狭間美帆:タイム・リヴァー
今月号のジャズ・ジャパンを見て出ることを知ったアルバム。最近は少し各社のポイントを比べて購入するようになったが、このアルバムのポイントは低くかった。近くのショップではCDは100円で5ポイントなので、このショップで買えないかと思って行った。全く期待していなかったのだが、ディスプレイされていて即ゲット。手持ちのポイントもあり、安く買えてめでたしめでたし。狭間美帆は前作から注目していたので、こんなに早く新しい作品が出るとは思っていなかった。まあ、ジャズのなかでも、あらゆる人たちに受け入れられるようなポピュラー性があるわけでもないので、これほど早くリリースされてまことにめでたい。昨年出光音楽賞を受賞したということもセールス・ヴァリューとしては大きいと思う。デビューアルバムが2012年の大学の卒業アルバムで、3年後には2作目がリリースされるというのは、彼女の実力もさることながら、いろいろなことがうまくかみ合っているのだろうと思う。まあ、運も実力のうちということだ。ジャズ・ジャパンのインタビューにはギル・ゴールドスタインやジョシュア・レッドマンとの出会いが書かれている。ギル・ゴールドスタインとは坂本龍一の紹介によるのだが、ジョシュアとは面識もないのにメールで直接参加を依頼したのだから、彼女の行動力には驚く。ジャズの場合ミュージシャン同士は昔からそうしてコンタクトを取ってきたので、ハードルは低いとはいえ、ネットの発達した今の時代だからできることかもしれない。今回のアルバムも前作同様m-unitという13人編成のアンサンブルにゴールドスタインとレッドマンが1曲ずつゲスト出演しているというもの。メンバーもトランペットが変わったのとピアノが一人追加になっただけだ。音出しの風景から始まる「The Urban Legend」以下全9曲からなる。一曲としてつまらない曲はなく、彼女のオリジナリティがあふれている。今回のアルバムの特徴は弦が大きくフィーチャーされていることだ。ヴァイオリンが2、ヴィオラとチェロが1というもので、ほかはホルンを含む木管にバイブとリズム・セクションが加わっている。クラシックとジャズの融合を狙ったものだが、その狙いは半ば達成したように思う。通常なら弦はバックでハーモニーを聴かせるような役割が多いものだが、ここではかなり積極的にフィーチャーされていて、サウンドは現代音楽風だ。そのため通常のストリングス入りの音楽のような軟弱な音楽ではなく、かなり刺激的なサウンドが楽しめる。弦のソロや弦のみのアンサンブルも大きくフィーチャーされている。それが最もよく表れているのが「Alternate universe,was that real?」冒頭の霧のような弦の不協和音の中に、ベースとドラムスのリズムが入り、そこにトランペットとバスクラがユニゾンで出るところからして、ぞくぞくする。その後のピアノソロの場面はシュールで、ギル・エヴァンスの作品を聴いているような錯覚を覚える。中近東の気分が感じられ、クロノス・カルテットの演奏を聴いているようだ。ピアノのリズムから始まる「Introduction」は弦が活躍する曲で、とても刺激的な曲。サティー風の不条理が感じられる。この曲のヴァイオリンのリズムはシンコペーションが難しく、演奏者はイラつきそうだ。中近東風の太鼓から始まる「Fugue」も弦とピアノ・トリオ主体の演奏。この2曲では狭間がピアノを弾いているが、芯の通った演奏はなかなかいい感じだ。ギル・ゴールドスタインのアコーディオンが参加した「月ヲ見テ君ヲ想ウ」(Under the Same Moon)はラテン的になるかと思ったらそうではなく、木管アンサンブルとビッグ・バンドのサックスセクションがブレンドしたようなジャジーなサウンドとノリの良さが感じられる。ジョシュア・レッドマンをフィーチャーしたタイトルチューンの「Time River」は10分を超える力作。公式サイトのセルフ・ライナーノーツによると、時の流れに身を任せる自分の心情を描いているらしい。アルバムの中では最も叙情的で、霧に霞む川の情景が濃厚に描かれているようだ。最後のア・パーフェクト・サークルのカバー「Magdalena」は彼女の解説によるとマグダレーナという魅力的な女性に誘われて、扉を開けた瞬間限りなく光りと愛に満ちた世界が広がっていたという、映画のシーンでも見ているような劇的な音楽になっている。原曲を聴いてみたが、個人的にはあまり魅力的な曲とは思えなかった。今回のアレンジではマグダレーナのコケティッシュな魅力が感じられ原曲よりも数段面白かった。ここでのバリトン・サックスとテナー・サックスのソロがたいそう魅力的だ。特にテナーのブローは聴き手を熱狂させる。カバーの1曲を除いき、全て彼女の作品。キャッチーなメロディーこそ少ないが、スカはなくかなり水準が高い。ほの暗いカラーと透明度の高いサウンドが特徴的だと思う。木管の扱い方などはギル・エヴァンスの影響を感じさせるが、弦の扱い方は彼女のオリジナルだろう。ところで、前作同様発売記念のライブが企画されている。9月30日にニューヨーク、来月には東京ブルーノートでレコード会社としてもかなり力が入ってる。個人的には、日本のギル・エヴァンスと言われるようになってほしいと勝手に思っている。なお、楽天では国内盤のリンクがまだ張られていないので、輸入盤のリンクを張った。価格はこちらの方が安い。アーバンレジェンド狭間美穂:タイム・リヴァー(Verve UCCJ-2130)1.The Urban Legend2.Cityscape3.Under the Same Moon4.Dizzy Dizzy Wildflower5.Alternate universe, was that real?6.Introduction7.Fugue8.Time River9.Magdalena (song by A Perfect Circle)m-unit:Miho Hazama(cond, p on 6,7)Gil Goldstein(acc, on 3 only)Joshua Redman(ss,ts on 8 only)Cam Collins(as, cl except 6,7)Ryouji Ihara(ts, ss, fl except 6,7)Andrew Gutauskas(bs, b-clexcept 6,7)Matthew Jodrell(tp, fl-h except 6,7)Adam Unsworth(hrn)Joyce Hammann(vn)Sara Caswell(vn)Lois Martin(va)Meghan Burk(vc)James Shipp(vib except 6,7)Sam Haris(p on 2,5,8)Alex Brown(p on 1,3,4,9)Sam Anning(b except 6,7)Jake Goldbas(ds)Recorded at Avator Studios NY,April 1-2,2015