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極上生徒街- declinare-

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矩継 琴葉

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2008.12.25
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カテゴリ:小説
 コリンズの『威圧感』に負けそうにはなったエリだったが、一方的な話を聞いているうちに、開き直ったとは別の意味で不思議と受け入れることができた。その後は、人見知りが治ったように関係のない服や話で少し打ち解けた。
 もう少し、見た目に気を遣って欲しいと思うが口には出さなかった。
 次第に会話が弾み、会話を交わしながらエリは服を選び始めた。
 最初にコリンズが出したのは、ベタな長袖のドレスタイプ。色は黒と渋い紫だ。

「嫌いじゃないけど、袖が気になるかな」

 袖が長く、手のひらまで隠れてしまっている。
 これでは気にかかる。

「そうね。これはお勧めじゃないわね。古いタイプで、お婆さん用ですもの」ホホホと笑った。

「なんで、着させた」

 続いて出されたのは、背中が大きく開いた黒とオレンジ色のノースリーブタイプ。大胆に二の腕が出るのがセクシーらしい。

「に、二の腕が何か気になるし……恥ずかしい。脇もスースーするし……

「あら、アンナちゃんはジェケットの下はノースリーブよ。私は、セクシーで良いと思うんだけど。ほら」と隆々とした筋肉でアピールする。
 訂正、やっぱり男だ。

「せ、セクシー……」愛想笑いが完全に引きつる。

 次は黒とシルバーの組み合わせの半袖のドレスタイプ。フリルのスカートがポイントのようだ。

「あれ? これ良いかも。自分で言うのも変だけどしっくり来る」

「うん。一般的なタイプだけど、これが似合ってるわね。じゃ、とんがり帽子とこれね。色は何にする?」

 赤、青、緑などベタな配色が帽子のとんがりを巻いている。さらにエリには表現できそうにない色まで様々な帽子を出された。形も様々で、マリーのように帽子の頭が二股や三股、トドメは5つにまで分かれているものまである。

「………………………………………これがいいです」

 少し悩んで選んだのは、赤色の一般的な帽子だった。二股は似合いそうにないし、さすがに5つに分かれたものは、奇抜すぎて却下した。 

「決まりね。それじゃ、2人に見せに行きましょう」

 コリンズのあとについて、2人の前まで行き選んだ服を披露する。
 エリは恥ずかしそうに帽子の端を両手でつまんで言葉を待つ。

「可愛い! エリちゃん似合うよ」

「そ、そう? でもマリーちゃんに言われると、皮肉に聞こえちゃうな」

「似合ってるよ」アンナの意外な言葉に、すこし嬉しくなったが、ぬか喜びだった。「確かに、地味さが良い感じにマッチしてるよ。うん。似合ってる」

「お世辞でも褒めろ!」

「褒めたろ? 『地味』だって」

「褒めてない!」

「まぁまぁ、2人とも落ち着いてよぉ。喧嘩してると日が暮れちゃうよ」

 マリーに宥められエリは怒りを静めた。アンナを嫌いなわけではないが、素直ではないところは好きになれないと思った。

「それじゃ、コリンズさん、請求はお父様宛にお願いします」

「了解しました~。ホント、マリーちゃんにはお世話になってるわね。これからもヨロシクねぇ」

 手を振るコリンズをあとに険悪な2人と純真な1人は店を後にした。
 


▽ 

 

 店へと来た道を引き返し、橋を渡ったところで右折して直進した。
 途中でエリは、魔法の練習をしている子供を見つけた。しかし上手いこと魔法が使えず、ライターくらいの火がやっとである。もう少しで大きな火を出せそうに見えるが、なかなか上手く行かないようだ。
 しばらく歩いていくと今度は、家の窓から爺さんが顔を出し水路に向けて何かを呟いている。魔法石のようなものを指輪にして、右の人差し指にはめている。その指を空中で踊らせると、水路の水がふわふわと空中を泳ぎ窓辺に置いてある植木の上までやってきた。
 水が植木の上までくると、老人は指を鳴らした。すると水が如雨露(じょうろ)のように降り注いだ。ちょっとした魔法を使った生活。なんだか面白い。
 こうしてみてみると、ここが魔法の国であることが徐々に肯定されてきた。
 ブロック(地区)ごとに分けて駆けられている橋を3つほど無視し、4つめの橋を渡った。そこからさらに直進してようやく目的の場所へとたどり着いた。
 ……やはり迷路のようで分らない。

「な、なんで、こんなに迷路みたいなのぉ」息も絶え絶えにエリは漏らした。さすがに、もう限界である。

「水路の関係もあるが、防衛のためだ。侵略された場合に絶大な効果を発揮するように作られたらしい」

「侵略された場合って、一度も侵略されてないんでしょ? 戦争もしてないみたいだし……ただ疲れるだけじゃん」

「そういうな。もうついたぞ」

「それを言うなら、『やっと』ついたぞ、でしょ」

 疲れてうなだれた首をもたげて建物を見た途端、視界に飛び込んできたモノに言葉を失った。
 ポップな文字で『magic board shop』と書いてある。壁には決して上手いとは言えない『人の形をした』絵まで書いてある。色がごちゃ混ぜに使われており、最悪なデザインである。
 周りの西洋風の建物の間に、突然現れた奇怪な建造物は見事なまでに景観を壊している。
 エリはこの『ツッコミを待っています的な建物』に言いたいことが沸き上がってきたが。言ったら負けなのだろうと必死に堪えた。
 そんな中、唯一普通なドアを開け、3人は中へと入った。内側は外観と違いサッパリと落ち着いた工房となっており、塗料やカナヅチなどが綺麗に並べてあった。
 壁にはスケートボードがいくつも掛けられており、やはり少し異質な感じがした。
 奥の方で、金属片が散らばるようなけたたましい音がすると、芸術が爆発したような髪型し、眼鏡を掛けた作業着の男が歩いてきた。

「いらっしゃ~い……ってアンとマリーか。ん? 見慣れない子がいるね」

「こいつはエリ。マイケル、お前と同じ客人だ」

 かゆそうに頭を掻いていたマイケルは客人と知った途端顔色を変えた。

「おぉ! 客人なんて凄い久しぶりに見たよ! 僕はマイケル。アメリカのシカゴでアリンコみたいなスケボーショップ開いてたんだ。ま、今じゃ、昔の話だけどね」

 手袋を取るとエリに握手を求め、エリは握手を返した。

「マイケルさんはアメリカ人なんですね。だけど、魔法の国でスケボーって不思議ですね」

「この世界で生きて行くには、働かなくちゃならないだろ? ハンバーガーなんか存在しないし、有る程度稼がないと。それに、何か人気出ちゃってさ」

 マイケルは子供のように嬉しそうに笑った。

「人気出ちゃった?」

「エリちゃん」マリーに袖を引っ張られた。「この部屋にあるボードは全部、注文の品なんだよ」

 部屋の中に掛けてあったスケートボードは数十を超えている。奇抜なイラストが入ったデザインから色だけのシンプルなものまで、豊富に揃っている。これが全部売れていくなんて驚きだ。

「だけど、どうしてスケボーが魔法の国で人気なの? 乗り物といえば箒じゃない?」

 魔女といえば箒。定番中の定番で、魔女の乗り物といえば箒だろうとエリは思っている。スケボーを蹴っているのは斬新ではあるが、言わずとも変である。

「今時、箒なんてのは時代遅れなんだよ。箒を使うのは、爺さん婆さんだけだぞ」アンナが仕方ないと言った表情で説明した。

「時代遅れ? 流行とかあるんだ」エリは感心する。

 マイケルは掛けてあったボードを一つ手にし「自分で言うのは厚かましいけど、ほらこれ」ボードの裏面にある宝石のようなモノを指さした。
 エリは思い出した、アンナの杖についていたものと同じだ。
 となれば、

「魔法石?」

「そう魔法石。これのおかげで空も飛べるように改造できたんだ。それにデザインが良いって若い子たちに受けてね。まぁ、何よりも、貴重な魔法石と資金、実験をしてくれたモラン家に感謝だよ」

「どういたしまして」マリーは笑う。

「マリーちゃんちって凄いんだね」

 貴重なものから資金まで簡単に提供する。
 エリは改めて貴族の凄さを実感した。

「それで、マイケルさん。注文の品は出来てますか?」

 マリーが訪ねると思い出したように手を叩きマイケルは店の奥へと向かい、騒々しい音を出した後、一枚のボードを持ってきた。

「急いで仕上げたから出来てるよ。早い、速い、安いが売りだからね。これはその子のだったんだね。……あれ? でも魔法を使えないと乗れないよ?」

 マイケルは魔法を使えない。
 けれど客としてくる魔法使いや、実験でアルマ(魔法)が必要なことくらいは知っている。何よりも、制作者である以上、魔法が使えずとも理屈は分っている。

「大丈夫」アンナはエリの肩に手を置き「こいつはアルマを使える」

「自分から使ったことないけど。使えるの?」

「俺は使える思ってるけどな。この目で見たし。まぁ、なんにせよ、試してみないと分からないだろ」

 戸惑うエリをよそに、アンナとマリーはボードを持ち、エリの両腕を掴むと外へ連れ出した。妙に手際の良いコンビネーションに逃げる暇もなかった。
 それを見ていたマイケルは「壊れたら、またきてね」と寂しそうに洩らした。

※明日公開
<IVへ続く>


第2話 (I)
第2話 (II)はこちら

第1話 不思議の国(I)はこちら

その他・準備中

用語解説などはこちら


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最終更新日  2008.12.25 23:29:59



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