「メビウスの輪」3信吾君に美術展に誘われて、ドキッとした。 なんで、私の好きな画家を知ってるの? 東山魁偉は以前からいいと思っていたのよね。 でも、いくら好きな画家でも、 嫌いな人とは見に行かない。 彼となら行ってもいいかなと思ってしまった。 彼に見つめられると、吸い込まれそうで、 ついうつむいてしまう。 私は大人しく見られるけど、 結構芯は強いつもり。 というより殻が固いのかも。 軽々しく返事したくはないけど、 思わず「私で良ければ・・・」と言ってしまった。 待ち合わせの時間より少し早めに行ったのに、 もう彼は来ていた。 いつから来ていたのだろう。 待ってる姿を見たら、胸が苦しくなった。 駆け寄りたい衝動にかられたけど、 抑えて、わざとゆっくり歩いた。 手を振って迎えてくれる彼。 私もつられて応えてしまった。 勿体つけてるわけではないけど、 なかなか飛び込めない私。 「待たせちゃった?」 「今来たところだよ。」 気を遣わせないように言ってくれたのか。 彼の優しさが嬉しい。 「じゃあ、行こうか。」 「うん。」 さりげなく私の手を取って、包み込む。 触れられるのが苦手だけど、なぜか嫌じゃない。 私の方が年上なのに、いたわってくれてるみたい。 守られてるように感じてしまう。 「東山魁偉って、知ってる?」 「好きな画家よ。」 声が柔らかいからかな。 温かい感じがするのだ。 私も穏やかな気持ちになれる。 「東山魁偉が好きだから、来てくれたの?」 「それだけじゃないけど・・・。 あなたこそ、どうして私を誘ったの?」 私が新歓コンパで介抱したから、そのお礼?」 あまり期待しちゃいけないと思うけど、 好意を持ってくれているんだろうとは思う。 「お礼なんかじゃない。」 急に強く言われてビクッとした。 彼はまっすぐに私を見つめるのだ。 目を伏せたけど、追いかけてくる。 握った手に力がこもって痛い。 私が泣きそうな顔で見上げると、 手を離してくれた。 「ごめん、驚かせて。でも、好きなんだ。」 真剣に言ってくれた彼の顔が忘れられない。 「ありがとう。」 思わずそう言ったけど、 他にどう言っていいかわからなかった。 私も彼のこと嫌いじゃない。 というより好きだけど、 そう言ったら、つき合うことになるかもしれない。 以前つきあった時の苦い思い出。 男性恐怖症とまではいかないけど、 触れられることが怖いのだ。 でもなぜか彼に手を握られても 怖くはなかった。 もしかして彼とならつきあえるのかも、 と思っていたら、 「私も好きになりそう・・・」 と言ってしまっていた。 続き ジャンル別一覧
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