カテゴリ:アート
千葉県立美術館としては、本当に久しぶりの特別展。今年は予 算が何とかついたのか。それでも三鷹市のあとに巡回させても らったものなのかと思うとちょいっと寂しい。 さて、このユトリロ展。一昨年、高島屋で見たものとほとんど 変わらないという印象。同じ絵も数点出ている。今回の展覧会 の構成も、母ヴァラドンと義父ユッテルとの関係。妻リシュー との関係などを中心に解説されている。 最初に「白の時代」に描かれた同じ構図の「ノルヴァン通り」 の絵が3枚並んでいた。それぞれ比較するとその絵を描いた 時々のユトリロの精神状態を察することができて興味深い。八 木コレクションの作品がいちばん落ち着きを感じることができ る。 ちなみに、「白の時代」とは、1910~1914年頃の作品で、家々 の白壁の表現に石灰、鳥の糞、卵の殻、砂などを取り混ぜて、 独特の肌触りまで感じさせる作品を描いた時代。ちょうど母ヴ ァラドンと義父ユッテルが結婚して、ユトリロの絵の売買を取 り仕切るまでの頃に白の時代は終わる。そして、そのあと、色 彩の時代(1920~1955)がやってくる。 確かに寂寥感や孤独感を感じさせる「白の時代」の作品もよい が、初期の「色彩の時代」にも、スコーンと飛びぬけたように 明るい空と光がまぶしい目を見張るような作品がある。ブルー の中にサーモンピンクが浮かび上がる空のグラデーションの美 しさや、青い空にぽっこりと浮かぶ白い雲などは清々しい。 ただ、雑然としたタッチで大きなお尻の女性が描かれた作品に は、心が惹きつけられないのであるが、貨幣製造機としてみな され、一杯のワインを飲むために絵を描き続けたユトリロの置 かれた状況を考えるとかえって哀れさを感じてしまう。 1935年に12歳年上のリシューと結婚した後は、同じ「色彩の 時代」でも特に「晩年の時代」と呼ぶそうである。リシューは、 ユトリロに絵葉書を見て描くのを禁じ、高い値がつく白の時代 の頃の絵を模写させたのである。それでも、例えば「サノワの 風車、雪景色」(1940年)など、平穏と安定を感じることので きる美しい作品も残る。 「ラパン・アジル」など、もう何度見たか分からないほど、見 ているのだが、それでも心、引きつけられるユトリロ展であった。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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