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カテゴリ:演劇
12月に、妻夫木聡と広末涼子の新キャストで公演が始まる、
野田マップの「キル」。 初演は1994年。キャストは堤真一と深津絵里。 大人気の演劇集団・夢の遊民社を解散し、ロンドンに留学した野田秀樹が 新たに結成した「野田マップ」で行った、最初の公演である。 (1997年に堤主演で再演している) 「ミシンが夢を見た」というセリフから始まるこの物語は、 「蒼き狼」「モンゴル」つまりチンギス・ハン(幼名・テムジン)の征服物語と 「蒼き狼」というブランドの後継者としてのファッションデザイナー・テムジンを中心とした ファション界の勢力争いを掛け合わせて作られた、 出生の秘密を抱えたと父と子と、母親である女の物語である。 デザインを盗む=領地を奪う、 モデルたちは、一人勝ちのデザイナーの下で働く=負けた国の女は全員勝った方の男たちのものになる、などを類似性とし、 チンギス・ハン(テムジン)の母親もまた、負けた部族の女性だったこと、 勝った男に奪われた時は、すでに身ごもっていたらしいという伝説を裏地に重ね、色を見せ、 この話は進んでいく。 そこに躍動するのは、言葉、ことば、コトバ。 ファッション界の征服(セイフク)とは、「蒼き狼ブランドの制服(セイフク)を着せること」 「これではファッション・ショーではなくて、ファッショのショー」などと、 ファッションの世界と暴力・権力による制圧とを巧みにかけながら、 物語は疾走。 デザイナー・堤真一とモデル・深津絵里の仲をとりもつのは、 堤の親友・古田新太。 「ことば」を習得してきた古田は、両人の恋文をどちらも代筆することで、 (つまり自分の書いた恋文に、自分で返事を書く) 二人の恋心を燃え上がらせる。 が、実は古田は深津のことが好きなのだ。 誰が味方で誰が裏切り者か。 女はどのように操をたてるのか。 自分が正当なる後継者だという自信を、テムジンは、そしてその子は持てるのか。 時に壮大なモンゴルの平原で、 時にデザイナーの小さな仕事場で、 世界を自分のものにしたいという大きな夢が膨らむ。 いつも斬新な舞台転換で人を驚かせ、喜ばせるから、 彼はまずビジュアル的に舞台を作る人なのかな、と思っていた。 けれど、 「キル」を見れば、野田はコトバの人なのだ、と痛感する。 「はじめにコトバありき」。 野田のアタマの中で、コトバとコトバが連鎖反応を起こす。 そして、次のコトバがどんなに突飛でかけ離れていたとしても、 彼はそれを舞台の上に具現化するのである。 「ミシンが夢を見た」 ミシンはmachineがなまったもの。 終盤、ミシンがマシンガンになってセイフクの話はクライマックスへ。 計算しつくされたストーリーに舌を巻く。 女のかわいらしさ、したたかさ、哀れさ、強さを鮮やかに表現する深津と、 粗暴で一本気、でも寂しさを抱える堤のコントラストがいい。 母親役の高畑淳子も味がある。 しかし、何といっても古田新太。 イイもんか、ワルもんか、最後の最後までわからせずに、 「親友の彼女が好きになった小心でやさしい男の子」を リアルに、かつ最高にデフォルメして演じる。 次の公演で、この役をやるのは勝村政信か。これもまた、楽しみな布陣だ。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
2009.05.16 21:37:23
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