73.09.25 仁義なき戦い 代理戦争

仁義なき戦い・代理戦争



どこがミス広島じゃ

昭和35年9月広島。街中をのし歩く広能と村岡組の幹部の杉原と打本。「時に昌ちゃん。呉にくすぶっとてもしょうがないじゃろう。東京へ出てみんかい。打本の兄弟も向こうでは顔が広いけえ」「まだ仮釈じゃけえ、住居制限で呉から出られんのですよ」「そういやあ、昌ちゃんの放免祝いをまだしとらんかったのお。プロレスの興行でもどうかのお」そして杉原は白昼の路上でボンクラによって射殺される。

杉原は病気療養中の村岡に代わり、組の実権を握っていた実力者であった。杉原の葬儀が行なわれる。そこへ杉原の射殺を命令したと思える九州の栗山組の組長がやってくる。広能は打本にささやく。「打本さん。兄貴分のあなたが格好つけにゃならんのじゃないですか。もし殺ると言うなら、わしが手伝いますけん」しかめっ面をする打本。「のお。ありゃ、村岡さんが呼んどる客人じゃけん」村岡組の若衆の松永と武田も打本に詰め寄る。

「杉原の伯父貴にはわしらも随分世話になったから、殺られるんなら、わしらは知らん顔しときます」「ほうか言うても、村岡の兄貴に弓引くようなマネはできやせんよ」苦りきる松永と武田。杉原に次ぐ村岡組の実力者である打本のこの時の弱腰な態度がのちの村岡組の跡目問題を紛糾させ、西日本最大の抗争の目ともなったのである。

広能は呉でスクラップ業を正業とするささやかな一家を構えていた。子分の西条をどつきまわす広能。「泥棒の番しとるもんが、おどれで泥棒したら誰がケツふくんじゃい。盗んだスクラップはいくらで売ったんじゃ」「20万とちょっとです」「クソバカタレ。出さんかい。そのゼニ」「女がテレビ欲しいいうて」「あほんだれ。何がテレビじゃ。この外道が」そこに弟分の上田がやってくる。「兄貴。大久保の伯父貴が会いたい言うとるんじゃがのお」

広能は大久保のところに行く。そこには広能の保護司がいた。「実は山守さんに君の後見人になってもらおうと思うての。あの人は実業界に顔の広い人じゃ。わしらとしても安心じゃけん」「こっちが頼んでも向こうが承知するかどうか」「この話はの、山守の方から切り出したんじゃ。やっぱりお前がおらんと組がもたんちゅうことがわかったんじゃろお。ははは」上機嫌の大久保であったが広能が冴えない表情をするのにむっとする。

「わしが口をきいとるんじゃけ、何も迷う事なかろう。かたぎになる言うんじゃ話は別じゃがの」「まあ2,3日考えさせてつかあさい」大久保の家を出ようとする広能は山守とその舎弟の槙原と出くわす。槙原は広能に聞く。「昌ちゃん。知っとるか。村岡さんの跡目の事を」「知らんわい」「うちのオヤジは広島にも店を持っとるじゃろう。えろお、気になさってのお。ほいで昌ちゃんは村岡組にも顔がきくじゃろ。何か情報があったら教えてくれや」苦笑いする広能。「ほうか。ほいでわしを抱こうちゅう腹じゃったんか。手回しがええのう」

組に戻る広能。そこには手首を包帯で巻いた西条が。「どないしたんや」「へえ、指詰め言うたら、2、3本じゃ足りんいうて」西条は自分の左手を斧で叩き落していた。「クソバカ。喧嘩の時、どうやって道具を持つんじゃい。もおええ。はよう病院に行って見てもらえ」西条は情婦の富枝と一緒に病院に向う。そして広能は大久保の仲介で山守組に復帰する。

そして呉でプロレスの興行が行なわれる。打本は舎弟の早川を連れてやってくる。「大変な盛況ぶりやないか」「へえ。でもイマイチ盛り上がりに欠けてまして」そこへプロレスラーが戻ってくる。「どうした」「反則負けですわ」怒る早川。「毛唐相手に反則負けして客が盛り上がる思うんか。おお」「遺恨試合をやってこいや」渋るプロレスラーの脳天にビール瓶を叩きつける広能。たちまち血まみれになるプロレスラー。

「何さらすんじゃ」「それで遺恨試合になるじゃろうが。あとでミス広島抱かしちゃるけえ、はよ行けや」そこへお祝いに神戸の明石組の幹部岩井もやってくる。「おお、よう来てくれたのお」「車で通りがかって看板見たんや。少ないけどこれ取っといてくれんか」キャバレーで広能にからむ打本。「のお。あの岩井いうたらや、明石組の切り込み隊長いわれるやないか。こんなも旅のつきあいが広いのお。羨ましいのお」

「いやあ、若い時に旅ばっかり打ってたんで自然とこうなったんですよ」「それに比べてわしの兄弟分はみんな殺されて淋しうてやれんわい。のお。昌ちゃん。さっきの岩井通じて誰か明石組でわしと兄弟分になるやつがおらんか、言うてみてくれや」「まあ、聞くだけ聞きますがの」「村岡のオヤジの跡目の問題もあろうが。わしのほかに誰が跡をつけるんなら。明石組の兄弟分になっていればわしも格好がつくし」

広能は忠告する。「打本さん。跡目をつぐいう考えで旅と盃したら間違いのもとですよ」「こんなの考えは古いのよ。これからの極道は付き合いの広さじゃ。言うなれば、国際外交の時代じゃけん」「わしゃ古いままで結構ですよ」口をはさむ早川。「山守さんが広能さんを抱き戻したんは、広島に色気があってのことでしょう」「早川。皮肉言うちょるんか。オヤジの腹まで知るかい」

そしてプロレスラーは暴れ始める。「どこがミス広島じゃ」「おい。西条。約束じゃ。もっとましなの用意したらんかい」西条は富枝にお願いする。「うちがミス広島になれいうの。いやよ。いつもうまいことばかり言うて」「わしの男が立たんじゃないかい」プロレスラーを見て恐れおののく富枝。「うちはいやよ。あんな化物みたいな男」「あっちの大きさは変わらんのじゃけえ」

酔っ払ったプロレスラーは屋台でおでんを食っていた工員に因縁をつけ、工員をボコボコにする。怒った工員は包丁でプロレスラーを斬りつける。そしてその工員の倉元は教師と母親に連れられて広能組にやってくる。「広能君はおるかね」「広能君じゃと。何じゃ、おどれは」「いやあ、ここの馬鹿親分はわしの教え子なんじゃ」教師は広能に相談する。「まあ、警察に自首するつもりじゃったが、どこへ行ってもあんたの手のもんに仕返しされるじゃろう、ってわしのところに相談に来たんじゃ。まあこの子もわしの教え子での。言うなればおまえの後輩じゃ。考えちゃってくれんかの

「ようわかりました。切られたもんも命に別状はないですけえ」「ほいで、こいつの今後の身の振り方なんじゃが、どうじゃろう。こんなの下で極道修行させちゃらんか。こんなは極道じゃったら将来の見込みがあるけん。わしが保証する」「教育者である先生がそげなこと言うちゃいかんでしょうが」「これの親父も極道での、喧嘩で死んどるんよ」「ほうですか」「こまいころから親父見て育ったもんじゃけえ、おふくろさんもあきらめとるんじゃ」

倉元の母に聞く広能。「のお。お母さん。極道なるいうたらですよ、産みの親を捨てにゃならんのですけえ。あんた、それでええんですか」「はい。この子の罪の半分はうちにあると思うとるんです。よろしゅうお願いします」そして倉元は広能の子分になる。その年の夏、村岡組の幹部の江田が広島刑務所を出所する。江田は村岡組きっての暴れん坊で村岡組の今日を築いた功労者であった。打本の提案で、打本・江田・広能・松永・武田は兄弟盃をかわし、打本は広島の新興勢力の頂点に立った。



 

お前の好きな金の球を二つ持っとる

山守は広能のスクラップを勝手に持ち出す。激怒する広能。「ひどいじゃないですか。わしの信用はどうしてくれるんですか」「わしの知り合いが手形落とせんけん、急場しのぎで融通したったんよ」「どこの誰ですか」「親のやることに文句つけるならいつでもお前の首にすげかえできるんやで」槙原は忠告する。「オヤジさんは、こんなの身元引受人なんじゃけえ、あんまり逆らわんほうがええど。仮釈も取り消しになるで」

「ほっとけ、ほっとけ。こんなは打本とべったりじゃけえ。笑わせるな。打本がなんなら、あの腐れ外道が。村岡の跡目をもう貰った気になりよってから。あんとら馬鹿に二代目面されてたまるか。10年早い言うといちゃれ。お前広島に出て行け。呉におったら目障りじゃけえの」「ほうですか。じゃあ今度仕事の邪魔されたらわしのやり方でやりますけん」「おお。帰れ。帰れ」そこに江田が出所の挨拶にやってくる。途端に相好を崩す山守。「おう、あんたが広島に戻って一本筋が通ったのお。少ないがこれとっとけや」江田に渡す金を見て、複雑な気持になる広能。

昭和36年6月。広能は打本を連れて神戸の明石組を訪れる。そして打本は明石組の舎弟である相原との兄弟盃をかわす。全国制覇を目指す明石組は同じ神戸の神和会と抗争を繰り返し、その争いは西日本まで飛び火していた。広島を訪れる相原をもてなす広能。「九州では大変じゃったそですの」「うん。岩井がパクられてしもうてな。福岡の拘置所に面会に行った帰りなんや。どうや。打本の兄貴は村岡組の跡目を継げそうか」「わしの口ではなんとも言えませんが、そのつもりで動いとります」

「ところで打本はんは村岡さんとどういう仲なんや」「舎弟ですが」「盃交わした間柄か」「そうですが」「けったいなマネしてけつやがる。明石さんに直盃の舎弟にしてくれんか、と人を介して頼みよった。わしには一言の断わりもなしや。そんな大きな話を兄弟分のわしに内緒にしとくやなんて。極道は直盃の兄弟分は二人持たんのが鉄則やろ。広島のヤクザは盃ちゅうもんをどないに考えとるんや」「あの人は極道いうても事業家ですけん」

そして武田と松永が広能に会いに来る。「実はの、村岡のオヤジは正式に引退を決めたんじゃ」「村岡さんもそろそろ潮時かもしれんの」「ほいで、わしらとオヤジで話しおうたんじゃが、オヤジの跡をよ、山守さんに頼もう思うんじゃがどうかいの」驚く広能。「やめとけ、やめとけ。あんなのが上に立ったら、こんなが先に泣きを見るようになるんで。打本の兄貴に話を持っていったんかい」

「ここだけの話じゃがよ。オヤジさんは打本さんが明石組と盃交わしたん内心怒っとられるんよ。広島を神戸に売るいうての」「打本さんを明石組に会わしたんはわしじゃけえ、わしが芋引くわい。こんならがええ様にやりゃええじゃないの」「のお。余計な騒ぎを起こしとうないんじゃ。根回ししてもらいたんじゃ」「打本の兄貴はずずいうなら、村岡組の中から跡目を出すのが筋じゃないの。こんなが継げばええじゃないの」

かぶりを振る松永。「務所で苦労した江田がおるけえの。わしゃ立てんよ」「江田はどうなの」「江田は女狂いで旅に出せん、とオヤジが乗っとらんのよ」「そっちはどうなんや」かぶりを振る武田。「わしゃ身体の強うないし、人の上に立つほど勲章を持っとらんしのお」「のお。わしらもいつまでも山守さんを親分にとは思うとらんよ。わしらの中から三代目を決めて、その間の一年くらい山守さんに面倒見てもらおうと思うんじゃがのお」

そこへ打本がやってくる。広能の顔を見て悪態をつく打本。「おお。昌三。おどれ相原につまらんこと言うたそうじゃのお」「何の話ですかいの」「わしと村岡が舎弟盃しとるちゅうことよ。バカタレ。こん糞。知らんいうときゃええじゃないの。相原はヘソ曲げて、明石さんとの盃は無期延期になったわ。わしに恥をかかせてどういうつもりなら」「兄貴のほうこそ考え直したほうがええですよ。あっちこっちに安売りするんわ」

「明石の兄弟分になりゃ位が上がるんじゃけん、ええじゃないの。わしが出世しそこのうたら、お前が責任とれよ」「何でわしが責任取らにゃならんのですか。位いうたら、死んだ杉原さんの格好をきちんとつけるのが極道の位ちゅうもんでしょうが」「お前みたいな百姓の意見など聞きとうないわ。これからはわしの付き合いに口を出すな」出ていく打本。頭に来る広能。「山守のオヤジにはわしが話しとくわい。知らぬ仏より知っている鬼のほうがましじゃけえの」そして山守組と村岡組は合併し、山守は大組長の座につく。

幹部たちと明石組の相原らが集まって、山守の親分就任記念の席が設けられる。上機嫌の山守。「はっはっは。わしゃこの世で親分になるために生まれたようなもんよ。これで広島は他の組のヤクザにグーとは言わしやしませんよ」苦笑する相原。「ところであんたの組も随分発展しとるそうですな」「おかげさまで。オヤジも偉いが若いもんもようやってくれますんで」「その通り。しっかりした若いもんがおって、親は立てるんです。うちではこの武田が一番しっかりしとりまして6000万ほど持ってます」「お父ちゃんはいくら持ってるの」「お父ちゃんはお前の好きな金の球を二つ持っとる」

江田は別のテーブルにいた打本を見つけて、同じテーブルに来るよう誘う。渋々席を移動する打本。「他に客がありまして」笑い飛ばす山守。「広島におってよ、わしより大事な客がおるかい。こういう馬鹿ですけえ、村岡さんもサジを投げられたです。おお、打本。わしの組にきて働かんかい」「だとえ舎弟言われても断わりますよ。わしは明石さんを親分だと思うとります」

笑い飛ばす山守。「誰が舎弟言うたかい。こんなが若い衆に使うてくれいうたら、使うだけよ。この打本いうたら、えろうない、えろうないいうて、こんな馬鹿はおらんです。もう明石さんにべたぼれでして、朝から晩まで神戸のほうを向いとりますわい。まあこんな馬鹿じゃが面倒みてやってください」悔し泣きをする打本。「お前、どうしたの。泣いとるの。泣かんの。泣かんの。飲め」

いたたれまくなった相原たちは席を立つ。残された打本を広能が慰める。「ほっとけ。おどれみたいな腹黒い奴と酒が飲めるか」「さっきから黒い黒いいうて、わしのどこが黒いの」「そっちは村岡の引退を知っとってから、わしには一言も教えもせんで、山守のケツかいたんじゃろう」「あんた村岡さんと盃しとらん言うたじゃない。盃もしとらんのが何で跡目を継ぐ資格があるの」「まあ見てみ。わしゃ山守を潰しちゃる。そん時は真っ先にお前を的にかけちゃるけえの」「やるんなら、今やれよ。能書きはいらんよ。いつでも来いや。待っとるで」



カバチたれとるやつもおるようじゃけどの

打本の鬱憤は岩国における打本の舎弟の小森組と槙原の舎弟の浜崎組の代理戦争として火がついた。そして浜崎は殺される。山守は幹部を集める。「浜崎と小森の喧嘩はよう、これを組の喧嘩として受けたれい。浜崎は槙原の舎弟じゃけん、小森なんぞ一気に潰しちゃってよ。打本の外道をつるし上げたらんかい。明日の浜崎の葬儀が各自トラック部隊を編成して岩国に繰り出しちゃれい」

反論する松永。「こがいな喧嘩を本気で考えとられるんですか」「わしゃ、若い衆に意見されたのは初めてじゃ」泣き出す山守。慌ててわびを入れる松永。山守は女たちと飯を食いに行く。張り切る槙原。「よおし、わしがトラックを集めるけん。お前ら兵隊を用意してくれ」そして槙原も飯を食いに行く。溜息をつく広能。「ああ、やれんわい。今日の泣きは出来が悪かったのお」「なんじゃ」「あれはいつもの手よ。オヤジはの、槙原を男にしたろう思うて、つまらん喧嘩を大きゅうしようとしとるんぞ。馬鹿らしゅうて付き合いきれるかい」

そしてトラック軍団が岩国に。張り切る槙原。「よおし。これから小森のところに殴りこみじゃ。出発」しかし江田や広能や松永は反発する。「おい。わしら打本と盃交わしとるけえ、殴り込みまではできんぞ」「わし一人でどうせえいうんよ」「指揮官は一人で十分じゃろ。お前がやられたら骨は拾っちゃるけえ」「わしらに遠慮せんで行きないや。のお、殴りこみによ」「じゃあ、わしもやめるわい」

広島に戻った槙原は山守にグチをこぼす。「かばちばっかりたれて、一向に立ち上がりゃせんのんですよ」「あれらが、あてにならんことぐらい、初めからわかっとる。作戦変更じゃ。何でわしがこの店に来とる思うんよ」その店は打本の舎弟の早川の情婦の経営する店だった。店に来た早川を呼び止める山守。「何しよるんなら。こっちにこいや」槙原は早川を抱きこむことを広能たちに提案するが、反対される。

「馬鹿くさい。喧嘩が怖うてよ、若いもん引き抜いて相手つぶしたいうたら、わしら世間の笑いものになるじゃろうが」「早川も早川よ。そんなやつはわしゃ好かんで」そこに打本のボンクラが発煙筒を投げ込む。広能たちは打本のところに文句を言うが、打本は相手にしない。「ボンクラのやることなんか知るかい」「ああ、ほおですか。打本さん。今までいろいろお世話になりましたが今日限りで他人になってもらいます」盃を返す松永。「武田の分もはいっとりますので」

そして山守のところに早川が来る。「なんや。話いうて」「うちのオヤジが指詰めましたんで、届に来ました」ホルマリン漬けの指を差し出す早川。「命ごいならおどれが来いと言わんかい」「それが今朝から姿を見せんのですよ」「しびれて神戸に逃げやがったんですよ。子分を置き去りにして」「ほんま頭にきましたわ。子分をほったらかしにして、逃げる親分がどこにおりますか。盃叩き返しちゃろう思います」「これで打本組も潮時じゃのう。打本組をぶっつぶしちゃるわい」「それもええですが、わしが二代目になるちゅうことでオヤジさん、面倒見てくれませんか。小森は必ずとってきますけん」

広能は早川に文句をつける。「早川。おどりゃ男なら親分おらんなら子分の面倒みいや。こっちにつきたいいうなら打本の首とって来いや」「お前はだまっとれ」「もしもこれが神戸に聞こえたらどうなるかわかっとるんですか」広能は打本の指を差し出す。そこに電話が。応対する松永。「誰からや」「明石組からです。打本さんのことで相原さんと宮路さんがこっちに来るとのことです」「わしゃ知らんど。打本に盃返したんはお前らじゃけん、お前らで話つけい」「もう手遅れです。神戸と一戦交えるしかないでしょう」「わしゃ準備するから帰るぞ」「わしも帰るぞ」

張り切って戦争の準備をする広能。そこへ山守の女房の利香から電話が。「昌ちゃん。はよう来て。うちの周りを変なのがうろうろしよるんよ。それも関西弁なんよ。明石組の誰かが取りに来た思うんよ」「すぐ行きますけん。お前ら道具持ってこいや」山守の家に駆けつける広能軍団。「いやあ、どうもこうもないですよ。酔った船員連中が騒いどっただけですよ」「でも、いびせかったわ。槙原にも電話したけど来る来るいうて。やっぱり頼りになるのは昌ちゃんだけよね。このごろは誰も頼りにならんいうて、うちの人は不眠症になっとるんよ」

そこへ大あくびしながら山守が。「どうしたんなら。よう寝てるのに。起こしやがって」「これで大丈夫よ。あんた」「何がよ。わしゃ早川の外道のことが腹が立って寝れんかったんじゃ」「早川がどうかしたんですか」「あの外道。打本に明石組がついとることを知ったら、途端にシッポをふって明石組に打本を迎えにいっとるんじゃ」目立った抗争は起こらなかった。そして明石組の相原と宮路が極秘裏に広能に面会を申し込む。

「いや。堪忍な。いっぺんあんたと腹割って話そう思うてな」「何の話ですか」「ワイらとかまえるのか、手打ちにするのか、どっちやい」「そっちがかまえるなら、こっちもかまえるだけですよ」「まあまあ。広能さん。打本と仲直りしたってえや。小森と浜崎の喧嘩は打本が仲裁するちゅうことで手打ちにする。それにはあんたらが打本と仲直りせにゃ格好すかんのや」「わしの一存でが返事できませんで、みんなと相談します」

「この際、ぶっちゃげた話をするが、広島でかまえとるんはあんただけなんやで。山守は法事の使いちゅうことで槙原をよこして、わびを入れにきよった。そこで槙原は、いつでも山守組を出る、いうて泣いてる始末や」「江田は電話してのお、自分はやる気がないって弁解しおったで」「松永は松山に遊びに行っとるそうやの」「あんたは一人で明石組や打本や山守と戦うところじゃったんぞ」押し黙る広能。

そして山守組の幹部会が開かれ、槙原は手打ちを提案する。嘲笑う松永。「なんや。お前最初から明石組にのまれとったんじゃろうが」憤る槙原。「何がよ。わしは明石組の幹部連中の前でうちのオヤジは日本一じゃいうて、啖呵を切っとるんぞ」広能はあきれる。「槙原。お前が明石組の前で何を言うたか、相原さんや宮路さんから聞いとるんぞ。それだけじゃなく、ほかにカバチたれとるやつもおるようじゃけどの」山守は席を立つ。「お前らで好きにきめえや。のお」



 

そんな極楽は極道の世界にないで

まもなく小森・浜崎両組の手打ち式が行なわれ、席上広能たちは打本にわびを入れるとうことで形式上の和解をする。早川は広能の服装をチェックする。「失礼ですが、改めさせたてもらいますけえ」「二代目になりそこのうたのお。おお」「おかげさんで若頭にさしてもらいましたけえ」この手打ちは山守組の敗北であった。打本は明石組の組長と念願の舎弟盃をかわす。

山守は入院中の幹部武田を見舞う。「打本の外道ゆうたらのお、道でおうてもロクに挨拶しやがらんのじゃ」「若いもんから聞いとります」「みんな広能のせいよ。あいつがみんなひっくりかえすけえ。あれは打本よりよっぽど明石組の手先になっとるんど。のお。わしゃ若頭の制度を復活させよう思うちょるんじゃが、こんなやってくれんか」「わしじゃ家賃が高すぎますけん」

「いやいや、こんなしかおらんのじゃ。松永は広能にベタベタしちょるし、江田は働かんし、槙原いうたらいよいよ度胸がないんよ」「よう、わかりました。なった以上わしもほかのもんに負けられん意地がありますけえ、わしのしたい様にやらせてもらいますよ」「おう、やれ、やれ。わしはお前を跡目にと考えちょるんで」「早速ですが神戸の神和会と縁組の話がきとるんですが」「ほいで、その神和会ちゅうのは、ちいたあ強いんか」「明石組と五寸で勝負できるゆうたら、神和会しかありゃせんのです」

昭和38年1月山守組幹部の新年会が行なわれる。武田が若頭になったことを伝える山守。「よろしく。早速ですが、神戸の神和会と縁を結ぶことになりましたけん、みなさんに伝えときます」その縁組に難色を示す広能。「わしは明石組とことをかまえるようなもんじゃけえ、そん時はよう考えるけえの」「ほうか。ほんなら仕方ない。じゃたっら親和会の縁組がはっきりするまで明石組のもんとは会わんでくれや」「なんでわしだけ束縛されにゃあかんの」

江田が広能にからむ。「だったら、お前明石組に大事に抱えてもらえや」松永が江田にからむ。「武田にケツかかれてよ、跡目に未練あるならそれでもよかろうよ。こっちはそうはいかんのんじゃ」江田は激昂する。「待て。いつわしが跡目を口にした。おお」江田と松永は喧嘩をはじめる。そして広能は命を狙われるが、すんでのところで命拾いする。「オヤジさん。あん外道は」「たいがい見当はついちょるわい」

西条は屋台で倉元に聞く。「こんなは、オヤジさんから盃もろうたんか」「まだです」「なんぞ手柄をたててみんか。どうや。わしととんでみんか」「とぶ?」「オヤジが的かけられたろうが。絵図を描いたのは槙原よ。二人で手柄たてて男にならんかい」「へえ。兄貴。ぜひやらしてください」「じゃがのお、わしは片手がこげなじゃし、槙原のおる所までわしが案内しちゃる。こんなが殺れ」

西条は富枝に倉元に抱かれるよう命令する。「知らんふりしときゃ、一回で済むことじゃけえ、はよ行けや」倉元の部屋に行く富枝に声をかける西条。「おう、30分で切り上げや。おお」そして富枝は「東京ドドンパ娘」がラジオから流れる中、倉元に抱かれる。槙原は打本の所に行く。「いっぺん、オヤジさんがおうてくれ、と言われとります」「おう、わしゃいつでもええが広能がゴチャゴチャ言うとるそうやないか」「相手にせんといてください。そのうち手も足も出せんようにしますけえ」

そして倉元は槙原を狙うが失敗する。そのころ広能は福岡の拘置所を出た岩井と密会する。「山守組が神和会と盃するちゅう話はほんまかいな」「武田やオヤジが言うちょるけえ、そうなるじゃろ」「なんとかぶっつぶせんか」「ここんとこ、わしは組からはみ出しとるけえの」「せめて、打本とあんたらの兄弟盃を元に戻してくれや」「それもいたしいのお」「昌ちゃん、ここはあんたにとって正念場やで。あんたが山守に的かけられた噂も聞いとるんで。どや。このへんで山守を引退に追い込んで、そっちが広島とったら。ワイらも応援するで」「わしゃ呉でおさまりたいんじゃ」「そんな極楽は極道の世界にないで」「まさか親の寝首をかくわけにはいあんじゃろうが」「とにかく打本との盃の件、武田らにあんじょう伝えといてや」

広能は倉元が槙原を襲ったことを知る。倉元をどつく広能。「バカタレ。おんどりゃ言うてみい。誰にとべ言われたんなら」「おどれ一人の考えでとんだ言いよります」「自分の勝手で組つぶす気か。わしの立場がわからんのか。くそったれ。往生するいうんなら、往生せえや」ボコボコにされる倉元を片隅でおびえて見つめる西条。そして熱を出して唸る倉元を気遣う広能。「のお。今の時代は相手をとりさえすりゃ勝てるいう時代じゃあありゃせんので。それさえわかってくれりゃ、それでええ」



 

悪い時に停電になったのお

そして広能のところに武田から電話がはいる。「おお。こんな今日明石組の岩井とおうとったそうやないか。どういう話か聞かしてくれんか」「なんなら。そっちはスパイの網はっちょるんか。九州から保釈で出て挨拶に寄っただけじゃ」「ほんまにそれだけか」「わしもつくづく考えたんじゃが、神和会との縁組のってもええで」「ほうか。そりゃ助かるわい」明石組のほうはええんですか、と心配する広能の部下。「山守を追い込んでみせちゃるけん、まあみとれ」

そして山守組と神和会は五分の兄弟盃を結ぶ。そして明石組は山守組の幹部に打本との兄弟盃の復活を迫る。打本と盃はできん、と広能に言う武田。「こんな行って断わってくれ」「まあ行けいえば行くがよ。それでええんか」心配する松永。「おい。どうするんなら」「みんなの意見を伝えるがよ、わしゃ断わりきれんかもしれんよ」「そんな勝手は若頭として許さんど」「ほいじゃったらみんなで断わりにいきゃええじゃろうが。ただ話蹴るようなもんじゃけえ、その場から喧嘩になることは覚悟しといてや、のお」

そして武田たち幹部は明石組の待つ料亭に行く。そこには岩井、相原、宮路そして打本がいた。「やっぱり打本さんの盃蹴るいうことになりました」と伝える広能。そこで停電が。蝋燭の炎の下で交渉が続く。相原は盃を戻せと要求するが、武田は拒否する。「わしら一同打本さんにはわびを入れてますけん、それで済んどると思います」「でも打本さんが指詰めた落とし前はまだついとらんやんけ。ここは盃戻すんがヤクザの筋やないか」「まあ、わしらも立場というものがありますけえ」

宮路は松永に聞く。「ほお。わしらはあんたらと完全に縁が切れることになるが、松永はん。あんたそれでええんか」「わしゃ、蹴るとは言うちょらんですよ。若頭がそうせえと言うとりますが」「江田はん。あんたどう思う」「いや、わしゃのお、そこまでは考えとらんのじゃ」笑う相原。「すると、どうも若頭だけ反対しとるようじゃな。神和貝は山守さんとの縁組は仕事の上だけの盃や、ってはっきり言うとるで」そこに長老大久保が登場する。

「やれやれ。悪い時に停電になったのお。ほいで、結論は出たんかいの」「わざわざご足労です。武田はん。ワイらあんたらが承知してくれる思うて、大久保はんに取り持ち人お願いしましたんや」「あんたら大久保さんの顔潰してしもうたら、広島での立場なくなるのと違いまっか」渋々納得する武田。「ひとつよろしゅう頼みます」打本が発言する。「兄弟。わしにも一言言わせてくれよ。わしゃ他のもんはええが、この広能だけは絶対に盃せんで」「あんたもしつこい人じゃ。その話はええ加減にせんかい」「わしゃ人形じゃないけん、ええ加減にできんよ」

騒ぐ打本をなだめすかして、場所を移そうと提案する岩井。「そうじゃ。ここは陰気でいかん。おなごのおるところでパーっとやらんかい」そして停電は直る。座敷には広能と武田が残される。「おう。大久保さんを引き出したんはそっちが仕組んだことじゃろうが。明石組があの人を知っとるわけないんじゃけん。こんなが初めから仕組んで引っ張りこんだんじゃろう。神和会との縁組に協力してみせたんも、こういう裏を考えてのことじゃろうが」

「そう思うんなら、それでええよ」「負けたい。お前には」「待てや。わしはそっちを苦しめようとしとるんじゃないんで。わしが的にかけちょるは山守よ。あれが上におる間は何をやっても広島はまとまらん。ほいじゃけえ、あれを明石組と神和会の競り合いの場に引こずりだして、にっちもさっともならん恥かかせてから、引退に追い込もう思うとるんじゃ。山守が引退したらこんなが跡目つけや。そうすりゃ、わしはとことんこんなについていっちゃるよ。わしらばかり火の粉浴びることないじゃないの。のお」

明石組は打本の舎弟の早川を破門にさせ、予定とおり一同の盃を復活させる。神和会は山守の責任を迫る。広能の思惑通り、山守は追い詰められていくが、事態は予想外の方向に進み始める。大久保は広能のところを訪れる。「今、武田が来よっての、山守組と親和会の出した結論をわしに伝えにきおったんじゃ。ほいで、こんなにカタギになれいうんよ」「わしがカタギに」「わしゃ、広能はカタギにならん言うちゃったんじゃ。ほしたら、いきなりこげなもの渡しやがった」

それが広能に対する破門状であった。「こうなりゃ、お前もとことん腹を決めえ。のお」広能は武田に山守組のバッチを返す。「そっちの筋書き通りにいったのお。うまく大久保さんを引っ掛けてのお。こんなを信じ込んだわしが甘かったわい」「まあ、組があってのわしらじゃけえのお。こんなみたいなのは出てもらうわい」嘲笑う槙原。「ははは。ざまあみやがれ。勝負せんかい」「おう。こうなりゃ五寸じゃけえ、山守先頭にいつでも来いや。いつでも相手になっちゃるで」捨てゼリフを残し、事務所を出る広能。

江田は松永に詰め寄る。「こうなりゃお前はどっちにつくんじゃい」「どっちいうて、わしゃどっちも恨みがないけえ、中立でおるよ」「中立は認めん。こっちの立場になれんちゅうなら、カタギになれ。以後ここに出入りせんといてくれい」松永は一礼して立ち去る。西条は富枝に一緒に東京に逃げてくれと迫る。「喧嘩で死ぬよりましじゃけえ、一緒に逃げてくれや」「あんたなんかと行くもんか。うちはもう倉元のもんじゃけえ」

相原は打本に迫る。「あんたのおかげで広能は破門にさったさかい、あんたも山守組の連中に絶縁状を出すのが筋や」「山守と広能の親子喧嘩によ、わしまで巻き添えくわすことはないんじゃないの」岩井は打本に迫る。「こりゃ、神戸のおやっさんにもきつう言われてますんで」早川に電話する武田。「わしらについてくるなら組としてかかえてやるが、どないするんなら」「そりゃそうしていただけるんなら」「ほうか。ほいじゃあ、はっきり立場を示す土産を持ってこいや」

早川は打本の事務所を襲撃する。「撃て。撃て。ぶち殺しちゃれ」そして広能も抗争の準備にはいる。槙原が中央劇場で映画を見ている情報を聞いた倉元はタクシーを中央劇場に向わせる。そのことを西条は槙原に密告する。「うちの若いもんがそっちに向ってますけえ」そして倉元は待ち伏せしていた槙原組の組員に蜂の巣にされる。そして倉元の葬儀が行なわれる。その場を襲う槙原組。そして倉元の骨は車に踏み潰されてしまう。まだ熱い倉元の骨を握り締める広能。

闘いが始まる時、まず失われるのが若い者の命である。そしてその死が報われたためしがない。こうした死を積み重ねながら、広島ヤクザの抗争は拡大の一途に向うのであった。




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