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安原一式

 
 
 
 
 
     安原一式(やすはらいっしき)

 安原一式

勝手にインプレッション

注:安原製作所は、2004.2.29をもって閉鎖されました。
安原一式に関する有用なレストア情報を、ビュッカーさんが詳細にレポートされています。是非!

初めてこのカメラのことを知ったとき、まず「変った名前だなあ」と思ったことを覚えている。なにせ、漢字の名前のついたカメラなんて、そう滅多にお目にかかれるものではない。
そもそも、どうして安原一式を手に入れようと思ったのか、その動機をどうしても思い出せないのだが、たしか露出についてもっと勉強したいと思い、その為にはマニュアルカメラを使ってみる必要がある、ならばレンジファインダーが好適ではないか・・・そんな根拠の薄い理屈だったような気がする。ちなみに、その当時すでにベッサの存在は知っていたが、あまりにもプラスチッキーで所有欲を刺激しない外観にがっかりして、それならば安原一式でしょ、という思考回路で辿り着いたのだと思う。

怖いもの見たさで手に入れた一式だったが、それまでAF任せの撮影しかした事がなかったエンゾーにとって、ピント合わせも絞りもシャッタースピードも、全部自分で決めるという作業は未知の世界であった。正直、使いこなせないで宝の持ち腐れになるのではないかという不安があったのだが、意外にも、無骨な鉄の塊は初心者に寛容で、むしろ心地よい撮影テンポと緊張感を与えてくれた。エンゾーは、すっかり夢中になった。

安原一式のことを知っている人は、間違いなく、ある程度のマニアだろう。某大手光学メーカーから独立した安原氏が立ち上げた、世界一小さなカメラメーカー、それが安原製作所である。そして、記念すべき第一号のカメラが、安原一式という訳だ。
販売形態が当時としては画期的で、安原製作所のHPでのみ予約が受け付けられた。今でこそネット上では様々な製品が販売されているが、楽天市場もなかった時代に世界中から注目を浴びた一式は、ネット通販のさきがけと言っても過言ではない。

接眼部
(デフォルトでは遠視の人しか使えないと言う、困ったファインダー。実用するためには、コンタックス・アリア用のアイピースと視度補正レンズを装着してやる必要がある。せっかくの等倍ファンダーの像が小さくなるのがもったいないが)

ところで一式は、Lマウントを採用したカメラである。レンジファインダーに馴染みのない方にとっては、すでにこの段階でつまづく。現にエンゾーも、安原一式を使うまでは、世の中にLマウントだのMマウントだのと言うレンズの規格がある事すら知らなかった。

平たく言うと、その昔隆盛を誇ったドイツの老舗カメラメーカー「ライカ(ライツ)」が採用していたマウントが、L(=ライカ)マウントである。当時、世界中の弱小カメラメーカーは、こぞってライカのカメラとレンズを真似したので、世にLマウントのレンズとカメラがうじゃうじゃ氾濫した。
それを横目に、ライカはねじ込み式でレンズ交換が不便だったLマウントを廃し、ワンタッチで付け替えられるバヨネットを採用した「M型ライカ」用の新しい規格「Mマウント」を発表する。
その結果、
『MマウントボディーではL/M両マウントのレンズが使えるが、
LマウントボディーではMマウントのレンズは使えない』
というややこしい状況が生まれた。

そういう訳で、Lマウントである一式では、Lマウントレンズしか使えない。なにぶんにもクラシカルなレンズばかりなので、一見すると、写りも期待できそうにない。
ところが、安原一式ではじめて撮った写真を見て、エンゾーは軽いカルチャーショックを受けた。そこに写っていた風景は、それまでエンゾーがどのカメラとレンズでも撮った事もないような、解像感あふれるシャープで繊細な仕上がりだったのだ。このことが、「技術は常に進歩するとは限らない」という事に気付く大きなきっかけになった。

にわかにLマウントづいたエンゾーは、めぼしいLマウントレンズを片っ端から物色した。フレアやゴーストが嫌いだったので、年代モノのLマウントには抵抗があった。そこで、コシナのフォクトレンダーブランドのレンズに目をつけ、ヘリアー50mmF3.5、カラースコパー35mmF2.5を立て続けに入手し、バシバシ撮りまくった。どちらも期待を裏切らない、文句のない描写だった。

一式と秋月
(一式と秋月。兄弟機で、大きさがかなり違う。)

さて、とても楽しくて所有するヨロコビもある安原一式なのであるが、ただ一点、致命的な欠点がある。被写体によって、光線引きと見紛うような派手なフレアが、結構頻繁に出現するのである。

エンゾーの一式は、この症状で二度、メーカー送りとなった。一台目は新品交換となったが、送られてきた二台目は、最初の個体よりもさらに症状がひどかった。さすがに困り果て、再度メーカーに送ったところ、予想外の長期入院となり、その後半年に渡るテストの結果、安原製作所から非常に残念な回答が送られてきた。

要約すると、「この症状は、どうやら内面反射によるのもので、しかも構造上、防ぎようがありません、面目ない」とのこと。
そ、そんな御無体な・・・
万事休す。こうして、安原一式はエンゾーの「常用お散歩カメラ」から外れたのであった・・・

上記のような理由で、写真を撮る道具としての安心感は、ベッサの方が数段上である。しかし、不思議と「いい写真が撮れそうな気がする」のは、なぜか安原一式の方なんである。
これでフレアさえ出なければ・・・いや、それは言うまい。


【2004.2.30追記】
安原一式の黒モデルが、我が家に送られてきた。

そもそも安原製作所が閉鎖宣言を出したその日、HP上で在庫一掃セールが始まったのだが、その時にこの「一式ブラック」も100台だけ出た。ブラックモデルはかなり前に製造を終了していた製品だが、レストア用として取ってあった部品を組み上げて、製品として売り払う事にしたとのこと。
通常の一式よりもかなり高かったブラックモデルが3割引とあって、セール開始と同時に注文が殺到、エンゾーも電話で問い合わせたが時すでに遅く、なんと一日で全部売れてしまった後であった。

ところが、あと一週間でいよいよ工場閉鎖という時になって、そのうちの一台がキャンセルになり、エンゾーのところに「保護依頼」が。これも何かの縁と、引き取る事にした。

そう言う訳で、文字通り安原製作所最後の一台が、これである。


ちょっとあざといくらいクラシカルだったシルバーモデルと比べ、こちらはぐっと精悍さが増している。巻き上げレバーや巻き戻しクランク、シャッタースピードダイヤルなどのパーツがシルバーのままなので、ライカ風に言うと「逆パンダモデル」になるのか?

あまり期待せずに撮影してみたところ、今までさんざんエンゾーを悩ませてきた正体不明のフレアが、この個体ではほとんど見られなかった。また、シャッターのフィーリングが今までの二台とは別物のように軽く、切れが良かった。最後の最後で当たりを引いたようだ。
それにしても、現代の工業製品とは思えないほど個体差がある。

ちなみに、写真に写っている平井製作所謹製の本皮ハードケースは、今では製造中止になっているので、残念ながらもう入手不可能だ。一昨年オーダーしといてよかった・・・。

最後に・・・信頼できる筋によれば、安原氏が「一式を真似した」と激しく糾弾していたコシナのBESSAシリーズの雛型は、一式のプロジェクトがHP上で公開されるよりも明らかに早い時期から計画されていたそうである。
 
 
 
長所

○古いカメラを知らない世代にも、どこか懐かしいフォルム。独特の雰囲気がある。
○いまどき珍しい全金属ボディは、ヒンヤリずっしりとして、持ってとても落ち着く。
○素通しのファインダーは、等倍ゆえに両目で被写体を見る事が出来て新鮮である。
○Lマウントのレンズを楽しむ事ができるのは、本当に嬉しい。

短所

●個体差なのか?光線引きのような派手なフレアが頻繁に発生するのが頂けない。
●デフォルトではファインダーは遠視用に設定してあるので、視度補正レンズ無しには
 はっきり被写体を捉える事が出来ない。
●よく見ると、かなり造りが大雑把なので驚く(笑)。
●有効基線長がかなり短いので、50mmでも性能限界ギリギリ。大口径レンズは使わない方が無難。

超個人的オススメ度(10点満点)


偏愛度(10点満点)
☆☆☆☆☆ ☆☆☆

Yahooオークション出現率(10点満点)

*誰にでもお勧めはしません(^_^;

 
 
 
 



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