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First Step

 
 
 
 
 
     First Step


もともと写真は好きだったけれど、「この一枚がきっかけで、より深く写真の世界に
のめりこむ事になった」という一枚の写真が、エンゾーにはある。

残念な事に、すでにポジは紛失しており、埃まみれになって色調も変色した、小さな
プリントが一枚、手元にあるだけである。もっとも、残っていただけ幸運だったと
言うことも出来るが。

下の写真は、北海道の大学に在学中、金沢大学の友達の家に遊びに行ったときに
撮ったものだ。
友達といっても、当時付き合っていた彼女のお姉さんの知り合いという、かなり
細いラインではあったが、そんな「ほとんど他人」の家にも遊びに行けるくらい、
その頃は自由だった。

現地で一日にして仲良くなったRさんという女の子に、金沢を案内してもらう事になり、
真っ先に行きたいと思ったところは、兼六園でもW坂でも東の茶屋でもなく、金沢大学
であった。
雨が降っていたにもかかわらず、Rさんは傘を片手に、徒歩であちこちガイドしてくれた。

当時、金沢大学の校舎は、なんと加賀百万石の金沢城内にあったのだが、老朽化と
施設の拡張のため(?)移転が決まっていた。すでに人気もなく、来年には取り壊し
という微妙な時期に、僕はキャンパスを訪れたのである。

人間が利用しなくなってわずか半年足らずで、広大なキャンパスはすでに自然へと
回帰しつつあった。校舎の窓にはスズメバチが立派な巣を作り、壁のあちこちでツタが
絡み始め、「動物に注意!」と書かれた看板は、半分以上が赤錆に侵食されていた。


「戦時下では、城内は練兵場でもあったみたい」

そう言って連れて行かれたところは、キャンパスの外れにある、小さなトンネルだった。
かつて、射撃の練習場として使われた場所だということだった。赤煉瓦造りの壁面が、
歴史を感じさせる。
トンネルの出口は、天井からツタが何本も垂れ下がり、雨上がりの木漏れ日が差し込んで
いた。そのうちこのトンネルも、完全に緑に飲み込まれてしまうんだろうな・・・
そんな事を考えながら、シャッターを切った。
その何気ない一枚が、この写真である。そして、これがもとで、僕は写真趣味に
どんどんはまっていく事になった。

      明日へ続く道
      EOS Kiss EF28-105mmF3.5-4.5USM フジカラー100
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その後、もともとが離れた場所にいて、一度会っただけの仲という事もあり、Rさんとは
すぐに音信不通になってしまった。チャレンジ精神旺盛な彼女の事なので、今でも
どこかで精力的に仕事をしているのではないかと思う。


この写真を撮らせてくれたRさんに、心より感謝する。




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