男声合唱組曲
「雪国にて」
詩:堀口 大學 作曲:多田 武彦
1、関川の里
越(こし)の国中つ頸城(くびき)の
名香山の関川の里
この里にいくさをのがれ
この里に父を死なしめ
この里に雨露をしのぎて
この里に餓ゑをしのびき
妙高の裾野の末の
深雪(みゆき)ふる関川の里
2、或る誕生
雪の脇腹から彼女は生まれた
梅花の香る夜明けでした。
雪がしばらくやむと
やがて明るい朝でした。
鶴が輪を描いて舞ってゐた
清らの苗を空に鳴らして。
暮れ方天使がおりて来た
白百合の翼の白い天使でした。
夜どほし月光は窓からさして
揺籃(ゆりかご)のまはりを去らずにゐた。
この児を雪子と名づけます
清い乙女になるやうに
3、雪の中の歌
遠くで僕は歌ってる
神にもそれはきこえない
千里もつづく雪の原
白い世界の一軒家
しかも四月のばらの歌
人にもそれはきこえない
4、昔の雪
一人の女の子
一人の女の子
あの女の子
そう女の子
みんな昔の雪だ
みんな昔の雪だ
ああ 昔の雪は
どこへ行ったのか
5、老 雪
北国も弥生半ばは
雪老いて痩せたりな
つやあせて 香の失せて
わが姿さながらよ
咲く花は 見ずて消ゆ
6、雪中越冬
越後の冬は長いから
半としつづく冬だから
高田の雪は深いから
人の情けと似ないから