FRBのグリーンスパン前議長たちが主導した金余り金融政策により世界はもとより、アメリカ自身も疲弊し、機軸通貨ドルがゆらいでいる今・・・・・
「通貨マフィア」のひとり、元財務官の行天豊雄さんへのインタビューです。
(大使の勉強も兼ねて、朝日新聞より転記しました)
元財務官の行天豊雄さんへのインタビュー
<ドルの落日>
(デジタル朝日ではこの記事が見えないので、2/7朝日から転記しました・・・そのうち朝日からお咎めがあるかも)
Q:外国為替市場の混乱が収まりません。円はこの1年で、戦後最高値を何度もぬりかえています。
A:通貨変動の最大の原因は、米国という最大の原因は、米国という疑問の余地のない超大国がなくなったからです。戦後世界はよかれあしかれ米国の一極支配。ドルは米国の圧倒的な優位を支えとして、機軸通貨であり続けた。その米国経済がだんだん弱ってきた。稼ぐ以上にお金を使う宿あのような過剰消費体質に加え、金融や情報の役割りがとても大きくなり、実体経済を支えている生産や投資が力を失った。世界の貿易や生産に占める米国のシェアは下がり、ドルも信用できないという感じがじわじわ出てきています。
今の超円高についていえば、物価下落が続くデフレに日本経済が陥っている限り、購買力が増した円が買われて円高になる、という要因も有ります。しかし根本には、米国の覇権的な地位の低下がある。
Q:そのことを米国自身は自覚しているのでしょうか。
A:サブプライム危機以降、経済と社会を再生しないといけないという意識は強まっています。これまでは、機軸通貨国だから、財政や貿易の収支が赤字でも自分でドルを刷ればよかった。世界中からお金が集まってくるのをいいことに、膨大な借金で身の丈以上の消費をしてきたが、それはもはやできない。ドルが機軸通貨でなければ、借金が積み上がることはありえなかったわけで、米国はいま、機軸通貨を利用しすぎた代価を払わされている。
Q:ドルが暴落する恐れは。
A:米国の力が弱ってきたのは確かですが、まだドルに代われそうな通貨はない。ドルが売られて暴落すると唱えた人は何人もいたけど、結局、その予言は当っていない。各国の外貨準備っをみるとユーロはドルに次いで2番目に多いが、機軸通貨になる可能性はゼロでしょう。ユーロ圏の人たち自身が欧州の共通通貨で十分と考えている。今回の債務危機で、税や予算など財政面の統合ができないままでは共通通貨すら難しいことがわかりました。
Q:人民元はどうですか。中国は米国と覇権を争う姿勢です。
A:中国は、米国という一国の金融政策のもとで管理されているドルを、世界中が使わされているのはおかしいと明言している。貿易の決済に人民元を使い、資本規制を緩め、上海を国際金融センターにすることで、人民元を主要な国際通貨の一つにしようとしているのは確かです。
ただ、機軸通貨にしようとまで思っているいるのかどうか。中国は人民元をドルに事実上、固定してきた。人民元の相場を割安に抑えることで輸出を増やし、稼いだお金を資源の確保や途上国の援助などに戦略的に使う方が得だと思っているのでしょう。成長戦略とのかねあいで、為替政策も極めて現実的に考えている。
Q:ドルが没落し、ユーロも人民元もとって代われないとすれば、通貨は無極化するのでしょうか。
A:ポンドからドルへの機軸通貨の転換には、英国の衰退から約50年かかった。今後数10年はドルが一番使われる通過として残るでしょう。ドルに加え、ユーロ、ポンド、円、人民元が通貨の「新G5」になる。この5大通貨国・地域が話し合う仕組みを考えておく必要がありますね。
Q:米国は機軸通貨国としての責任を果たしていますか。
A:ドルの通貨価値を安定させることは重視してきた。ただ、米国にとって通貨の安定とは、国内のインフレをコントロールするということ。ドルとほかの通貨の関係には関心がなかったのではないかな。実話かジョークかわかりませんが、ロンドンで通過会議があった時、英国の蔵相が隣にいた米国の財務長官に「今朝のドルの相場はどうだね」と聞いたら、財務長官はきょとんとして「1ドルは1ドルだ」と言ったという。そうしたドル中心の天動説のような感覚があったのは確かです。
Q:米国は「強いドル」とか「ドル安容認」とか為替政策を国益優先でやり、日本も振り回されました。
A:ただ、米国も、世界が相互に依存しあう関係になったいることを身にしみて感じているはずです。いまの金融緩和策にしても、あふれたドルが海外に流れ、原油価格などが上がって米国でも大騒ぎになった。国際的にもインフレの輸出だと批判されている。失敗したという自戒の念が出てきていると思いますね。
Q:米国は1971年に、ドルと金の交換を停止しました。その後、主要通貨は変動相場制(フロート)に移り、通貨価値の調整を市場にまかせました。それは正しかったか。
A:好んで変動相場制にしたわけではない。ドルの値打ちが下がって固定相場制がもたなくなり、残された道がなかった。金と交換する必要がなくなったドルを膨張させ、経済成長をはかる麻薬みたいなもの、と危ぶむ人も多かった。でも変動相場制にすれば、黒字国の通貨は上昇し、赤字国の通貨は下落するから、貿易不均衡は自動的に調整されるはずだという理屈で正当化したんです。ところがそれが実現しなかった。
Q:計算があったと。
A:もう一つ予想外だったのは市場の肥大化です。アングロサクソンの市場で起きた金融改革が世界中に広がった。情報技術(IT)と金融技術が進歩し、デリバティブ(金融派生商品)や証券化商品がどんどん開発された。さらに米国を筆頭に成長維持のための金融緩和が続き、お金が市場にあふれた。いま通貨の取引規模は1日に3兆ドルにもなっている。世界の国内総生産(DGP)が年間で60数兆ドルなのに。モノやサービスなど実体経済の決済はわずかで、少しでも高いリターンを得ようとお金が世界中を動き回っている。
Q:モノ作りの力が落ちた米国が金融で稼ごうと金融自由化を各国に迫り、市場を肥大化させたのでは。
A:市場は自由にしておけば大丈夫だ、金融工学でリスクは管理できるという根拠のない過信があった。そうした考え方の象徴が、グリーンスパン前米連邦準備制度理事会(FRB)議長でした。
Q:85年のプラザ合意以来、日本は米国の政策につきあいすぎた、という反省はありませんか。
A:我々も米国の財政や貿易の赤字には危惧を抱いてきました。だが、機軸通貨国であるのみならず、世界で一極支配的な力を持った米国の政策を変えられる国はなかった。特に日本の場合、自動車など雇用の裾野が広い輸出産業が米国市場に依存している。日米安全保障条約もある。米国に圧倒的に頼ってきたから、日本は切れるカードもなかった。
Q:巨大なモンスターのようになってしまった市場をコントロールできるでしょうか。
A:もうパンドラの箱は開いてしまった。市場を完全に管理するというのは不可能です。ただ、ITと金融の発展が、世界経済にプラスになった面があることも間違いない。グローバル化と金融情報化の流れがもとに戻ることはないのだから、各国が協力して、行き過ぎたマイナス面を少しでも減らしていくしかない。
Q:不安定な市場の動きが続かざるを得ないということですか。
A:変動相場制のもとでは、為替相場の安定、金融政策の独立、資本の移動の自由の三つを同時に実現するのは難しい。金融規制や政策協調で対応していくしかない。各国で話し合って金利差を調整したり、市場に介入したりすることで、少しは影響を与えることはできる。ただ、経済がグローバル化した以上、一つの国だけがいつまでも勝ち組で残り、ほかは負け組ということにはならない。その認識を共有しなければ。
Q:世界で強まった自国の利益を優先する姿勢を変えられますか。
A:突き詰めれば、民主主義が、資本主義や市場をどこまで管理できるかということです。資本主義である以上、利益の極大化は否定できないが、それを無条件で認めるのか。人間のつながりというものを市場経済の中で再生できないか。日本でも初期の産業資本主義のころは、事業は世のために役立たないといけないといういう信念が経営者にあった。東日本大震災でも、被災企業を競争相手が技術者を送り込んで支援しました。しかも何の対価も求めずに。そうした資本主義もあり得るということを理論的に体系化し、日本が世界に示していくことも必要でしょう。
<取材を終えて>
ドルが誰でも疑わずに使える機軸通貨だというのは、一種の共同幻想だったのではないか。行天さんの話を聞きながらそう思った。米国の経済力という裏づけを失い、幻想は崩れた。ドルの代わりはなく、世界共通通貨も夢物語だ。肥大化する市場で漂流する通貨を再び安定させる「錨」は何か。それが見えてこない。
(編集委員:西井泰之、尾沢智史)
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経済がよくわからない大使が、
FRBという猫に、金融取引税という鈴を付けるにはと思い悩んでいるさなか・・・
FRBのバーナンキが、またインフレターゲットで低金利を発表したとか。