たそがれのカツドウヤ 1もらった辞令は、子会社のビデオ販売会社だった。入社早々、出向である。 せっかく映画会社に入ったのなのになあ。などと思いながら、本社からさほど離れていない、ビルの前についた。 間口5メーターほどのビルで、ときどき人が吸い込まれていく。一階は、外資系のコンピュータ会社のショールームになっていた。ショーウインドーは電気がついているが、奥まったところは、だれもいる気配がない。外国人の女性が、ニコッと笑いながら、パソコンを操作している写真。その女性がライトで照らしだされたレイアウトになっていた。 青山一丁目。乃木坂、六本木とつらなるこの一帯は、学生時代、縁のない一帯だった。 せいぜい、大学野球で神宮球場にいくため、外苑前を利用するくらいだった。 青山一丁目という未知の駅をおり、吐き出され、地上に出たとき、太陽がすごくまぶしく感じたのをきのうのように覚えている。 なにはともあれ、今日が社会人としてのスタートになることはまちがいないのだ。 「おっ、新人君だな。さっ、あがった、あがった。」 コスギ専務だった。本社の役員もやっていて最終の役員面接で、小太りの体形にセルの眼鏡が印象に残っていた。 このコスギ専務が面接で自分を買ってくれたことをあとで聞いた。 自分では、駄目だな、と思っていた。それはそうだ。最終面接に電車のせいとはいえ、遅刻をしてしまったのだ。実際問題、遅刻で印象を悪くして、大手出版社の最終面接を落ちた前科があった。 そこをコスギ専務が、採用の断をくだしたわけだ。 エレベーターに乗り込んだのは、あとコスギと建設会社のマークのはいった事務服を着た女性の3人だった。 こういうときは、なぜか寡黙になる。コスギも何を話したらいいか、わからないというより、最初からそういう努力を放棄しているようにも思えた。3人とも、1階。2階と上部のシグナルが動いていくのを3人とも見上げてみている。なにがあるわけでもないのだが。 その女性が8階でおり、そして9階。 「ここでまってなさい。」 コスギが指差した先には、ついてすぐ玄関をはいった右側に会議室という、よく文具屋で売っている既成のプラスチックのプレートがはりつけられたドアがあった。あけると、2人の男がいた。 ひとりは、ひょうひょうとした長身の男、オギクボ。もう一人は、斜めから人を見る癖のあるイシナベ。 どうやら、このふたりが同期ということになるらしい。 ジャンル別一覧
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