Olga Scheps:Chopin
先月号のレコード芸術を観ていたらソニーのページでオルガ・シェップスというピアニストの新譜が紹介されていた。大変な美人なので興味を持ったのだが、そのアルバムは2枚組で少し高い。ショパンプログラムなのだが、2枚目が室内楽用の編曲をベースにした弦楽合奏伴奏版というもの。海外盤を探したら、ソロのみのアルバムがあるので、それを購入した。オルガ・シェップスは1986年ロシア生まれのピアニスト。6歳にドイツに移住しそこで教育を受けた。何しろ15歳にして「私が出会った最高の才能の持ち主」アルフレッド・ブレンデルの賛辞を贈ったという才能の持ち主らしい。このアルバムは、2009年に録音されたもので、最後の「幻想曲」のみルール・ピアノ・フェスティヴァルでのライブ。ルールはドイツのルール地方のことで、ルール地方の各地で催されているようだ。彼女の演奏の特徴は、決して声高にならないことだろう。そして思わぬところでピアノにすることがあり、通常の解釈とは全く違う。それが違和感につながらないどころか、思わぬ効果を生み出すことがある。彼女の感性の鋭さなのだろう。全体を通して、今にも壊れそうな繊細な表現が、我々が抱くショパンの第一印象にかなり近いと思う。そうかといって、テクニックに難があるわけでもない。ルバートも堂に入っている。レコーディング当時23歳とは思えないほどの成熟した表現だ。音楽の構成力もあり、バラード第一番などこの曲の演奏としてもかなり上位に入るのではないか。私がいつも注目する中間部の盛り上がりの難所も全く問題がない、というかこれほどスムーズな演奏もあまりないのではないか。別れの曲での弱音の使い方もかなり独特だ。中間部の普通なら高揚するところが弱く演奏され、それがツボにはまっていて、こういう方法もあったかと、納得させられてしまう。芸風から言って静かで抒情的な作品があっているので、「貴婦人のノクターン」といわれる作品27の第2のワルツなど、実に繊細で夢見るような表現だ。最後の幻想曲もしみじみとした抒情が心地よい。後半の激しいパッセージも激しい表現にはならないが、物足りなさは全く感じない。作品25の練習曲の最終曲も力感に不足はなく立派なものだ。総じてテンポは遅いが、音楽が停滞したりすることはない。勿論、勢いに任せて弾き飛ばすことは全くない。あまり気に入らなかったのは作品69の第二のワルツ。リズムがスタカート気味で、この曲のムードにはふさわしくなかった。ということで、凡百のピアニストとは違うユニークな個性の持ち主だと思う。ほかにもシューベルトなどもあるし、今後注目していきたい。ところで、最近うまくて美人のピアニストが多くなってきたように感じられる。ミーハーの私にとってまことに歓迎すべき状況になりつつある。まったく、良い時代になったものだ。Olga Scheps:Chopin(RCA 88697577612)1.Trois Nouvelles Etudes, No. 12.Trois Nouvelles Etudes, No. 23.Trois Nouvelles Etudes, No. 34.Etude, Op. 10/35.Etude, Op. 25/126.Mazurka, Op. 63/27.Mazurka, Op. 63/38.Ballade, Op. 239.Nocturne, Op. posth.10.Valse, Op. 69/111.Valse, Op. 69/212.Nocturne, Op. 27/213.Fantasia in F minor, Op. 49 (Live) Olga Scheps(p)Recorded 5-7、October,2009 at Jesus Christ Church berlin(1-12),Klavier-Fsestival Ruhr 2009