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天猫の空小屋

天猫の空小屋

星夢想

星夢想


 月が上から照らしていた。
 息が切れそうになるが、それでも足は止まらない。
 心臓の拍動は早くなるばかりで、果たしてそれは、走っているせいなのだろうか。
 どうしてもニヤついてしまう顔を戻そうとも思わない。
 ここは歩くものの居ない闇夜の通学路。
 ポケットの携帯に手をかけた。
 取り出すわけではない。ちゃんとあることを確認して、ほっとする。

『こんな夜更けにすまない。
 キミに会いたい。
 迷惑とは分かっているが、
 もしよかったらこれから会えないだろうか?
 無理なら構わない。

 追伸:学校の正門で待っている』

 先輩からのメール。
 気づいたら家を抜け出して駆けていた。
 自転車の存在を思い出したのは3つ目の信号を無視した辺りだった。
 学校が近づくにつれ、さらに鼓動が速くなっていく。
 締りのない顔を、気分だけでも引き締めて、最後の曲がり角を曲がる。
(ほんとにいた)
 直ぐ先の校門の前に、見間違うはずがない、先輩が立っていた。
 ほんとに居てくれたという事実に、嬉しさと供に緊張が押し寄せてくる。
「先輩!」
 ただ、はやく自分に気がついて欲しくて声を上げた。
 先輩が、少し肩を震わせた。
 先輩の顔が、あぁやっぱり綺麗だ、完全に見て取れる距離まで近づいた。
「はぁはぁ、先、輩、おそく、なり、ました」
 肩で息をしながら喋る自分を、先輩が呆れ顔で笑ってくれた。
「・・・キミは馬鹿か?何も走ってこなくてもいいだろうに」
 自分でももっともだと思うことを言ってくれる。
「すみません。忘れてました」
 その言葉に、再び先輩は呆れたようだ。
 ただ、その顔は笑っていたので何も問題はなかった。
 ただ、問題だったのは・・
「よし。では行こうか」
 先輩の性格を思い出せなかった自分自身だろう。
「・・・何処にですか?」
 先輩が、なにを言っているんだ?という風に言う。
「裏山だ」
 初めてが外とは大胆ですね、先輩。


「ち、ちょ、ちょっと!先輩!?」
 先輩の体温が目の前に感じられる。
「いいからいいから。私にまかせておきなさい」
 先輩との距離はゼロだった。
「あぁ!止め、せんぱ!」
 先輩の身体を、しっかりと抱きしめて・・



「ひゃっつほ――――――――――――――――・・・!!!!」
「あぁあああぁあぁぁぁぁ――――――――――・・・!!!!」


 自分たちは夜中の山道を、先輩の自転車で疾走していた。

 あぁ!道が!カーブ!曲がれな!キャー――!!
 あっははははははははは!!!!
 響き渡るのは少女のような自分の悲鳴と、楽しそうな先輩の笑い声。
「キミ!嬉しいか!?なぁに、私はシチュエーションには弱い女だ!ドサクサに胸を触っても構わんぞ!・・・でも、その、さすがに揉むのはダメだからな?」
 なんだか、先輩がすごく嬉しいことを言ってくれているような気がするが、
「先輩!前!まえぇぇぇぇええぇぇええ!!!!」







・・・・あっ、そういったら雑誌の懸賞、締め切り今日だったな。






「はっ!?」
 起き上がる。
 自分は柔らかな芝生の上に仰向けに転がっていた。
「・・・、先輩!?」
 先輩がいない事に気がつき、急いで辺りを見回す。
 少し離れたところで先輩は、
 先輩は、
 ・・・先輩?

 先輩は少し離れたところで、夜空に向かって手を広げ、突っ立っていた。
「・・・なにしてるんですか?」
 やっとこさ、自分が目覚めたことに気がついたのか先輩がコチラを振り向いた。
「キミ!見てみろ!星が綺麗だぞ!あぁ、それと大丈夫かね?」
 その顔は笑っていたので問題は、
「ないわけあるかァァ!!」
 突如叫び声をあげた自分に驚いたのか、先輩は、
「うお、突然どうした?・・・、!まさかどこか怪我したのか!?」
 ・・・うん。まぁ、心配そうな先輩の顔が可愛かったし、今日のトコは見逃してやるか。

 と、まぁ、自分ものそのそと立ち上がって先輩のもとに向かう。
 先輩に、怪我はないことを告げると、安心したように笑って、上を指差した。
「うあ」
 空には、文字道理数え切れないほどの星々。
 素直に、こんなにもあったのかと驚かされた。
「すごいだろう」
 横の先輩が胸を張る。いや、先輩はなにも関係はないのだが。
 ただ、子供みたいに目を輝かせている先輩は、コチラも負けず劣らず綺麗だった。
「先輩のほうが綺麗ですよ」
 泥臭い台詞を言う。よし。二十歳までに一度は言ってみたい台詞NO.27クリアー。
「あたりまえだ。キミは見る目がある。・・・ただ、さすがにソレは聞いてるこちらが照れるぞ」
 先輩は、少し頬を赤らめて(いや、暗いから自分の希望などだが、おそらく)笑った。それだけで、恥を忍んだ甲斐があったろう。
「まさに絶好のUFO日和だな」
 ただ、相変わらずこの人の言動にはついていけてない。
「・・・何の話ですか?」
「む?メールで言ったろう?UFOを召喚するって」
「・・・いえ、そんなことは一言も」
「あぁ、要点だけ伝えたからな」
 まぁ、こんな感じ。

 先輩は、一人呆ける自分をほっといて、せっせと地面に幾何学チックな模様を描いていく。
「よーし。このくらいでいいだろ」
 なにがいいのかは分からないが、ともかく完成したらしい。
「よし、始めようか」
 なにを始めるのかは分からないが、ともかく始めるらしい。
「ほら」
 よくは分からないが先輩が手を差し出して、・・・手!?
「・・?なにをしてるんだ。はやく、ほら」
 そのまま、今度こそ訳が分からないまま先輩に手を繋がれた。

 しかも、両手を。
 しかも、がっしりと。
 うあっ、先輩の手って柔らか・・
「廻るぞ!!」
 ・・・はい?
「って、うおあああぁぁあ!!」
「だああああ―――――!!!」
 廻る廻る、先輩が廻る、おーれをのーせーてー、後ろの正面だぁあれ?
「って、ぎゃあああ!!」
 さらに加速。
「あははははは!!」
 さらに加速、って!
「キャー―――!!」
 こけた。
 あっ、もちろん俺の声ね。
「あっはははは!!」
 先輩はこけながらも笑っていた・・・。

「ふう、楽しかったな」
 二人で、夜空を見上げて横たわる。
「来ませんでしたね、UFO」
「まぁ、そう簡単には来ないさ」
 先輩はそう言って手を、夜空に翳す。
「それ、なんなんですか?」
 聞き返す。先輩の横顔を覗く勇気はなかった。
「これか?星のパワーを吸収しているんだ。知ってるか?この星々は私たちには考えも及びつかない遠くから、考えもできない速さで、何年もかけてやってきてるんだ。すごいだろ?」
 先輩はまた、胸を張って言った。
「そうですね。すごいっす」
 自分がそう言うと、先輩は、そうだろうとまた笑った。
 二人して、夜空を見上げる。
 目の前に広がる星々は、先輩の言うように、なんだかすごかった。
 そうしているうちに、手に暖かな感触が当たった。
 先程、感じ損ねたものだった。
「せ、先輩?」
 びっくりして振り返る。
 先輩は、
 仰向けにこちらを向いていて、微笑んでいた。
「ありがとう」
 先輩の唇が震える。
(あっ、やば)
 視線は完全に先輩に捕らえられていた。
 先輩の顔が近づいてくる。
 身体は少しも動いてくれない。
 

 ちゅ
 

「ふふ、言ったろう?私はシチュエーションに弱いって」
 自分は、ただぼうっと額を押さえていた。
 先輩の指が唇に触れる。
「ここは、もう少しキミに頼りがいが出来てからだな」
 そう言って、にっこり笑う先輩の顔は・・・。

「さてと。もうじき町も起き始めるぞ。撤退しよう」
 先輩はゆっくりと立ち上がって、伸びをした。
 差し伸べられた手は、すごく魅力的だったが、お断りした。

 自分たちの上には未だ星々が輝いている。
 その輝きにも負けないものが、自分の横には立っていて・・。

「あぁ、そういえば、今度の土曜は休みだったな」

 それは朝も昼も常にずっと、自分の横で輝いている。

「はいはい、お供しますよ」

 そして、

「あぁ、そうしてくれると有りがたい」

 それは、これからもそこにあるようだ。


 あぁ、今夜はほんとに星が綺麗だ


 、。







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