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カテゴリ:光明遍照
だが、不思議なことに、自分を貶めれば貶めるほど、駿河麻呂は奇妙な安堵感を覚えた。
落ちるところまで落ちてしまえば、あとはもう冥い絶望の底で漂っているだけだ。自分の辛い運命を嘆くことも、儚い望みを抱いてもがき続けることも、もはやない。 そこには一種の静寂があった。 それは堅香子の方も同じだったのかもしれない。 堅香子は文句も言わずに毎日多くの客を取り、そのせいかだんだん弱っていく身体にもまるで頓着しなかった。男に求められるままにどのようにも身体を開き、娼婦らしい振る舞いをすることで自分をわざと貶めている風すらあった。 それに、誰かに力を借りて、ここから救われようとも思っていないようだった。 先程、兄弟子は駿河麻呂が金も力もない男だと嘲笑ったが、今の駿河麻呂には僅かながら蓄えもあるし、駿河麻呂を気に入っている公麻呂に頼めば相当の借金も申し込めるだろう。もし、堅香子が望むなら、その身を娼館から請け出してやることも出来るのだ。 だが、堅香子は自分からは決してそんな話はせず、駿河麻呂が仄めかしても首を振るだけだった。そして、ただ火が消えていくように痩せ衰えていった。 ↑よろしかったら、ぽちっとお願いしますm(__)m お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2008年12月02日 15時09分31秒
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