに立ち上げたグループによるスタジオ1作目。 残りのメンバーは、ジャズ・ロックの方面にもしばしば登場する木管奏者のトニー・ロバーツ、アメリカ人ながら数多くの英国人ミュージシャンと共演しているスー・ドラハイム(49年オークランド生まれ)、そしてインド人タブラ奏者のケシャヴ・サテ。 自身の名を冠したリーダーグループながら、決してギターオリエンテッドにはしない。瑞々しい歌声やフィドルと木管のアンサンブルを軸にし、超絶技巧ギタリストとしての姿を見せているソロ名義作と比べればここでのプレイは幾分おとなしめだ。それでも繊細なタッチ、柔らかな音色、絶妙な間合いなどはさすがと言うしかない。 専任シンガーを擁していながらも、インストが3曲。ジャッキー以外の3人は本職は歌ではないというのに、ジャッキー独唱は7のみ、残る6曲は重唱、おまけに10はアカペラ四重唱の形を取っている。 たしかにジャッキーほどの歌唱力はない。よく聴けば微妙に音程が外れている人もいる。でも何だろう、この心地よさ。1人1人は取り立ててうまくないのに、みんなで歌うことでここまで昇華させることができるなんて、ある種ケミストリーと言えるかもしれない。 イメージはジャッキー:ソプラノ(と言うほど音程は高くないからメゾソプラノのほうが妥当かな)、スー:アルト、ジョン:テナー、トニー:バス。中でもスーの声がかなりツボだ。わりと輪郭がはっきりしていて、けっこうかわいい声質(ついでに顔もかなりかわいい)。それでいてフィドルは中~低音で重厚に奏でることが多く、そんなギャップもナイス。 そのフィドルと各種木管の絡みも聴きどころの1つ。1でのフィドル+リコーダー、4でのフィドル+ピッコロ、5でのフィドル+オーボエ、9でのフィドル+フルート…。とりわけほぼユニゾンで進行する9は白眉ものだ。 ケシャブ・サテによるタブラも忘れられない。この人がいなかったら、どこかしっくり来ないゆる~い作品になっていたことだろう。 この後、80年にもう1枚制作し、ライブ盤を数枚出したのち解散(自然消滅?)。2作目も本作に負けず劣らずの好盤である。ライブは2作目のときの編成のものしか残っていないのだろうか? 1作目での編成のライブも聴いてみたいところだ。 女性2人による楚々としたハーモニーの1は人気の高いアイルランド民謡。ブラックウォーターというのはアイルランド東部にある地名であり、川の名前。ジミー・ペイジもレッド・ツェッペリンのファーストで“ウォーター”を“マウンテン”にして取り上げている。ペイジはバート・ヤンシュのバージョンを参考にしたようだが(聴き比べてみればすぐわかる)、実はペイジとジョンはアートスクールで級友関係にあった。ZEP4作目にゲスト参加するサンディ・デニーもそうで、なかなか興味深いエピソードではある。 2はインスト(後半部はラララ…と歌っているが)。曲名からするとドイツ方面の民謡? ブラックモアズ・ナイトが1作目で似たメロディの曲をやっている。 3はベドラム(精神病院のこと)に監禁された女性を主人公にしたもので、4人で歌っている。歌詞によれば、両親によってベドラムに送られたこの女性は自分が狂ったなどとは思っておらず、そこで恋人が来るのを待っているのだという。少年が主人公の“ボーイズ・オブ・ベドラム”という関連曲もあり、こちらの“男性版ベドラム”はスティーライ・スパンやテンペスト(もちろんプログレ方面のあのバンドとは同名異バンド)等が演奏している。 4はメドレー形式のインスト。優雅でたおやかなダンス。 5はイングランドの酒飲み歌で、ビール作りの過程を擬人化して歌っている(ちなみに“John Barleycorn”は英和辞書にも載っている)。 この曲を有名にしたのは間違いなくトラフィックだろう。ほかにも取り上げているミュージシャン/グループは多く、定番曲の1つということがわかるが、おもしろいのはアレンジが千差万別ということ。ここでのバージョンは、ペンタングル時代にやっていたイタリアのトラッド曲を間に挟み込んだ凝った作りになっていて、基本のメロディ進行こそロイド御大やトラフィックなどと一緒だが(ただしスピードを速めているためちょっと気付きにくい)、まったくオリジナルだ。輪唱っぽい四重唱のアレンジも良い。 6はフランス民話の「狐物語」がネタになっていると思しき曲。ずばり“狐のルナール”(Reynard The Fox)なる曲も存在していて、これ以外にも民話や童謡にヒントを得たトラッドは多数存在するのだろう。 さてこの“レイナーディン”は求愛の歌で、ジャッキーとジョンが落ち着いた歌唱を聴かせている。ジャッキーはこの曲を再編ペンタングルでもやっていて、そこではバート・ヤンシュとデュエットの形。 7は航海に出たまま戻らない恋人の帰りを待ち続ける女性を歌った曲で、マディ・プライアとゲイ・ウッズによるアカペラが素晴らしいスティーライ・スパンのバージョンがよく知られている。主張はしているけれどしゃしゃり出てはいないバックの演奏に載せて、ジャッキーが淡々と歌う。 死神と乙女の対話である8は、歌のパートのほうも男性2人対女性2人の構図。ジョンと違って歌と楽器の同時進行はまず無理なスーとトニーだが、ここでのスーは歌っているときでもフィドルを鳴らしっぱなし。そのフィドルが曲のイメージ同様にかなり重く、影の主役と言えそうな弾きっぷりだ。 9は2曲のインストをつなげてメドレーにしている。アイルランドとフランスの連合軍は1691年、アイルランド東部のオーグリム村(Augrhamはスペルミス。正しくはAughrim)にて英国軍に敗れた。そんなアイルランドの没落の1ページを綴ったこの曲では、非常に緊張感の高い演奏を披露している。 ラストの10はいわゆるジーザスもの。最後のほうでこれまた重いフィドルが切れ込んできて、荘厳なまま終了。ヘッドフォンを使えば、4人それぞれのパートを追いかけて聴くという楽しみ方も可能だ。 ロセッティのジャケが茶系統なら、音のイメージもちょっとくすんだ茶色。風は冷たいけど日差しは暖かい晩秋の昼下がりに聴きたくなるような、とても優しい雰囲気を持った作品。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
[70年代男女混合グループ] カテゴリの最新記事
|
|