以前にもこのブログで、「農業とは病害虫との戦いである。」と記したが、又してもコナジラミの大発生となり、今更ながら農業の難しさと害虫の繁殖力の凄まじさに驚愕の日々である。
梅雨の前に、コナジラミの発生を見、
長雨続きで、農薬散布が適期に出来なかった事(雨天時は散布液が乾かないので晴れた日の午前中に防除を行うのが常識である)にも大きな原因があるかと思うが、
防除(その1・・・物理的防除1) では光防虫器、
防除(その2・・・物理的防除2) では粘着トラップによる防除を行い、読者に紹介もしてきた。
その後も、「粘着くん」(この資材については改めて後述する)というヒドロキシプロピルデンプン(キャッサバ等が原料の加工用食用でんぷんの一種で、農作物生産者および消費者に対する安全性はきわめて高い防除資材)による気門封鎖剤としての使用で結構頑張って散布してきたのであるが、ここにきて防除による死滅数より、産卵孵化数が完全に勝り、例えて言うなら今流行のパンデミック状態となってしまったのであった。
(葉の裏で繁殖するコナジラミ類)
コナジラミは両性生殖の他、単為生殖もあり、ほぼ3週間で1世代、雌成虫の平均寿命は30~40日だ。
1雌の平均産卵数は120個程度だが、500卵を産卵する個体も確認されている。
増殖はネズミ算的にすすみ、1株当たり1雌がいる場合、1か月、2か月、3か月後の発生数は、それぞれ15頭、235頭、3,605頭となるとされる。
一説によると4世代で700万匹になるという計算もある。
又コナジラミは、葉の裏にいる。
何故ならまず、葉の裏側でないと食害するための口吻が、目的の部分に届かない。
又水が嫌いで雨を避けるため、そして直射日光を嫌うため陰の部分を好む。
それから幼虫・さなぎの排泄口が背中部分にあるので、排泄物が自分にかからないようにというわけだ。
「農薬散布は葉の裏まで丁寧に」と指導されるが、実際完璧な散布は至難の業だ。
防除の必殺技はなかなか無いのであるが、恐る恐るここは一発奥の手のヒート・ショックをやるしかない状況と判断、決行したのであった。
それというのも、このヒート・ショックという方法は、ハウス内の温度を45~50℃まで上昇させ、高温で病害虫を死滅させようという、正しく物理的防除というか、小学生にも解る原始的方法なのだ。
恐る恐るというのは、こういうことだ。
ファーマータナカには以前この方法で失敗の経験があるのだ。
具体的には、高温で葉先が焼けを起こし、トマトの実は言わば煮えたような状態となり、コナジラミを全滅させるどころか、その前にトマトを全滅させてしまったのである。
全滅すれば、1粒の種を播く事から始めなければならず、収穫が可能になるまで、およそ半年を要するので、おそらく被害額は1,000円万円相当となり、愚妻やスタッフから冷たい視線を浴びせられ、それがトラウマとなっているのであった。
その前に黄化葉巻病というウイルス病(この病気についても後述予定)に数回やられていて、全滅を繰り返しており、絶体絶命、再起不能の場面での大ポカだったのだ。
ここまできて賢明な読者はもうお解りであろう。
世界的食料危機を乗り越え、日本農業を再生させるためにも、ユネスコやアムネスティに寄付をされる大きな人類愛の心で、ここは早速ファーマータナカのWEBページ「フルーツトマト 森のトマト姫」からご注文をお願いしたい。
おっと話がそれたが、ヒート・ショックとは、神奈川農業総合研究所・生産技術部が開発した、「温室密閉処理による夏キュウリの病害虫発生抑制」をヒントにした、ファーマータナカの一世一代の防除法なのだ。
問題は湿度だ。
湿度が高く保たれていれば、葉やけは起こさないとされる。
通常「蒸し込み」といって、普通の栽培でもハウス内を高温にして病害虫の防除を行うが、それは作が終了して、次作が植えられるまでの作物がない状態で行われるのが普通だ。
ファーマータナカは水平放任栽培の通年栽培という特殊な栽培方法で、栽培が切れることがないため、トマトを植えたままのヒート・ショックをやろうというのだ。
そのために、細霧冷房装置を用いて、ミストを発生させ、ハウスにいわば巨大なミストサウナ状態を作り出そうとうわけだ。
ミストの発生が少なければ、湿度は低くなり、温度が上がりすぎて葉やけを起こす。
ミストの発生を続けすぎると、温度が上がらずコナジラミは死滅しない。
晴天の日と時間帯を選んで決行するのだが、それでも雲が太陽を隠す事もある。
ファーマータナカはハウス内に釘付けになり、仙人のごとくトマトの木と一心同体となって、温度と湿度を体感し、調節する。
コナジラミが死ぬのか、トマトの木が死ぬのか、はたまたファーマータナカの頭脳が焼けてボケるのか、壮絶な戦いが繰り広げられるのである。
今回は1週間の間を空けて、2回のヒート・ショックを決行。
コナジラミの密度は限りなく減少したと思われるが、完全に0になったわけではない。
1匹、1つがいのコナジラミがいれば、又上記の繁殖は続いていくのである。
人類が農業を辞めない限り、この戦いは永遠に続いていくのである。