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発達障害児が伸び伸びと育つために~保健師の目で見た子育て~

「逃げ腰・泣き虫・遠慮虫の自分」と戦う

「逃げ腰・泣き虫・遠慮虫の自分」と戦い、立ち上がるまでのこと。

小2の担任の先生とのすれ違いは、何度も何度も繰り返されました。
「TAKUYA君はお母さんの思っているような“いい子”ではない。うそはつくし、自分に都合の悪いことは言わないし、乱暴で、やる気がない。こんな大変な子なんだ」ということを、先生はなんとしてでも私に認めさせたがっているようでした。
私は、繰り返し繰り返し、「それは障害のせいなんだ。言語能力に未熟さがあって、混乱すると「僕は悪くない」「忘れた」という言葉しか出せなくなる。理解できていないから課題に取り掛かれないだけで、やる気がないわけじゃない。特別な支援をしてくれたら、この子はできるはずなんだ。とてもいい子なんだ」と忍耐強く伝え続けました。

それでも心の中は揺れていました。障害のせいとはいえ、他人に迷惑をかけているのは事実だ・・・先生の手を煩わせているのは事実だ・・・

家では落ち込んで泣いたり、怒ったりしていました。

そんな時、ある事件が起こりました。
ある日曜日、意気揚々と新品の自転車に乗っていたTAKUYAは、中学生6人に自転車で追いかけられ、倒され、囲まれて自転車を壊され、路上で泣いて前後不覚になってしまいました。そこを通りかかった別の中学生が声をかけて、自宅まで連れてきてくれたのです。

TAKUYAは落ち着いてからも状況説明ができず、いつものセリフで「僕は何もしていないのに~」としか話せません。怒りと恐れでつぶれそうになりながらも、どうしてそういうことになったのか知りたい、事実を知りたいと思いました。

事実を知らないと、何でTAKUYAが混乱しているのかを理解して、認識を訂正してあげることもできないのです。事実を知らないとアスペっ子の混乱は解いてやれないのです。

その一ヵ月後、犯人が分かったとの連絡が中学校からあり、その中学生と保護者から謝罪がありました。幼い感じの中学1年生の6人組でした。凶悪なタイプではなく、一人では何もできない弱虫達だと教師は後から教えてくれました。私が中学生たちに状況を教えて欲しいとたずねると、「TAKUYAをからかったら、石を投げたり、唾を吐いたりした上に、むきになって噛み付いてくるから、やった」とのことでした。

からかいに弱いアスペっ子。衝動性の問題もあります。カーッとなってわけがわからなくなり、とことんやらないと終われないのです。
またTAKUYAは、「勝てると思ったから喧嘩した」というのです。相手は中学生6人!「そういう時は逃げなさい」と教えましたが、なかなか伝わりません。中学生6人と「喧嘩」をして「勝てる」と思い込んだ状況認知にも問題があるのです。相手が凶悪な子だったら・・・、と考えると怖くなります。

私は、担任のE先生に報告を兼ねて、知りえた状況をすべて話しました。TAKUYAも石を投げたり、噛み付いたことも、正直に話しました。E先生を信頼して、そして、こういうTAKUYAをどう育てたらいいのかを一緒に考えてくれるスタンスだと思ったからこそ話したのです。

ところが先生の返事は
「そうでしょう。目に浮かぶようです。TAKUYA君にも非があるんです。普通はこんなにまでやられません」「TAKUYA君は自分に不都合なことは、嘘をつくんですよ」「お母さんが思っているTAKUYA君と実際は違いますよ。TAKUYA君は賢いし、忘れたと言いながら自分に都合のいいことしか話さないんですよ」・・・と。

事件のショックを受けている時に、こんなことまで言われて、私は大変ショックでした。一緒に考えて欲しいと思っていただけに、裏切られた思いが強くありました。

TAKUYAの衝動性・状況判断ができないこと、これから同じことがおきないためにはどうしたらいいのか、という私からの語りかけには、反応してくれません。発達障害のことを理解してくれる気持ちはあるのか?新しいことを受け入れてくれる気持ちはあるのか?・・・そんなことを思っていました。

学校でのTAKUYAの大変さは、分かるつもりでした。E先生がどれほど大変な思いをなさっておられるのかも。そこを差し引いて考えないといけないことも。

TAKUYAが障害のためとはいえ、迷惑をかけていることも、理解していました。客観的に見れば、それも事実なのです。将来、暴力はなくなるのだろうか?被害者にも加害者にもなりうるわが子・・・。「少年犯罪」の文字が目の前をちらつき、怯えました。

でも、「本人自身が一番苦しんでいる」ということ、大切なのはここです。ここを考え落としてはいけないのです。
自分の心をコントロールできずに、どうにもならないでいるこの子が一番苦しんでいるのです。親はそのことをいつも心に留め、他人に対する盾になってやらなければなりません。

親もこんなわが子を見て切なくなります、これからどうしたらいいのか、と暗澹たる思いに押しつぶされそうでした。

学校と連携できないということは、親の孤独感を深め、この現実を一人で背負わなければいけない、この子を一人で背負わなければいけない、というプレッシャーを強めました。


その時は、「失望」という名の“おばけ”にだけは、捕まってはいけない・・・と、ただただ自分に言い聞かせてがんばる日々でした。


Akiko


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