フリードバーグさんがインタビューで「日米は役割分担を 押し返しが必要」と説いているので、紹介します。フリードバーグさんは米プリンストン大国際安全保障研究センター所長。
フリードバーグさんへのインタビュー
<米保守派の対中感>
(デジタル朝日ではこの記事が見えないので、8/28朝日から転記しました・・・そのうち朝日からお咎めがあるかも)
Q:著書の中で「ニクソン・キッシンジャー時代以来、米国の政治指導者や外交官、中国専門家は、対中関係のプラス面を強調し、問題点をあまり語らないようにしてきた」と批判しています。オバマ政権の対中政策も同様なのでしょうか。
A:過去20年にわたって米国の対中戦略は大筋で変わらない。経済や外交面で関係の拡大、深化を図るいわゆる「関与」を追及する一方で、「力の均衡」も達成しようというものだ。オバマ政権は関与をより強調し均衡策を抑制気味にしようとした。「ヘッジ」という単語は公式文書から事実上姿を消した。
しかし2010年から、方針転換した。米国に対してだけでなく、日本を含む地域各国に対して中国が示した一連の強硬姿勢が懸念を招いたからだ。関与を放棄したわけではないが、均衡をはるかに重視するようになった。昨年、オバマ大統領自ら発表した、豪州への海兵隊の新たな展開がもっとも顕著な例だ。
Q:対中政策が振れたことは共和党政権の時代にもありました。01年の同時多発テロを受けてブッシュ政権は、安全保障戦略の焦点を「中国」から「テロとの戦い」へと切り替えました。降り返れば「寄り道」だったのではないですか。
A:全くその通りだ。米国の中国に対する焦点をそらせたという意味で、9.11は中国にとって戦略的な「」だった。それから10年、米国はようやく中国に戦略的焦点を戻した。しかしこの間、中国は軍事力を増強し、中国近海や西太平洋で米軍の行動を制約する「アクセス拒否、領域拒否」能力を身につけつつある。もし、9.11とテロとの戦いがなければ、米国は対抗手段の開発を、今よりずっと早く進められていたと思う。
Q:オバマ政権は、「アジア回帰」の一環として米国は「太平洋国家」だと繰り返し表明しています。中国はどう見ているのでしょう。
A:中国からみれば、米国は「よそ者」だ。第2次大戦の結果、日本や韓国と締結した「不平等条約」に基いて兵力を各国に展開しているが、米国はいずれこの地域を離れ、中国が本来の支配国としての地位を回復すると考えている。だから同盟関係を弱体化させ、我々をこの地域から追い出そうとしている。孫子の言う「戦わずして勝つ」だ。
Q:達成できるでしょうか。
A:うまくいかないと思う。まず、地域諸国の多くが中国支配を望んでいない。もう一つは、中国自身の外交姿勢の問題だ。事実上、他国に均衡策をとるように仕向けている。たとえば政権交代後の日本との関係だ。(米国に距離を置く姿勢をみせた)民主党政権の誕生は中国にとって、冷戦終結後、最大のチャンスだった。それなのに(尖閣諸島沖漁船衝突事件という)大したことのない外交問題が起きると、中国は深刻な外交対立にエスカレートさせてしまった。日本国民に、醜い顔を見せることで中国の支配下ではとても生きていけないと気づかせた。
Q:しかしその後、強硬路線を多少緩和しました。
A:戦術的撤退に過ぎないと思う。ただ、08年から10年にかけてみられた中国の一連の対外的強硬姿勢が、それまでのより穏健な外交戦略からの(一時的な)「逸脱」に過ぎないのか、あるいはそれこそが「未来の波」なのか、まだよく分からない。
Q:米中間には相互不信が深まっていると最近よく聞きます。なぜでしょう。
A:中国が経済的、軍事的に強大化すること自体に大きな懸念は感じない。問題なのは、中国の富と国力が増大する一方で、共産党の一党支配という政治体制に変化がないことだ。この状態が続けば、すでに顕在化している米中間の緊張はさらに高まる。
米中の競争関係は単なる事実誤認や誤解ではなく、より本質的な要素によって引き起こされている。その第一は、最も有力な国家(米国)と、急速に台頭する国家(中国)との避けられない緊張関係だ。もう一つは、イデオロギーギャップ。すなわち、中国が米国とは全く異なる政治体制を敷いていることだ。米国を民主主義的価値を広めることで敵対する覇権国とみなしている。
Q:米国はどうすればよい、と。
A:力の均衡を維持する意志を明確に示すべきだ。中国の政策決定者に、「脅し」や「強要」によって目的は達成できず、「協力」に、より焦点を置くべきだと理解させるためだ。私は関与の効用には限界があると思う。よく北朝鮮やイランの核問題、あるいはテロとの戦いをめぐって中国との協力がいかに重要か、そのために対中関与がいかに必要かという話を聞かされた。しかし、大した成果はあがっていない。
関与策が中国の政治体制の変革に弾みをつけるという考えも米国では見直されつつある。関与策によって民主化が進むのではなく、むしろ独裁体制を維持したまま強大化するのではないかという見方だ。
Q:しかし米国は国防予算削減の影響などで、対中均衡を保てなくなる可能性もあるのでは。
A:中国にアジア太平洋地域を支配してほしくないと思っている国々は、米国のほか日韓豪印に加えてベトナムやフィリピンなど数多い。これらの国々が足並みをそろえれば、均衡を保てないわけがない。政治的意思の問題だ。さらに考えなければならないのは中国が抱える潜在的な脆弱性だ。これまでのような高い成長率を今後も必ず維持できるわけではない。中国支配は必然ではない。だから中国に譲歩して、求めに応じるのは時期尚早だ。 もし、中国との均衡維持に失敗したら何が起きるか。紛争に突入することはないにしても、中国がこの地域で今よりはるかに大きな影響力や支配力を手にすることになる。
Q:11月の米大統領選の結果、共和党のロムニー政権が誕生したら対中政策はどう変りますか。
A:ロムニー氏はすでに、中国の通貨政策や知的所有権問題を巡って厳しい発言をしている。紛争を求めているわけではないが、中国に対して現政権より強い立場で臨むと思う。国防費もできるだけ今の水準を維持しようとするだろうし、アジア太平洋に重点配備される海軍の規模と能力は拡大する考えも表明している。
Q:日本にはどういう役割が期待されるのでしょう。
A:日米両国が行うべきことは、アジア太平洋で中国と競い合うにあたって、どのような役割分担をするか、より明確な相互理解をつくることだ。具体的には、シーレーンを中国海軍に遮断されないようにすることだ。日本国内にある米軍基地の守りをさらに固めることも重要だ。サイバー領域でも利益は一致している。武器輸出3原則を緩和したことは良かった。均衡をはかるうえでは第三国を支援することも重要だが、日本は米国が行わない役割を果たすことができる。
Q:日中間では尖閣諸島問題をめぐって再び緊張が高まっています。日本がとるべき対応は。
A:領有権問題で中国は、とにかく押して、押して、押しまくる姿勢で臨んでくる。抵抗されるといったん引くが、もとのところまでは戻らない。だから、押し返すことが必用だ。中国の言う「ウィンウィン」の解決策があるのかどうか分からないが、もし本当にあるとしたら、それは地域諸国が中国に敢然と立ち向かう場合だ。
<取材を終えて>
フリードバーグ氏は「アジア政策のタカ派」。それらしい発言が相次いだが、中国との相互不信のくだりは、7月に掲載した穏健派、リバソール氏(ブルッキングズ研究所)と変らなかった。米国では立場を超えて危機意識が共有されている。
(編集委員:加藤洋一)
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領土問題では、押し返すことが肝要なようですね。フリードバーグ氏は「ウィンウィン」の解決策についても疑問を呈しています。さすが醒めていますね。
この記事も
朝日のインタビュー記事スクラップに入れておきます。
リバソール氏へのインタビュー
米中不信の時代が来るのか