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元・経営コンサルタントの投資日記

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2008/01/05
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カテゴリ:敵対的買収防衛

新日鉄VSミタル本のカバー.jpg


本の内容
これは、NHKスペシャルにて07年5月7日に放送した「敵対的買収を防げ」と、7月1日放送のBSドキュメンタリー「鉄鋼王ミタル」の製作取材班が書き上げた本であり、番組の内容を引用している。

取材班は新日鉄、旧ミタル、旧アルセロールの各経営陣、新日鉄個人株主、旧ミタル・アルセロール株主等広範囲に取材し、それぞれの意見を吸い上げている(といっても新日鉄の意見がもっとも多いのはやむをえないが)。

ミタルがアルセロールを敵対的買収に成功した06年6月以降、約1年間NHKが取材したものである。取材の当面の目的は、新日鉄が旧アルセロールと交わした技術提携について、ミタルとの統合後もこの提携をアルセロール・ミタルと継続するのか、というテーマに対する新日鉄の対応を追いかけたものとなっている。

提携内容の概要は、欧州に進出している日系自動車メーカーに対し、新日鉄が国内で供給しているのと同じ技術内容の自動車鋼板を旧アルセロールの欧州工場を通じて供給するという内容である。要するに新日鉄の鋼板技術をアルセロールに対し、日系自動車メーカー等に対してのみ利用を許可するというもの。

ただし、この提携には「チェンジ・オブ・コントロール」条項が入っていた。つまり、どちらかの経営陣が買収やなんらかの影響により、入れ替わった場合は、当事者の相手方の企業から提携打ち切りのオプションを付していることになる。つまり、新日鉄は今回の買収劇でこの提携を打ち切ることが契約上可能となっている、というもの。

ただし、新日鉄は提携を打ち切ると、自らの主要顧客である自動車メーカーに迷惑がかかる話でもあるので、対応には慎重さが伴う。一方、ミタルは生産量こそ世界一だが技術的には新日鉄に見劣りするため、この技術を世界中で活用できれば名実とも世界の鉄鋼王になれるとの読みがあった。

新旧鉄鋼王の駆け引きなどがとても興味深く描かれている。結果的に、新日鉄側の「旧アルセロールの欧州工場を通じてのみの活用ならば契約継続を認める」という主張にミタルが折れたような結論が書かれている。ただし、そのとき、「互いに買収はしない」という条項はミタルが拒否したと伝えられているが・・・。


新日鉄側:「鉄は国家なり」という近代産業時代からの伝統的鉄鋼業概念および「ものづくり、技術立国ニッポン」といういわば「産業資本」(新日鉄三村社長)を象徴する存在として見立てている。

(八幡製鉄所の高炉)

八幡製鉄所.jpg


アルセロール・ミタル(ほとんどミタルに対して):「ボーダレス・グローバルエコノミー」という現代的な資本主義の勝ち組要素を含んでおり、「株主、投資家の資金を預かる経営者は彼らの期待にこたえて経営成果を出さなければならない」という「金融資本」を象徴する存在、さらに、業界秩序にとらわれない発展途上国の暴れん坊、という存在に見立てている。
                 (アルセロール・ミタルの製鉄所)

ミタルスチール.jpg


もちろん、新日鉄側にも株主に対し、自らの経営理念や方針を理解する努力を惜しまない場面や、ミタルに対しても鉄鋼業というものについての造詣や業界に対する将来感など鉄鋼経営者としての高い評価も下しており、NHKらしくバランス感覚が取れている。

ただし、最後の個人株主の、「株を買って20年になりますが、やはり海外の会社に負けてもらいたくないですね。応援したいと思っています」という言葉が、私見を含めた、全体的な締めの印象を醸し出します。

 


新日鉄側の対策

三村社長.jpg
(新日鉄三村社長、ミタル氏と互角以上に渡り合い、提携継続交渉をまとめた)

新日鉄は事前警告型のライツプラン(発動には株主投票によるとする変則型)を打ち出している。また、神戸製鋼、住友金属とも相互に買収時の相互支援(もっとも不況時点の2社に対する新日鉄の経営支援の延長線の意味合いもある<新日鉄住金ステンレス等があった>である)、や韓国ポスコ社との鉄鉱石の共同仕入れ等に対する資本提携(要するに持ち合い)や上海宝鋼との持ち合いなどを進めている。

新日鉄は「ソフトアライアンス戦略」という互いにメリットさえ見出せれば競合先とでも、その局面にのみ提携を結んでいくという戦略を進めており、はじめは浅い提携でも信頼関係が深まれば提携範囲も広がり相互メリットを拡大していくという方針を採っている。

新日鉄は海外に対したくさんの技術支援を過去におこなっており、そこから信頼関係の芽生えている各社とは非常に良好な関係を築いている。

また、他の製造業と違い、高炉を伴う鉄鋼所の建設には下手すると兆単位の莫大な設備投資が必要であり、過去の需要は横ばい程度だったこと、さらに日本の鉄鋼ユーザー(自動車・造船・電気など)の技術志向が高まったこともあって、増産の投資にはかなり慎重にならざるを得ない事情があった。

世界各地に新日鉄の「応援団」を築くことにより、投資額を抑制し、アルセロールのような信頼関係を結ぶことにより、製品の現地生産より「ノウハウの輸出」で業績を伸ばせる目論見があった、という「鉄冷え」時代の教訓が大きかった。

そうした背景があったため、新日鉄では(他の日本の高炉メーカーも同じだが)従来より、「量より質、つまり技術志向」が強まっていった。

ミタルの登場

ミタル氏2.jpg

一方、ミタル氏は80年代前半にインドで鉄鋼業を拡大しようとしたが、政府の規制に阻まれ、インドを後にした。その後インドネシアで電炉会社を買収して建て直し、以後各地の政府系高炉製鉄所を次々と買収。

買収先の製鉄所は東欧・中央アジアを中心とした旧共産時代のお荷物製鉄所であった。こういった製鉄所を安値で買って、生産を立て直す、いわば「ターンアラウンドマネージャー」として生産量を拡大。

買収後の製鉄所を短期間で黒字転換に成功させる。この間、買収案件は決して敵対的ではなく、相手側政府等から依頼されての、「友好的買収」であったという。

つまり、「鉄は国家なり」の理念で建設された過去の「遺物」を「ボーダレス」の概念で次々と買収したミタル氏という格好になっている。

そして04年、米国の投資家ウィルバー・ロス氏(大阪の幸福銀行を買収し、関西さわやか銀行として三井住友銀行に転売した投資家でロスチャイルド系)と出会い、氏が投資していた鉄鋼グループISGを買収。これで世界1位の生産量に達する。
彼の支援も受けて、ミタルはアルセロール買収に走る。

ただし、ミタル氏は完全に金融資本のみで動く存在としてではなく、「今でも電炉の操作方法を覚えている」とか、旧アルセロール経営陣からも「彼の鉄に対する理解は我々と同じものがある」、「誠実で、聞く耳を持っている」と経営者としての評価も非常に高い。

また、息子のアデュティア・ミタルCFO(弱冠31歳)も非常に評価が高く、アルセロール買収のシナリオ・戦略、アルセロール経営陣との買収交渉実務や現在の統合をリードし、金融経済と事業実務の双方を習得するミタル一族の実務リーダーとして期待されている。

mittal息子.jpg mittal&son.gif

彼も父親同様 「聞く耳を持っている」 との評価で、アルセロール経営陣が、彼と買収交渉をしていて、「ミタルとなら何かできる」と思ったというほどであるからたいしたものだ。

最後に
ベールに包まれていたミタルの概要がわかり、彼らも買収済みの製鉄所の近代化を進めなければならないなどの課題が山積している事実も露呈した。

一方の、先進国マーケットばかりに目を向けていても競争環境が激しく、利が少ない。一方、ミタルのように発展途上国マーケットでも莫大な利益を稼ぐことが出来、そのマーケットの将来性も魅力的であることがわかった。

ただし、こういったマーケットで資本を蓄積し、発展途上国の経営者およびその予備軍は欧米のマネジメント手法を学び、また、身につけているため、英米的な経営思想はさらに進化する可能性を秘めている。産油国の政府系ファンドの台頭著しいなどが代表例だろうか。

しかし、日本人が言うような企業が取引先との提携・切磋琢磨・信頼関係などで築き上げた技術や企業価値を否定する気持ちはないし、誇らしいことであり、そうあって欲しいと思うばかりであるが、日本の論理だけでは通じない 「外部環境の変化」 となってしまった。

もちろん今後も日本が生き残る道は技術に立脚したグローバル展開ができる企業の繁栄であることには違いない。

ただ、「成長を狙える非常に優れた会社でも経営陣の考え方をきちっと理解してくれる安定株主をもたない限り、企業としては安定した成長が出来ない。自分たちの企業価値はこういうことだと、機関投資家、政府、個人株主などに発信する努力を不断にやらない企業は生き残れない」(新日鉄三村社長)、

グローバル化を生き抜く道は「世界の経済情勢の変化を日々分析して理解し、明確な成長戦略を描く能力、その戦略を株主に明快に説明できる表現力、相手企業や投資ファンドのトップとハードネゴシエーションが出来る交渉力と人間的魅力。グローバル化時代の勝者となる経営者には、こうした資質が求められている。社内抗争にうつつをぬかし、業界での現状の地位に安住し、単に自らの保身に走るような経営陣は、株主から瞬く間に駆逐されるだろう。」(NHK報道局経済部長)ということはとても印象に残りました。
 

(自宅近くの公園から東京湾、アクアラインを経て、新日鉄君津製鉄所を望む)

新日鉄君津製鉄所.JPG










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Last updated  2008/01/08 02:13:01 AM
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