テーマ:社交ダンス(8310)
カテゴリ:映画のはなし
今まで生きて来た中で、一日だけ、一番幸せだった日をもう一度味わえるとしたら、どの日を選びますか。世界中に数えきれないほどある恋愛映画の中で、とても印象に残っているのが今日ご紹介するビフォア・サンライズ(邦題:恋人までの距離)です。
二人の出会いは、ヨーロッパを横断する列車の中。アメリカからやって来たジェシーは、ヨーロッパを失恋旅行中。一方、ソルボンヌ大学に通うセリーヌは、ブタペストに住む祖母を訪ねた帰りでした。 同じ車両のドイツ人夫婦の口喧嘩に辟易して席を移動して来たセリーヌに、ジェシーは「何の本を読んでるの?」と話しかけます。会話が弾んで、意気投合し、このまま別れるのは残念だと考えたジェシー。 「すごくばかみたいなんだけど、いわないときっと後悔すると思って。もしよかったら、僕とウィーンの街を歩かない?明日の朝の飛行機でアメリカに帰るんだけど、ホテルに泊まるお金がないから、一晩中歩くつもりなんだ。」 彼女は、好奇心を見せます。 「こんな風に考えてみて。これから10年後,20年後、君は結婚していてこう思うんだ。もし、今まで出会って来た誰かと、あのときこうしていたらどうなっただろうって。それをタイムマシンに乗って、いま、体験できるんだよ。」 こうして二人は、ウィーンの街を歩き始めます。レコード店、遊園地、宮殿、墓地、川沿いの道、カフェ、教会。幻想的な夜の街並は、どれ一つ取っても、その一瞬だけで一生忘れないような、美しい想い出を紡ぎ出し、二人だけのタペストリーが織り上がっていきます。 この映画は、会話だけで成り立っていて、それを彩るように、ジプシー占いや、即興詩人、ストリートダンサーたちが登場します。バックに流れるベートーベンやヴィヴァルディ、バッハもとても効果的にウィーンの美しい町並みを引き立たせています。 次第に強く引かれあう二人ですが、どこかに、「長距離恋愛は無理」という考えがあって、また会う約束が出来ません。この美しい想い出を壊してしまいそうだからです。そして、まだ若い二人は、漠然と、「これから無数に訪れる出会い」を信じています。ひょっとしたら、これが一生に一度の大切な出会いかもしれないとは考えつかないんです。 夜が開けて、別れの時間が迫ってきます。二人で一晩中歩いた場所が、フラッシュバックで映し出されます。公園、船のテラス、広場、石畳に置かれたベンチ、朝日に照らされて夢から覚めたように、そこに二人の姿はありません。 この映画は、1995年ベルリン映画祭銀熊賞受賞作品で、リチャード・リンクレイターがベルリン国際映画祭監督賞も受賞しています。セリーヌ役のジュリー・デルピーは、ジェシーにいわせると、ボチチェリの絵画の様に美しく、ジェシー役のイーサン・ホークも、どこかに少年のようなあどけなさが残る美青年です。 2004年、この続編が公開されました。「ビフォア・サンセット」、9年後の二人の再会を描いています。同じ役者が、実際にそれだけの年月を経て出演しているので、とても現実味があります。日本では公開されなかったようなので、さっそくDVDを買って立て続けに2回見ました。 舞台はパリ。前作よりもさらに短い時間しか一緒にいられない二人は、あの一日がとても大切な一日だったことを、認識し合います。 みなさんにとっての、大切な一日はいつでしょうか。それは、これから訪れるのかも、しれませんね。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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