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2016年07月29日
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テーマ:戦ふ日本刀(97)
カテゴリ:戦ふ日本刀
 
 
 三月三十日。晴れ。
昨今の暖気で季の花が一斉に咲いた。遠景は桜花さながらだ。
竹原軍曹の室へ行ってみると、浅い支那の土器にそれが生けてある。
見事な古流だ。これは東中尉の当番の目付特務兵が生けたのだという。
この兵隊は出雲大社付近の出身で、生花のお師匠さん。
 今日も一日無言の修理作業だ。修理を早目に切りあげ、五時頃街の湯に行った。
済寧の浴場と同じ形だが、規模がずっと小さい。
今日は臨時休業で、明日わかす水をくみ込んでいるところだ。
そこを出でてあたりをぶらつく。
街々の住民は、八、九分通り避難していて、ほとんどガラ空きである。
日本兵は良民を殺戮するという逆宣伝に驚いての事だというが、
実際残って住んでいる連中は、かえって日本兵の保護を受け、
物を売ったり、使用人となったりして儲けている。
ほど近い泗水縣庁の前には、昔から由緒の地と見え
『邑侯仁政碑』などという古碑がたっている。
やがて『日本軍仁政碑』が建てられるだろうなどと話しながら東の城壁にのぼる。
外観はがっしりしているが、内部の土壘〔どるい〕は半ば崩壊して礫土が露出している。
城門の上から眺めると、郊外の村々が、遠く近く樹々の間に点綴〔てんてい/てんてつ〕し、
東南北は、水成岩の低い山々に囲まれて、
短い支那の春がまさに酣〔たけなわ〕ならんとしている。
麦の緑、李花の紅、まことに飽かぬ景色ながら、民家田圃〔でんぽ〕には人っ子一人も見えない。
ただあちらこちらに薄汚ない水たまりに、カエルがかいかいと啼いている。
 
 日はうらら泗水の城のをちこちを島のごとくに木の芽青み来る
 
 かいかいと蛙なくなりこのしろものどかに春となりにけるらし
 
 門の上に歩哨が立っている。
昨今討伐しているのはアノ山だと、北方二里ばかりの山を指す。
目を南に転ずればはるかに低い丸味のある山が見える。
名を尼山といい、そこの麓が孔子の生まれた処であるという。
西面すれば、赤い太陽は今まさに沈まんとする一歩前で、
ここもカラスの巣がどこの樹々にも黒く見え、
彼らのみは盛んに生きる営みを営んでいる。
この城壁の上を、北側からしずかに一周してみる。崩れて危ない箇所もある。
数町四方、一巡して半里に足らぬ小城である。
 ふと城壁の下の土民の家から唱歌の声が聞こえてくる。
しかもやさしい女の肉声だ。炊烟〔すいえん〕がたちのぼって、
前庭には子供が遊んでいる。
ここだけは、こっそりと平和を拾っているのだ。





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Last updated  2016年08月23日 03時11分18秒



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