意表を突くようなところでのルバートや耽溺があり、テンポ感も何もあったものではない。
普通こういう演奏を聴くと嫌気がさすものだが、ルイサダの演奏ではそこまで悪い感情にはならない。
不思議な説得力があるのだ。
どこから出ているのかわからないが、これらのワルツの新しい魅力が表現されているとでもいうべきだろうか。
この表現はいったいどこから出てくるものだろうか。
考えて出てくるものではなさそうだが、そうかといって感興の赴くままに演奏したというのとは明らかに違う。
必ずしもスタンダードになる演奏とは思えないが、何とも不思議な演奏だ。
一つ一つの音符のタッチも細かく変えていて、一筋縄ではいかない。
嬰ハ短調のワルツはそれが顕著に表れている。
おそらくピアノを弾く方たちの方が、この演奏のユニークさが分かると思う。
この演奏がいかにユニークかを知るためには、有名曲を他のピアニストと比べてみるのとよく分かる。
例えば「子犬のワルツ」。
おそらくこんな弾き方をするピアニストはいないと思う。
スピード感を出そうとする演奏はかなり多いと思うが、ここでの演奏はそういうことは全く関心がなく、いかに微妙なニュアンスをつけるかに腐心しているとしか思えない。
そのために、音楽の流れが不自然になるのも厭わない。
ある意味、潔い演奏なのかもしれない。
ところで、「子犬のワルツ」の速弾きというと、一世を風靡したブーニンの演奏を思い浮かべる。
もしやと思って調べたら、ブーニンとルイサダは1985年のショパン・コンクールで入賞した仲だった。
今から考えるとその後の二人の立場は当時とは全く違ったものになってしまったようだ。
人生なんて全く分からないものだ。
結局、ルイサダの演奏は落語の名人が演ずるような名人芸のようなものだと思う。
そんな中では作品69の第2があまり手管を弄していない素直な表現の中に、えもいわれない芳しい香りが漂ってくるような演奏でとても魅力的だ。
ルバートがはまっているのは作品34第2のワルツだ。
テンポはかなり遅く、仄暗い雰囲気がこの曲にマッチしている。
この曲の第2主題がこれほど聞き手の心の奥底まで伝わってくることも稀だと思う。
Jan-Marc Luisada:Chopin:14 Waltzes & 7 Mazurkas(RCA 8875028062)
1.Waltz in E-Flat Major,Op.18,'Gande Valse Brillante'
2.Waltz in A Minor,Op.34,No.2 'Valse Brillante'
3.Waltz in F Major,Op.34,No.3 'Valse Brillante'
4.Waltz in F Minor,Op.70,No.2
5.Waltz in D-Flat Major,Op.70,No.3
6.Waltz in F Minor,Op.Post
7.Waltz in A-Flat Major,Op.69,No.1 'L'adieu'
8.Waltz in D-Flat Major,Op.64,No.1 'A Minute'/'Petit Chien'
9.Waltz in C-Sharp Minor,Op.64,No.2
10.Waltz in A-Flat Major,Op.64,No.3
11.Waltz in G-Flat Major,Op.70,No.1
12.Waltz in A-Flat Major,Op.42
13.Waltz in B Minor,Op.69,No.2
14.Waltz in A-Flat Major,Op.34,No.1 :'Valse Brillante'
15.Mazurka in G Major,Op.67,No.1
16.Mazurka in G Minor,Op.67,No.2
17.Mazurka in C Major,Op.67,No.3
18.Mazurka in A Minor,Op.67,No.4
19.Mazurka in C Major,Op.68,No.1
20.Mazurka in A Minor,Op.68,No.2
21.Mazurka in F Major,Op.68,No.3
Recorded November 26-28,2013,ACROS Fukuoka,Fukuoka Symphony Hall
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