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老人虐待 日常の出来事☆ナースの独語(826)」
[ お仕事 ]    

 先日、クリニックにこんな患者さん達がやってきました。
 物忘れが酷くて、近所の人のお宅にお世話になっている、大正生まれの男性、Aさん。
 そして、そのAさんを引き取ってから、高血圧になって、頭痛やら眩暈やらの不定愁訴が出始めた女性、Bさん。

 まず、Aさんについて、診察前の問診を行ったんですが、始終、AさんはBさんの顔色を窺ってオドオドしていたため、問診の後の知能テストはお一人で受けて貰おうとしたのだけれど、Bさんが「私がこの人についての責任を負っていますから!」と、中に入ってこようとする。
 出て行って貰おうとしたけれど、Bさん、一歩も譲らず。
 まぁ、血縁関係ではないけど、民事上の保護者ではあるらしいので、同席を許可したワケですが。
 早々に後悔しました。
 Aさんに問いかけた質問のほとんど全てに、「そんなの、この人がわかるわけないじゃないですか」とか「ボけた人に何きいても無駄!」とか、そんな横槍を入れてくる始末。
 あと数問、長く続けてたらキレたと思われますが、忍耐力が何とか保って、次はBさんの問診。

 私はね、患者さんの差別はしませんよ。
 区別はしますけどね。
 で、問診の間に、確信しました。
 私、このBさん、好きにはなれないな、と。
 寧ろ、軽蔑しましたよ。

 Bさんの話を総合すると、こんな感じです。

 近所のAさんは最近ボケが酷くなってきたので、心配で家族の反対を押し切って、Bさんは家に引き取ったのは良いけれど、想像していた以上にAさんのボけが酷く、引き取って10ヶ月目にして我慢できなくなって、施設か何処かへ追い出したいから、そのための手続きをして欲しい。

 えーっと。
 Aさんは犬でも猫でもないですよ?
 何考えてやがんだ、このババァ。

 そして、更に聞いてみると、この話を近所の診療所に持っていったところ、「ウチよりは大きな病院へ」と言われたらしく、○○日赤病院へ紹介状を書いて貰ったのですが、その○○日赤病院でも「ウチは専門じゃないから」と紹介状を突き返され、「専門は××クリニックですよ」と、我がクリニックへ行くよう、指示されたらしいのです。
 ってゆーか。
 ソレって、診療拒否じゃないですかい、○○日赤よぉ?

 と、まぁ、そんな日赤への恨み節はサテオキ。
 かなり自分勝手なBさんの言い分に腹を立てた私ですが、後々、その二人の診察を引き受けて貰った若先生と話してみて、イロイロ考えてみたのですよ。

 もしかしたら、BさんはAさんの年金に目をつけたんじゃないだろうか、とか。
 AさんはBさん一家から、精神的虐待を受けているんじゃないだろうか、とか。
 まぁ、精神的虐待を受けているのは確実ですけどね、あのAさんの態度を見ていれば。

 マスコミは子供の虐待ばかり取り上げて、老人の虐待については触れないようにしています。
 でもこの二つには、決定的な違いがあるのですよ。
 子供には『未来』があって、老人には『未来』は短いのです。
 虐待で受けた傷は、長い時間をかければ癒す事が出来ます。(注:個人差があるので、出来ない子もいますし、癒す前に亡くなってしまう子もいます)
 でも、ご老人には、虐待で受けた傷を癒す時間なんて残ってない場合が多いのです。
 更に、虐待してくる対象は、自分よりも年下の若輩者。
 こんな屈辱はありません。

 ご存知ですか、ご老人の自殺率の高さを。
 家族に話を聞いても、「そういえば最近、身体の調子が悪いと言っていた」とか、「持病のリウマチが……」とか言葉を濁すばかり。
 苦労して、子供を独立させた末に、社会のゴミ扱いされて、孤独と屈辱に抗いながら、こっそり亡くなりゆくご老人達。

 子供の虐待に関しては、無理もないなと思う事もあります。
 親子の相性だってある、自分が辛い時に子供の癇癪やら泣き癖やらを起こされたら、殴り飛ばしたくなる気持ちもわかります。
 政府は将来の税収に関わるからと、子供を産め産めと言っていますが、社会などの体制も制度も、子供を育てるのに向かないまま、何一つ変えようとせずに「子供を作れ」と。
 そんな社会で子供を産んだって、ぶつけようのない不満や鬱憤や不安を子供に向けてしまっても、ある意味、仕方がないと思います。

 けれど、老人はそうじゃない。
 彼らは自力で生きていく術を持っているはず。
 年金を使って、施設に入ってもらって、他の同年代の方々と共に、介護のプロの手を借りて、楽しく日々を送るという選択も出来たはず。
 それを、「親を施設に送るなんて」なんて変な虚栄心を振り翳して、自宅の座敷に寝たきりにさせている人の何と多い事か。

 親を介護しようとする心意気は買いますが、悪いけれど、金をケチッて無駄な努力をしているとしか思えません。
 少なくとも、今回受診したAさん・Bさん両方にとっても、彼らが同居するメリットはないように思います。
 まぁ、一方的にBさんを責めるつもりはありません。Aさんにだって、甘えというものがあったのでしょうし。

 きっと、この虐待問題、今後も減るどころか、増え続けるんだろうなぁと思うと、暗澹とした気分になりました。


Last updated  May 21, 2005 22:40:12
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