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カテゴリ:熊川哲也とKバレエカンパニー
熊川負傷で代役が橋本直樹に決まった23日の「海賊」公演。
会場の入り口には、配役変更のお知らせ、代役の橋本、ブーベルのプロフィル、 そして熊川自身からのメッセージが掲げられていた。 23日は本当なら吉田/熊川のプラチナチケットなので、 立錐の余地もなし、…のはずだけど、多少空席があった。 それでも9割5分は入っていたかな。 Kバレエには、吉田さんを目当てのファンもたくさんいるしね。 ただ、関係者らしき人が、いつもより目立った気がする。 払い戻しは確実に出ているもよう。 電話申し込みや劇場での再販売には応じていないようだが、 当日券は出すらしい。 「熊川さんがこんな形で観られなくなって、焦る。 吉田さんのバレエだって、いつ観られなくなるかわからない。 払い戻しが出たら、また買おうかなと思っている」 昨日会場で会った友人の言だ。 「日本に帰ってきてくれて、いつでも観られるようになってから、 なんだかそれが当たり前になっちゃってたよね」 そんな言葉も聞いた。 1年に1回、熊川の舞台が見られたら、それで幸せ、と思っていた頃が、私もあったっけ。 その頃に戻ったと思えばいいんだ! そう思って1年でも待てばいいんだ! …カラ元気は出してみるものの、やっぱり寂しい。 さて、舞台の感想。 一幕はアリの橋本直樹、ランケデムの輪島拓也ともに硬さが見え、 全体に爆発力に欠けた。が、 二幕は緊張がほぐれたか、躍動感が増していい舞台となった。 橋本は、瞬間「熊川?」と見紛うほど動きがよく似ている。 ただ、役作りとしては、12日に見た彼のランケデムに一票。 昨夜の輪島もがんばっていたが、ワタシは橋本の憎たらしさ満載ランケデムが好きだ。 でも、二幕は、輪島の方がしっかり輪郭を保っていたかな? 物語の終盤、パシャの前での踊りは豪快だったし、 最後、ビルバントに命乞いをする輪島は、真に迫って胸が震えた。 そして昨夜はスチュワート・キャシディがよかった。 多少精彩を欠いていた12日とは異なり、昨夜のキャシディは存在感たっぷり。 ソロのパートも大きな踊りで観客を魅了した。 しかしなんと言っても、彼のサポート力。 随所で吉田の魅力を存分に引き出す。 有名なグラン・パ(全幕ではド・トロワ)では、 まだまだ吉田の相手としては力不足の橋本アリに代わって アダージオをリードした。 小柄な橋本に対して、背も高くガッシリしているという体格的な差もあるが、 彼に軽々とリフトされた吉田は、気持ちよさそうに宙を舞う。 のびやかに腕を、脚を漂わせる吉田の美しさは、女の私でも溜息を漏らしそう。 橋本もソロパートでは力のあるところを披露、やんやの喝采を浴びた。 熊川も、若い時は 「舞台に一人で立つなら誰にも負けないが」「自分の踊りだけしか見てない」などと、 パートナリングのまずさを指摘されたものだ。 吉田などの一流プリマと組めるチャンスに恵まれ、キャシディのようないい先輩が身近にいる今、 橋本にはこういうところもしっかりと体得していってほしい。 洞窟での吉田/キャシディのパ・ド・ドゥも見ごたえがあった。 キャシディが絶対支えてくれると信じているから、吉田は思いもかけぬ大胆な動きに出る。 それが、空気に変化と緊張感を与え、舞台がギュッと引き締まるのだ。 アリの線が細くなったことで、 図らずもこの物語の主役は「コンラッドとメドゥーラ」だったことを再認識する形だ。 また、メドゥーラの妹・グルナーラ役の松岡梨絵も熱演。 12日の荒井佑子も素晴らしかったが、松岡のグルナーラは、また違った味を出していた。 荒井が誇り高い姫の鼻っ柱の強さと苦悩を演じたとすれば、 松岡は売られた女の悲哀と絶望を表現。 自らの意志に反し、男の前で踊らされる辛さがにじみ出て、思わず目頭が熱くなる。 終盤、ようやく出会えた姉は「逃げましょう、さあ行きましょう」と誘うけれど、 「だめよ、どうにもならないの」と首を振る。希望を打ち砕かれた女の弱さが悲しい。 とにかく、彼らは大きなミスも犯さず、着地で揺らぐこともなく、 熊川なしで舞台を盛り上げ、幕を閉じた。 たしかに、よくやった。 だが、昨夜はまだ、観客も模様眺めだ。 「橋本直樹って誰だ?」「ちゃんとやれるのか?」 拍手もまた、「よかった」より「よくやった」の意味が多いかもしれない。 踊ったダンサーより、ケガをおしてカーテンコールに顔を出した熊川の方に 割れんばかりの拍手をもらうようでは、まだまだ修行が足りない。 「海賊」はこれからも続く。 主役は、あの大きな舞台を任されなければできない経験。 一幕、橋本がこぢんまりまとまってしまったのも、守りに入ってしまったからではないだろうか。 重圧に負けず、舞台を務め続けてほしい。 そして、「熊川の代役として、熊川みたいにがんばっている」ではなく、 「橋本直樹」のパフォーマンスとして観客の心にその姿が刻みつけられるよう、 成長していってほしい。 もちろん、熊川にはまだまだ及ばない。 そんなにすぐに追い越されて、たまりますか。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
2007.05.24 10:37:40
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