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カテゴリ:覚書
○有機物の分解に伴い微生物相は遷移する。簡単に言えば、これは対象となるエサが分解 に伴い変化し、また先行する微生物活動の結果、環境条件(温度、酸素、湿気、pHなど) が変化するためである。この分解によって最終的には二酸化炭素と水と無機化合物になる が、これを畑の外で一挙に火をつけてやるのが燃焼、ゆっくり余り温度を上げずにやるの が堆肥化、畑の中で更に時間をかけてゆっくりやるのが有機物のすき込み。燃焼に微生物 活動は介入しないが、後の二者は微生物の繁殖活動。 畑との関係では、燃え残りの灰を撒くことは無機化合物を供給することになるし、堆肥ま たは有機物は、その分解レベルに応じて、それぞれの微生物相とその生育環境をセットと して供給することになる。畑環境の中で、これがどのように遷移するかが最大のポイント。 ○有機物施用で土壌病害を減らせるかという問題は、この考え方を適用すれば有機物の分 解レベルに応じた「微生物相と生育環境」が病原菌の活性化にプラスになるかマイナスに なるか、中立的かによって異なる、といえるのか。 ○作物の栄養代謝と有機物施用の効果 「有機物も、作物を健全な栄養状態で育てるという効果が大きい。最近、有機物の効果と して、微生物活性を高め、病原菌を抑制するという側面が強調されているが、むしろ有機 物の本来の効果は、根張りをよくし、肥料の効き方がゆっくりと長く続き作物を丈夫に育 てることが主である。...乾燥豚糞の施用は、同じフザリウム病に対して、キュウリで は発病を抑えるのに、ダイコンでは助長する。これは、作物に種類によって体内の栄養代 謝が異なり、キュウリでは豚糞の肥効が抵抗性を高めるのに作用したのに対し、ダイコン では窒素の効きすぎなどでマイナスに働くためと思われる」(「土壌病害をどう防ぐ」か ら、111、31.p) ・これは病原菌の活性と作物の抵抗性(栄養代謝)の両面から考えなければならぬことを 示唆している。 ○窒素過多による抵抗性の劣化 「窒素過多になると作物の体内成分として水溶性窒素が増加し、根からの糖、アミノ酸な どの分泌物がふえる。とくに純(絶対)寄生性や根系生息性の病原菌は、この根からの糖、 アミノ酸などの分泌物に直ちに反応し、胞子の発芽が促され根面に向かってくる。さらに 窒素過多の作物は軟弱に育ち、侵入しようとする病原菌の酵素によって植物の細胞壁が分 解を受けやすくなり、植物の抵抗性が弱くなる」(同前、27-28.p) ・窒素過多による栄養生理の乱れによる生成物が病原微生物の活性を高める側面と物理的 抵抗性の喪失との両面。前者については代謝機能の乱れが病原微生物を特異的に活性化す るような相関関係があるのか ・窒素過多で軟弱に育つとは、どういう意味か(作物生理の立場から見ると、どういうこ とか) ○有機態窒素の吸収 「作物は、有機態窒素を直接吸収し、同化することができる。しかし、土壌中の有機態窒 素は、一般に吸収される前に土壌中で微生物の働きで無機化されるから、実際問題として 作物が有機態窒素を直接利用することは比較的少ないと思われる」 「植物はアンモニア態、硝酸態、尿素のほか、アミノ酸も直接吸収利用することができる。 無菌栽培したイネ幼植物の実験では、無機態窒素の変わりに単独のアミノ酸を用いた場合 はグルタミン酸、γ-アミノ酪酸は無機態窒素に近い効果があったが、グリシン、フェニル アラニンの場合は生育が劣った」(「作物栄養・肥料学」文栄堂出版、1994) ・比嘉さんの有機態窒素も吸収しうるという指摘は容認されるが、ここでの記述を見れば それ以上に積極的意味があるかどうかは必ずしも確認できない。 ○有機物の分解レベルに応じて微生物相が遷移するということは、当然、有機物の種類に 応じて(一般的にはC/N比に応じて)繁殖する微生物相が異なることを意味する。従って、 畑の微生物相を多様化する目的のためには、C/N比の異なる様々な有機物を組み合わせて すき込むことが良いといえるか。例えばムギの残カンはそのまま刈り倒し、跡にソバ、ナ タネなどを混播きしてソバの刈り跡にすき込むなどの方法は有効か。 ○微生物相によって土壌の型を分ける比嘉さんの考え方は、有機物の分解に伴い微生物相 が遷移するという問題をどのように捉えるのか。例えば遷移パターンをあるていど類型化 して捉え、ある種のパターンに収めるような管理法を採用するということは可能かも知れ ないが、このへんが比嘉さんの考え方のポイントのような気がする(よく分からない)。 ○「有機物の分解力と植物の生産性の関係」図が、「有機物をどう使いこなす」に掲載さ れている。それによると微生物の活動適温は30-40度で、この温度域で有機物の分解 が最も著しくなる。一方、植物の活動適温は20-30度。この図によれば「土壌中の有 機物分解力と植物の生産力は25度付近でバランスが取れている。この温度より高いと有 機物分解力が植物生産力を上回り、土壌中に有機物が蓄積しない。逆に25度以下では植 物の生産力が有機物の分解力を上回り、その差が有機物として土壌中に蓄積され、腐食と なってゆく」(同書、77.p) この図を、季節的変化・地域的(緯度・高度)変化で読み替えると、どういうことが考え られるか。 ○「土壌中に微生物が定着しうるかどうかは、その土壌条件が、目的とする微生物に適し た生活の場を与えてくれるかどうかにある」(同書、170.p) ・作物の地域特性や季節性と土壌微生物との間に、なんらかの相関関係があるとすれば、 これを無視した作物栽培には代謝系に何らかの変異をもたらしても不思議はない。これと 作物の病害虫害との関係。 ・作物の種差と微生物相のあいだには関係があるのか。 ○根圏微生物の定着に及ぼす環境因子として 1.微生物の相互作用 2.根の分泌作用 3.土壌の物理的・化学的条件 4.作物体の栄養条件 が指摘されている。(同書、171.p) こういう方面から問題を考える視点と比嘉さんの考え方との整合性、または視点の転換は どのように捉えればよいのか。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2006/02/20 02:55:58 PM
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