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Gontaのブログ

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ELGIN USA は日本のメーカーである。

<ELGIN USA> は日本のメーカーである


以前、「ELGIN USA」の時計を買った。
(*興味のある人は、僕のショッピングリスト2006年8月7日を見てください。)
僕はアメリカ製の時計だろうと簡単に考えていた。
だって、USAって書いてあればアメリカ製だと思ってもおかしくないでしょう?
だが、曜日の表示を見たとき今更ながらに気がついた。
「ん?」
曜日表示が<漢字>なのである。
<アメリカ製の時計に漢字表示があるのだろうか?
それとも、日本人用にわざわざ作ったのだろうか?>
こんな疑問を持ったときから、エルジンについて調べ始めることになる。
そしてそれをきっかけに、エルジンのみならず、徐々に腕時計業界全体の実情をなんとなく知る事になる。
それも、嫌な実情を・・・。
僕の興味は、エルジンからフランス製やイタリア製のふりをした中国製の腕時計に向いていき、デザインのパクリについても色々考えることになる。
まあ、それはさておき・・・。
<ELGIN USA>とは何者か?。
自分なりに調べてみた。

まず初めに、日本で売られている「エルジン」は山口県にある<福本電気 エルジンインターナショナル>が生産している。
(-http://www.elgin-int.co.jp/ )
「エルジン」で検索をかけると上位にヒットするので容易に見つけることができる。
ここが本社である。
僕は、最初にここのホームページを見つけたとき、まだ福本電気を「輸入総代理店」と思っていた。思い込みとは恐ろしい。
でも、ここが本社であり、ここがエルジン腕時計の出発点なのである。
エルジン腕時計は輸入品ではない。


以下は、エルジン時計ファン(たぶんアメリカ人)が作ったあるページからの一部借用である。

(http://www.angelfire.com/il/newh/end.html)

BUYER BEWARE!

You may today see watches for sale at Wal-Mart or other discounters that bear the name "ELGIN".
These are frauds and are no way related to the great Elgin watches
that were made in Elgin, Illinois.
Some company bought the rights to the name "Elgin" and places it on cheap watches that are mass produced in Asia.
The only place to buy original "Elgins" are as antique pieces
either at jewelry or watch stores or on EBAY.


(僕の下手な日本語訳:その1)

注意せよ!
「今日、ウォルマートなどのディスカウントショップで<ELGIN>の名を冠した腕時計を見かけることがあるかも知れないが、それらは詐欺であり、イリノイ州のエルジンが制作した偉大なるエルジン腕時計とは何の関係もない。
どこかの会社がエルジンの商標権を買いうけ、アジアで大量生産される安物時計にその名を付けているに過ぎない。
本物のエルジンは、eBay (海外のオークションサイト)などの宝石店や時計店でアンティークとして買える物だけである」。



ここで言う「どこかの会社」とは<M.Z.Company>という会社である。(後述)

このホームページの作者は「詐欺である」とまで言っているが、もちろん詐欺ではない。
日本のエルジン、山口県にあるその会社も、米国にあるM.Z.Berger も、ちゃんと商標の使用料を払っている。
だから極めてまっとうな契約だ。
何の問題もない。
少なくとも法律上は。
もしその契約が悪いとするならば、商標の貸し手も借り手も消費者によって同等に裁かれなければならないだろう。

だが、詐欺だと言いたくもなる。
現に僕はエルジンの時計をアメリカの時計だと思いこんで時計を購入している。

オリジナルのエルジンとは何の関係もない・・と言っているがそれはその通りであり、我々消費者は、はっきりと認識しておかなければならない。
いや、その前に企業の方が誤認しないようにあらかじめその旨を告知しておかなければならない。

しかるに、以下の説明文は何なのか?
これはブランドの紹介としてあちこちで散見される文面である。
福本電気のホームページの文面とは最後の2行が若干、かつ、決定的に違うのでうっかりしてしまう。
これでは誤認しないように告知するどころか、誤認を望んでいるとさえ言える。
おそらく、ショップが勝手に書き換えるのだろう。

『懐中時計でも有名なエルジンは、
米国の時計で、その歴史は1864年、B W Raymond氏と工員や役員が
木造の建物の社屋National Watch Companyを設立、
その後時計ブランドを『Elgin』とし社名を1874年Elgin National Watch Companysに改名した。
現在は時計専門メーカーとしてだけでなく総合的な精密メーカーElgin National Industries, Inc.となっています。
初めて開発したカギ巻時計ムーブで”B.W.レイモンド”が有名。
完成後2年後には、懐中時計の標準となるレディエルジンの生産を開始。
1881年ごろから米国鉄道よりその品質を認められ大量生産を開始。
1910年には品質と耐久性、性能の高さから米国陸海空軍の公式時計に採用されています。
2000年には近代的なソーラームーブメント、自家発電ムーブメントの開発に着手し、
現在はシカゴに本部を持つ国際規模ブランドの会社Elgin National Industries, Inc.に発展し
最新の時計ブランドElginを生産しています。


ここで不自然なのは1910年から2000年までの90年もの間が空白だということである。
消費者が知りたいのはむしろ、その90年間のプロセスではないだろうか?
1910年と言えば第一次世界大戦前である。
一方で、1910年以前の46年間(90年の約半分だ)は、やけに詳しく説明できている。

そしてこの文章は、いかにも1864年設立の会社が現在まで存続しているかのような印象を読む者に与えるが、真実はそうではない。
2000年以降のソーラー時計云々のくだりは、やっていたとしても別の会社の実績である。
よって、上の紹介文、最後の2行の
『現在はシカゴに本部を持つ国際規模ブランドの会社Elgin National Industries, Inc.に発展し
最新の時計ブランドElginを生産しています』
ウソである。

Elgin National Industries, Inc.はもう40年以上前から時計生産には携わっていない。

ウォッチカンパニーとしての<ELGIN USA >は1965年に潰れている。
65年以降は、次々に各事業を売り払い、銀行や取引先に損失補てんをするという、いわゆる清算に約3年を要した。
おそらく、日本で言うところの、「営業譲渡」が中心の清算活動だっただろうと想像する。
最後には、まったく別の営業者に身売りをしてその歴史を終えた・・・と、こういうことである。

1968年には時計の生産をクウォーツ時計を中心に再開している。
が、受け継いだのは1965年までのエルジンとはまったく別の会社で、技術伝承は断絶しているので「再開」という言い方は実は適切ではない。
日本ではトレードマークを身請けした会社から、さらにそれを借り受けた会社が生産開始したらしい。
その会社の社名までは調べ切れなかった。(ジャパン エルジン コーポレーション か?)
少なくとも福本電気ではないようだ。

重要なことは現在のエルジン(68年以降)とかつてのエルジンには、ブランド名以外に何の繋がりもない、という点である。

カナダでもアメリカでも日本でも、新興腕時計メーカーがクオーツ時計に<ElGIN>もしくわ<ELGIN USA>の「ハンコ」を押して出荷しているに過ぎないのである。

endof_elgin_tower October 2, 1966 at 9.30.jpg
photo from
-http://www.angelfire.com/il/newh/end.html

現在のトレードマーク(商標)の所有者は、Elgin National Industries (以下、ENIと表記)であり、商標権所有者である証拠に現在でも以下のような勧誘文が載せられている。
(http://www.eni.com/watches.htm)

International Licensing of the Elgin Trademark
If you are interested in licensing or purchasing the right
to the use
of the Elgin Trademark on clocks and/or watches
for areas of the world other than North America, Japan or Korea
send an email inquiry to
watches@eni.com


下手な訳:その2
「北米、日本、韓国以外の地域で、エルジンの商標の使用権を賃借、または購入することに興味がおありの方は
watches@eni.comまでメールをお送りください。」



現在でも時計を生産している会社なら、商標を他社に貸そうとするはずがないのである。

現在、北米(アメリカとカナダ)で賃借りしているのはM.Z.Berger Companyというところであり、
(http://www.mzberger.com/collections/watches.html)
また日本は上述どおり福本電気である。
(http://www.elgin-int.co.jp/)

韓国についてはまったくわからなかった。

M.Z.Bergerのサイトに行くと、所有している(own)と書いているから所有者が2人いるようで混乱するかもしれないが、これは<使用権の所有>である。
上記の勧誘文(英文)の下線部を読み飛ばさなければわかる。

*補足)
ちょっとややこしいが、「のれん」というのは貸すこともできる。
その方法は2つあって、ひとつは「のれん」の「使用権を貸す」方法、もうひとつは「使用権を売る」方法である。
ポイントは、いずれも売るのは「所有権」ではなく「使用権」だ、というところにある。

「使用権を」買った場合、商標の「所有権は」相変わらず元の持ち主に帰属しているので、商標権を「借りている」という点で違いはない。
(商標使用権の買上=商標権の借受)
ただし使用権を「買った」以上、使用権という目に見えないものに対しては所有権がある。
所有権には当然のことながら期限がないので、事実上、商標権を所有しているも同然、なのである。
《言い換えると<商標を使っていい>という身分を無期限に借りている、ということ。》

一方、「使用権を借りている」場合、何らかの理由で契約解消事由が発生した場合、その使用権は消滅する可能性がある。
つまり使用期限がある。
《言い換えると<商標を使っていい>という身分を期限付きで借りている、ということ。》

「使用権を買った」場合は、理由のいかんを問わず「返せ」と言われることはない。
元の持ち主が返して欲しければ、あらためて契約を結ばなければならない。

なぜ、こんなややこしいことをするのか?
それは商標権の所有権そのものを地理的に限定して売ることはややこしいい法律関係になり後々トラブルを招く危険があるためである。
問題をあらかじめ回避するためにあえて使用権という形にして事実上の商標権の分割売買をスムーズに可能ならしめることをねらいとしている。
いわば法律上のテクニックと言える。
*以上、補足)


M.Z.Berger も 福本電気も<商標権を所有>していないことは上記の勧誘文から明らかであり、<使用権を所有>しているか<使用権を借りている>かのどちらかだということになる。
M.Z.Berger はそのホームページ上で使用権を所有している(own)と明言している。
福本電気がどちらだかは明らかにしていない。
今後も明らかにはしないだろう。
そんな義理はないし、このあたりを明らかにするつもりがあれば、1910年から2000年までの歴史を空白にして、シラッとしているわけがない。

とにかく福本電気は商標を借りているだけなのである。
これはすなわち、福本電気はENIの単なる顧客にすぎないということを意味する。
だからたとえ福本電気が潰れてもENI社は痛くも痒くもない。
もし使用権を貸しているならば、また別の日本の会社を探して第三代目だか四代目だかの<ELGIN USA>を「襲名」させるまでのことだし、使用権を売ってしまっているのならなおさら関係ない。

将来、ENIがエルジンの商標権そのものを売る日が来るとしても、それを買った者はM.Z.berger および福本電気の権利を侵すことはできないので、結局、地理的制限付の商標権を買い受けることになる。
ちょうど、一部に借地権のくっ付いている土地を買うようなものだ。
(それにしても、ENIの「名貸し商法」は、まったくもってボロい商売だ。)

M.Z.Berger Company は、上記のホームページを見ればわかる通り、他にもGruen(グリューエン)、Waltham(ウォルサム)といった潰れた老舗時計メーカーの商標を同様の方法で買い取り、使用している。
すなわち、かつてのGruen, Walthamはもう存在せず、現在のGruen,Walthamは名ばかりの別物だ、ということになる。
ELGINブランドが売られているのと同じ方法で、WALTHAM,GRUEN、がM.Z.Berger Companyによって北米(米国とカナダ)では売られているのだ。
Elginと同様に買うときにはこの点よく認識しておかなければならないだろう。
知らずに買った人は上記 angelfire.com/il/newh/end.html の製作者のごとく、後々「詐欺だ!」と毒つく羽目に陥る可能性がある。


ともあれ、68年以降は、同じエルジン・ブランドでも中身はまったくの別物・・という時計が生産されることになった。
日本のエルジンは日本製のムーブメントを使っているから日本語で曜日表示されるのもまったくうなづける。
疑問解消。

1910年以降の経緯に、こういう都合の悪いことも書いていれば、確かに、より信頼できる企業なのだろうが、
では、そうしていれば、製品が売れていただろうか?・・ということになると別問題である。

「実は潰れた企業の名前を借り受けて時計を生産しています。
組立ては人件費の安い中国。だけど中身は日本製。ブランドはUSAです!」
などと白状された後で、
『エルジンは、1864年、なんちゃらレイモンド氏が設立し・・・品質は全てに優先するという精神はちゃーんと受け継がれております!』と力説されても寒々しいだけだ。
時計は今ほど売れていなかっただろう。

外から批判するのは簡単だし楽しいくもあるだろうが、当のエルジン福本の身になればそう簡単にはいかないだろう。
どんなにすばらしい時計を作っても、名声を得るのは何もしていないENIだとしたら馬鹿馬鹿しい。
ならば、せっかくお金を出して商標を借りたのだから、昔エルジンが作った名声をせいぜい利用して、苦情が来ない程度にそこそこの品物を作っておく方が賢いやり方だ、と判断するのが自然な流れに思える。違法なことをしているわけでもない。

だが一部の時計マニアからとは言え、軽蔑を背に受けながら、そのような業務を延々と続けるのはそれ相応につらいことだろうと想像する。
モチベーションはどのように保っているのだろう。

もし社員がうしろめたさを感じながら働いているならば、気の毒でさえある。
・・というのは考えすぎなのだろうか?

福本電気で働く社員さんは気の毒ではないかもしれない。
でもアメリカ製だと信じて<ELGIN USA>の腕時計を買ったこの僕は間違いなく気の毒なのである。




(09/17/2007) (10/02/2007:加筆)



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