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つまずく石も縁の端くれ

つまずく石も縁の端くれ

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2010年07月04日
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カテゴリ:アート
有元利夫展.jpg

梅雨空の湿った空気は不快だが、逆に庭園美術館の木々は緑が鮮やかで光り輝いて美しい。一歩、洋館の中に入ると、ひんやりとした清々しさが漂う。冷房のありがたさを感じるのだが、もうひとつは、有元の絵が醸し出す雰囲気のおかげでもあると思う。

私は、毎年2月末の有元の命日前後に、三番町の小川美術館(弥生画廊)で開かれる有元の展覧会に出かけている。美術館からお知らせの絵ハガキが届く。ただ残念なことに今年は行きそびれてしまったので、この展覧会はグッドタイミング。

小川美術館も、重厚なドアをくぐり、暗い廊下を経て、辿り着く展示スペースは胎内めぐりか洞窟を思わせる。この空間は有元の絵にピッタリな趣であるのだが、今回の庭園美術館も絵に描かれたひとりひとりの人物が、まるでこの洋館の住人で、我々を出迎えてくれるように感じられる。そう、この雰囲気は2年前の舟越桂の「夏の邸宅」と同じである。

外光を遮ったほの暗いエントランスにいきなり、有元のしっくいのようなフレスコ画が現れる。あの螺旋階段を昇る女性を描いた「花降る日」という絵だ。舞い落ちる花びらが、散華のようで美しい。振り返ると、天にかけられたような黄色いはしごを登る人物を描いた「厳格なカノン」がある。空の白い雲の形がおもしろい。

次の部屋には藝大の卒業制作「私にとってのピエロ・デラ・フランチェスカ」がある。派手な色遣いとまだまだ堅い人物である。その後、年を追うに従って、だんだんと柔らかく、浮遊・飛翔する人々の作品が登場してくる。画面には曙光が差し、花々が散り始める。この頃の明るい色遣いの作品が好きだ。

80年代になると、病気との闘いもあったのだろうか、画面も暗い色調が中心になってくる。最後の大作、「出現」は山越阿弥陀図に通じるという説があるが、なるほど、有元は自分の死期を予測して描いたのかもしれないと思った。しかし、生まれたばかりの子どもを残して38歳という若さでの夭逝は、さぞ無念であったことだろう。


私が有元の絵を知ったのは、宮本輝の小説のカバー絵にも使われ始めた頃で、すでに有元の死後であった。その後、東京ステーションギャラリーの展覧会で、はじめて実物の絵を見たことを思い出した。それ以来の有元ファンであるが、今回の庭園美術館での展覧会は素晴らしい環境の中でまとまった作品を見ることができ、今年の夏いちばんの思い出となりそう。





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最終更新日  2010年07月04日 09時50分24秒
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