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カテゴリ:光明遍照
「それで、石嶋の爺をどこへやった?」
「お役人がもうほとんど死にかけておるから早々に捨てよとおっしゃるので、我らが荷車に載せて佐保川の河原へ運びました。ここを出る時には、熱が高くてあまり意識もないようでしたので……今頃は、もう……」 消え入るような老僧の言葉を最後まで聞かずに、駿河麻呂は僧坊の扉を叩きつけるようにして閉じると走り出した。 迂闊だった……。暗い後悔の念が胸を噛む。 今朝掘っ立て小屋を出る時、石嶋は熱が高くひどく弱って見えた。だが、心配する駿河麻呂に石嶋は微かに笑って、自分は大丈夫だからと駿河麻呂を送り出した。 もちろん、駿河麻呂は出来るだけ素早く仕事を済ませて家に戻るつもりだったのだが、あの兄弟子へのつまらぬあてつけから、つい堅香子のところへ行ってしまったなんて。もし家へ戻っていたのなら、役人の手に渡らぬように、そっと寺から運び出すことが出来ただろうに。だが、今は爺を何とか探し出すことが先決だ。もしかしたら、まだ生きているかも知れぬ。 駿河麻呂は松明に火をつけると、それを持って河原へ走った。今宵は月もなく、わずかな星明りの他は真っ暗闇だった。駿河麻呂は松明の火の粉を振りまきながら、暗い河原を必死になって探し回った。 ↑よろしかったら、ぽちっとお願いしますm(__)m お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2008年12月09日 16時40分55秒
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