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ベックリンが描いた何枚かの死の島のうちの1枚がこれ。
ベックリンという画家のことは当時何も知らなかったのだが、たまたま画材やさんだか美術書専門の古書店だかで、古い“みずゑ”のベックリンの特集号を見つけた。 神話に題材をとった絵が多いのだがどれもタッチが濃密で、色欲に駆られた神に追いかけられて逃げまどうニンフがあまりにも肉付きがよかったり、半獣身の神の姿が生々しかったりして、その本は彼にあげてしまった。 その後、1年くらいして私は一人でヨーロッパへ旅行に行った。 そのときどうしても、ミース・ファン・デル・ローエの新ナショナルギャラリーが見たくて西ベルリンまで行った。 当時はまだドイツは東西に分かれていてベルリンは東ドイツ側にあり、国境を列車が越えたときは少なからず緊張した。 ミースの建築はやはり素晴らしく、また、係員のおじさんたちがとても親切で気さくに話しかけてくれ、キャンディーまでくれたのが嬉しかった。 ただ、ドイツ語は第二外国語としてとっていたにもかかわらず殆ど理解できなくて、建築を勉強したのでここを見にきた、ということをわかってもらうのがやっとだった。 この美術館はメインの展示会場が地下にある。 たまたま何か特別展だったらしく、有名な画家の画集で見たことのある絵が数多く展示されていた。 確か、ダヴィッドやドラクロワもあったような気がするが、よく憶えていない。 ムンクの「思春期」もあって、驚いたことに思っていたよりもはるかに大きい等身大くらいの絵だった。 ムンクも好きな画家のほうに入るが、有名な「叫び」よりも私は「マドンナ」「思春期」「病める子」などのほうが好きだ。 そういえば文庫本の「死の島」の表紙は上下巻ともムンクの版画だった。 一通り見た最後、出口のガラスドアを背にした正面の壁に、ひっそりとその絵はあった。 ベックリンの「死の島」 まさかこんなところで本物と出会うことになるとは思ってもみなかった。 多分“みずゑ”に載っていたのは別のバージョンだと思うのだが、この絵は印象が全く違った。 「思春期」とは逆にこちらはかなり小さく、また印刷の悪さを考慮してもあの重苦しい陰鬱さは感じられない。 とはいうものの、やはりこの世のものではない不安さや不穏さ、といったものはこの小さい絵の中に十二分に溢れていた。 私にとって一番印象的だったのは、なんといってもその空の色だった。どう形容すればいいのかわからない、なんともいえない不思議な色をした空だった。 波一つない鏡面のような水面を、死者を載せたカロンの艀が進んでいく。その静かな光景の中で、嵐の予兆を思わせるような不安に満ちた、それでいて明るさと美しさをも併せ持ったその空の色は今までに見たことがなく、また本物を見なければ決してわからないだろうと思われた。 こちらで比較してみることができるが、やはりあの色は再現できない。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2005年11月12日 13時56分20秒
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