いろいろエッセー

前略 スヒさん元気ですか?

ぼくは元気です。
利川(イチョン)の田も色づいてるでしょうね。
最後にあなたとドライブに行った、あの田舎の風景が目に見えます。
黄色い田、暮れてゆく空、夏のなごりの大きな雲が陽に紅く染まり、
道の脇の屋台では瓜やナシや栗が売られていて、屋台の灯りのオレンジ色が
やけにもの悲しかった・・・。

過剰に叙情的になるのはやめましょう。

この間はレッズのTシャツ送ってくださってありがとう。
両手を前にだして「テーハンミングッ!」パパッパ、パンパン。
長男とレッズ応援ごっこしています。ありがとう。

今日は9月18日、あなたとサヨナラして1年がたちました。
あなたと会いたいです。今も目をとじると1年前のあなたの顔が見え、
やわらかい、やさしいあなた声が耳に聞こえます。

去年9月5日から17日まで出展販売に行った『世界陶磁器エキスポ』。
たった13日間だったけど、あのエキスポの会場、日本館であなたと出会い、話し、笑いあったあの
13日間の思い出は、今もぼくのこころをあたたかくします。
日本館
金淑希(キムスヒ)のこと 1
 
これから書くのは「モテたハナシ」ではなく「モテなかったハナシ」
ちょっとセツナイ「異文化理解の道筋」・・・です。

日本館のぼくのブース。座ってお客さまと応対してたんやけど、
話しこむ場合もあるんで左となりにも椅子がならべて置いてあった。
気がついたら彼女は横に座ってた。
ほんのとなりに座ってぼくにむかって微笑んでた。
日本館に入って3日目、9/7だった。
名をたずね合い、当たり障りのない自己紹介。
彼女は独学で日本語を学んでる。いつも厚い韓日・日韓国辞書をかかえてる。
長いきれいな髪。きらきらした目。くるくると変わる表情。つたない日本語。

「わたしわー日本語ーむづかしーです」
「いいえーちがいます」
「わたしわーひとりでーベンキョウします」

韓国女性の鼻濁音。フツーとちがう間の取り方。言葉を探す時の困ったような表情。
辞書をひいてるあいだの伏し目がちの表情の美しさ・・・
思う言葉を見つけた時のパッと輝く目の光・・・
見つけた言葉をつかうときの誇らしげで楽し気ないたずらっ子みたいな顔・・・。

「ナカネせんせーのやきものは とてもー キレイです」

スヒはぼくの横。顔をよせてはなす。
さっきからぼくの左腕とスヒの右腕は何度も触れあってる・・・
ドギマギしてるのはぼくだけ。若く見えるスヒ・・・

「学生(ハクセン)ですか?」
「いいえー シュフです」

主婦 27歳 8歳と6歳の子どものオカーサン
エキスポの総合案内所ではたらいてる 金曜日は休みの日

「また来ても イイですか」
「あしたー また来ます」

スヒは1日2度の休憩時間にはかならず来て話しをして帰って行った。
彼女と話しをする1時間30分づつ、ぼくらは知り合って行った。
ホントに簡単な意味を伝えるのにとても時間がかかった。
スヒがいろいろに言い方を替え、言葉を替え、ぼくが韓国語で
いろいろに努力し、辞書をひいて、そして「果物のナシが好きです」
に到達した。そして微笑みあった。こんなことがムショーに楽しかった。

  スヒの日本語はとてもカワイイ。   
  スヒの発音がいまも耳に聞こえる。

ジャパンデーのきものショーの日。彼女の後ろ姿、彼女の髪の流れを、
スケッチしながら「わたしも キモノ ほしーです」とつぶやくのを聞いた・・・。
肩と肩がふれあう距離、ビデオの音に邪魔されないよう顔と顔をよせあう、
日本人なら『恋人同士の距離』・・・でも、ここは韓国・・・。

心がうごかないはずはない。
手をのばして彼女の髪に触れたい。
もしそうしたら、どんなことが起るんやろう?

「スヒはナムジャ(男子:だんなさんの意)と若い時に結婚したけど
 恋愛結婚ですか」
「いいえー」
「お見合いってわかる?見合い結婚?」
「いいえー」
「?」
「わたしのーオトーさんと だんなさんのオトーサンが 
 子どもで決めました」
「許嫁(いいなずけ)!」
「そーです」

○パクさん(44才 ガラス作家 独身)が云った事。
 
メズラシーなぁ。むかしは多かったけど。
スヒさんの宗教は儒教だからー、むかしはそうだったけど。
今は儒教でもすごくメズラシーよ、許嫁(いいなずけ)で結婚する人・・・。
キムさんははやく結婚しすぎたかもしれないよね。
27歳で8歳と6歳の子どもがいるんだしー。
ナカネさんと会って『世界』と出会ったカンジがあるんじゃないかなー。

○ぼく(44才 陶芸家 妻子あり)が云った事。

ウーン、たんなる日本語の練習台なんじゃないかなぁー、
だとしたらカナシーけど。日本でも英会話の練習のためだけに
『外人』と話したい日本人がいて、心ある外国人にはヒンシュクなんやけどなぁ・・・。
こないだなんかキムさんが昼御飯まだかって聞いて来て「まだ」って云うと
「わたしがー」ってキンパプ買って来てくれるんだよなー。
今日だって小さな青い花の鉢植え持って来てくれて、ぼくに手渡したと
思ったら、座ってる前の床にひざまずいて(!)ラッピング用の綺麗な紙を
おって鉢カバーにしてくれた・・・。もう1枚の紙で、うすいブルーなんや
けど、なんか折ってくれて・・『ローズですー』って・・・。
鉢植えの前に飾った・・・。

ともかく無邪気なんや、そやから困るんや・・・。
手をのばして彼女の髪に触れたい。
そうしたなら、どんなことが起るんやろう?

彼女を相手に『マディソン郡の橋ごっこ』(もちろん精神的に)してもイイもんなんやろうか?・・・
ぼくがキンケイドじゃないのは分かり切ってるけど・・・
スヒはフランチェスカなんやろうか?

2につづく 


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