|
カテゴリ:小説
コリンズの『威圧感』に負けそうにはなったエリだったが、一方的な話を聞いているうちに、開き直ったとは別の意味で不思議と受け入れることができた。その後は、人見知りが治ったように関係のない服や話で少し打ち解けた。
もう少し、見た目に気を遣って欲しいと思うが口には出さなかった。 次第に会話が弾み、会話を交わしながらエリは服を選び始めた。 最初にコリンズが出したのは、ベタな長袖のドレスタイプ。色は黒と渋い紫だ。 「嫌いじゃないけど、袖が気になるかな」 袖が長く、手のひらまで隠れてしまっている。 「そうね。これはお勧めじゃないわね。古いタイプで、お婆さん用ですもの」ホホホと笑った。 「に、二の腕が何か気になるし……恥ずかしい。脇もスースーするし……」 「あら、アンナちゃんはジェケットの下はノースリーブよ。私は、セクシーで良いと思うんだけど。ほら」と隆々とした筋肉でアピールする。 「せ、セクシー……」愛想笑いが完全に引きつる。 「あれ? これ良いかも。自分で言うのも変だけどしっくり来る」 「うん。一般的なタイプだけど、これが似合ってるわね。じゃ、とんがり帽子とこれね。色は何にする?」 赤、青、緑などベタな配色が帽子のとんがりを巻いている。さらにエリには表現できそうにない色まで様々な帽子を出された。形も様々で、マリーのように帽子の頭が二股や三股、トドメは5つにまで分かれているものまである。 「………………………………………これがいいです」 少し悩んで選んだのは、赤色の一般的な帽子だった。二股は似合いそうにないし、さすがに5つに分かれたものは、奇抜すぎて却下した。 「決まりね。それじゃ、2人に見せに行きましょう」 「可愛い! エリちゃん似合うよ」 「そ、そう? でもマリーちゃんに言われると、皮肉に聞こえちゃうな」 「似合ってるよ」アンナの意外な言葉に、すこし嬉しくなったが、ぬか喜びだった。「確かに、地味さが良い感じにマッチしてるよ。うん。似合ってる」 「お世辞でも褒めろ!」 「褒めたろ? 『地味』だって」 「褒めてない!」 「まぁまぁ、2人とも落ち着いてよぉ。喧嘩してると日が暮れちゃうよ」 マリーに宥められエリは怒りを静めた。アンナを嫌いなわけではないが、素直ではないところは好きになれないと思った。 「それじゃ、コリンズさん、請求はお父様宛にお願いします」 「了解しました~。ホント、マリーちゃんにはお世話になってるわね。これからもヨロシクねぇ」 手を振るコリンズをあとに険悪な2人と純真な1人は店を後にした。
店へと来た道を引き返し、橋を渡ったところで右折して直進した。 「な、なんで、こんなに迷路みたいなのぉ」息も絶え絶えにエリは漏らした。さすがに、もう限界である。 「水路の関係もあるが、防衛のためだ。侵略された場合に絶大な効果を発揮するように作られたらしい」 「侵略された場合って、一度も侵略されてないんでしょ? 戦争もしてないみたいだし……ただ疲れるだけじゃん」 「そういうな。もうついたぞ」 「それを言うなら、『やっと』ついたぞ、でしょ」 「いらっしゃ~い……ってアンとマリーか。ん? 見慣れない子がいるね」 「こいつはエリ。マイケル、お前と同じ客人だ」 かゆそうに頭を掻いていたマイケルは客人と知った途端顔色を変えた。 「おぉ! 客人なんて凄い久しぶりに見たよ! 僕はマイケル。アメリカのシカゴでアリンコみたいなスケボーショップ開いてたんだ。ま、今じゃ、昔の話だけどね」 手袋を取るとエリに握手を求め、エリは握手を返した。 「マイケルさんはアメリカ人なんですね。だけど、魔法の国でスケボーって不思議ですね」 「この世界で生きて行くには、働かなくちゃならないだろ? ハンバーガーなんか存在しないし、有る程度稼がないと。それに、何か人気出ちゃってさ」 マイケルは子供のように嬉しそうに笑った。 「人気出ちゃった?」 「エリちゃん」マリーに袖を引っ張られた。「この部屋にあるボードは全部、注文の品なんだよ」 部屋の中に掛けてあったスケートボードは数十を超えている。奇抜なイラストが入ったデザインから色だけのシンプルなものまで、豊富に揃っている。これが全部売れていくなんて驚きだ。 「だけど、どうしてスケボーが魔法の国で人気なの? 乗り物といえば箒じゃない?」 魔女といえば箒。定番中の定番で、魔女の乗り物といえば箒だろうとエリは思っている。スケボーを蹴っているのは斬新ではあるが、言わずとも変である。 「今時、箒なんてのは時代遅れなんだよ。箒を使うのは、爺さん婆さんだけだぞ」アンナが仕方ないと言った表情で説明した。 「魔法石?」 「そう魔法石。これのおかげで空も飛べるように改造できたんだ。それにデザインが良いって若い子たちに受けてね。まぁ、何よりも、貴重な魔法石と資金、実験をしてくれたモラン家に感謝だよ」 「どういたしまして」マリーは笑う。 「マリーちゃんちって凄いんだね」 貴重なものから資金まで簡単に提供する。 「それで、マイケルさん。注文の品は出来てますか?」 マリーが訪ねると思い出したように手を叩きマイケルは店の奥へと向かい、騒々しい音を出した後、一枚のボードを持ってきた。 「急いで仕上げたから出来てるよ。早い、速い、安いが売りだからね。これはその子のだったんだね。……あれ? でも魔法を使えないと乗れないよ?」 マイケルは魔法を使えない。 「大丈夫」アンナはエリの肩に手を置き「こいつはアルマを使える」 ※明日公開 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2008.12.25 23:29:59
[小説] カテゴリの最新記事
|