台風十八号とミサイル 9「隊長。新たな車が駐車場から出てトレーラーの後を追いました。」 「ああ。」 「尾行しますか。」 「まて、あせるな天童。大型トレーラーの前に二台の車、後ろに一台の車がついた。これはかなり綿密な計画であると考えなければならない。うかつな行動はできない。」 「はい。」 青木はなおも様子を見るために車を発車させなかった。大型トレーラーはスピードが遅いから追いつくのは簡単である。大型トレーラーに追尾する車がないことを確かめてから尾行を初めても大型トレーラーを見失うことはない。青木たちは暫くの間駐車場を見ていたが、駐車場に残っている二台の車は動かなかった。 青木は駐車場の中を調べるために、 「天童、駐車場に行ってくれ。」 と指示した。天童は車を発進した。 「止めろ、天童。」 青木の鋭い声に天童はすぐに車を止めた。それから駐車場を見た。しかし、駐車場の中の二台の車は動いていなかった。 「駐車場に怪しい動きはありませんが。」 「駐車場ではない。向こうを見ろ。」 青木は前方を指した。見るとカリナーシティー方向から水しぶきを上げて近づいてくる車があった。 「あの車も武器窃盗団の仲間なのでしょうか。」 天童は青木に聞いた。 「それはわからない。用心第一だ。あの車が通り過ぎるのを待とう。」 「はい、わかりました。」 カリナーシティーの方から来た車は十字路に来るとスピードを落とした。そして十字路を左折して間道に入っていった。 「隊長。あの車も武器窃盗団の仲間でしょうか。」 「その可能性は高いな。」 駐車場を出た三台目の車が最後の車ではなかったようだ。 青木は県道七十五号線に一台の車も走っていないのを確認してから車を間道に入るように天童に指示した。車が走り出すと青木は鈴木に電話した。 「鈴木です。」 「青木だ。」 「青木隊長。今のところ、尾行は順調です。」 「鈴木よく聞け。今カリーナエアーベース第三ゲートから大型トレーラーが出て間道に入った。大型トレーラーは大量の荷を積んでいた。トレーラーの荷はカリーナエアーベースから盗んだ大量の銃火器の可能性があると思われる。トレーラーの前と後ろには不審な車が追随している。トレーラーは君達の後を追う形になった。後ろにも気を付けながら尾行をしてくれ。私たちはトレーラーの後ろを付いていく。」 「了解しました。」 鈴木は電話を切ると、 「斎藤君、後ろから大型トレーラーが来ているそうだ。」 「え、大型トレーラーがですか。」 「そうです。青木隊長の話では盗んだ武器を積んでいる可能性が高いそうです。」 「それじゃ、武器窃盗団はカリーナエアーベースから大量の武器を盗んだということですか。」 「そうなのだと思います。」 「私達は武器窃盗団の車に挟まれた状態になったですね。私達はどうすればいいのですか。」 「この間道では私達は身動きができません。今は慎重に尾行をするようにとのことです。」 「わかりました。」 斎藤と鈴木は慎重に尾行を続けた。 間道のうっそうと木が生えている場所に来ると葉っぱや小枝が路上に散らばっていた。大城はスピードを落とした。 「大きい枝が道に落ちていないか心配だ。」 梅津は顔をフロントガラスに近づけて前方を注意深く見ながら言った。 「そうだな。まあ、枝だったらお前と二人で片付けることができるが木が根元から倒れているとヤバイぜ。」 タイヤがバキバキと枝を踏むのが尻に伝わってきた。 「お、あれは水溜りじゃないか。」 枝葉が散らばっている先に水溜りが見えた。水溜りは道路一杯にひろがり長さは十メートルくらいあった。 「深くなければいいが。」 梅津は呟いた。大城は冠水している場所で車を停めた。 「深くはないと思う。」 「そうかな。」 梅津は心配そうに大城を見た。 「何回か大雨の時にこの道を通ったことがあるが。あの時は大丈夫だった。」 「そうか。」 「車を入れるよ。」 大城はゆっくり水溜りに車を入れた。大城は慎重に車を進めた。大城の言った通り水溜りは深くはなかった。水溜りから出ると大城は車を加速させた。 斎藤は大城達の車がスピードを落としたことに気づいた。 「鈴木君、大城達の車がスピードを落としました。」 「え。」 「私もスピードを落とします。大城達はなぜスピードを落としのでしょうか。」 「道路に枝葉が散らばっています。その性ではないでしょうか。」 「そうですね。」 暫くすると大城達の車が停まった。斎藤と鈴木は緊張した。 「車が停まりました。」 斎藤はそう言うと車を停めた。 「水溜りがあるのでしょうか。」 「あ、水溜りが見えます。」 大城達の車はゆっくりと水溜りを走った。 「水溜りを走っています。」 大城達の車は水溜りから出るとスピードを上げた。 「やっぱり水溜りがあったせいで車を停めたようです。」 斎藤はほっとした。そして、車のスピードを上げた。 ガウリンは前方に白い車が止まっているのを見た。暴風雨のために故障した車が停まっていると思ったがその車はゆっくりと走り出した。 「おかしいな。」 ガウリンはつぶやいた。 「大城さん達の車と私達の車の間には一台の車もないはずなのに、前の方に車が走っている。」 前を走っている白い車をガウリンは怪しんだ。 「梅沢さんに連絡をした方がいいな。」 ガウリンはそう言うと梅沢に電話した。 「梅沢だ。どうしたガウリン。」 「梅沢さん。怪しい車が前を走っています。」 「え、怪しい車だって。どういうことだ。」 「私達と大城さんの車の間には車が走っているはずはないのに車が走っているということです。」 「どんな車だ。」 「白のセダンです。あ、もしかすると大城さん達が駐車場に入った時に、大城さん達の後からやってきて十字路を左折していった車かもしれません。」 「え、どういうことだ。」 「大城さん達の後ろから走ってきた車があったんです。その車は大城さん達の車が駐車場に入った後にやって来て十字路を左折しました。私が駐車場に入ってから目の前を通過した車は後にも先にもその車一台だけだったんです。」 「つまり、その車はどこかに隠れていて、大城達の車が間道に入ってきたので大城達を尾行しているということか。」 「それ以外には考えられません。」 「くそ、厄介なことになったかも知れないな。悪い予感がするぜ。」 「どうしましょうか。」 「できるなら事を荒立てない方がいい。大城達に連絡するから電話を切るよ。」 「はい。」 梅沢はガウリンとの電話を切ると急いで梅津に電話を掛けた。 「梅津、梅沢だ。」 「梅津です。」 「気を付けろ。お前たちの後ろを怪しい車が付いている。」 「え、まさか。」 梅津は予期していなかった梅沢からの話に仰天した。梅沢は後ろを見た。しかし、激しい雨のせいで後ろの車は見えなかった。 「くそ、いつから俺たちを尾行していたんだ。」 「梅津、大城に話して車のスピードを落として後ろの車に接近させろ。車に乗っている奴の顔を見てみろ。見覚えのある人間かどうか確かめるんだ。」 「はい。」 梅津は携帯電話を手で押さえて大城に話した。 「大城。俺達を尾行している車があるらしい。」 「まさか、嘘だろう。信じられねえ。」 大城はバックミラーを見た。しかし、バックミラーは視界が悪くて車の後方を見ることができなかった。 「梅津、あせるなよ。尾行していると決め付けるのはまだ早い。偶然にお前たちの後ろを走っていることも考えられる。いいか梅津、よく聞け。今度の仕事はどでかい。一生に一度あるかないかのどでかい仕事だからできるだけ荒立てたくない。慎重にやってくれ。大城と話したい。お前の携帯電話を大城の耳に当てろ。」 梅津は、「梅沢さんからだ。」と言いながら携帯電話を大城の耳に当てた。 「大城だ。」 「大城。慎重にやれ。今度の仕事はでかい。失敗は許されない。」 「分かっている。」 梅沢は電話を切った。 「電話は終わった。梅津。後ろの車が見えるか。」 梅津は後ろを見た。 「見えない。もっとスピードを落として。」 「ああ。」 大城はスピードを落とした。すると梅沢が言った通り雨の中に白い車が見えた。 「車が見えた。大城。どうやら尾行されているのは確かのようだ。」 「くそ。俺達を尾行しているのはどこのどいつだ。」 大城は尾行されていることにショックを受けた。 「尾行されているのは間違いない。この車がスピードを落としたらむこうの車もスピードを落としてこの車と同じスピードで走っている。」 「どうする。」 「車に乗っている人間が知っている人間かどうかを調べろと梅沢さんは言った。スピードを落として後ろの車に接近してくれ。」 「わかった。」 大城は車のスピードを徐々に落としていった。 斎藤は大城が車のスピードを落としたのに気づいた。 「変だぞ。」 「どうかしたのか斎藤君。」 「前の車がスピードを落としたようです。」 「なに、なぜスヒードを落としたのだろう。」 「さっきと同じように前方に障害物を見つけたのじゃないですか。暴風雨で道路沿いの木の枝が折れ落ちたとか、それとも水溜りを発見したかもしれません。」 「そうかも知れませんね。」 斎藤は前の車に合わせてスピードを落とした。 「お、後ろの車もスピードを落としたぞ。大城、もっとスピードを落とせ。」 「くそ。もし、俺達を尾行しているのならただじゃおかないぞ。」 大城はスピードをさらに落とした。 「大城達の車の前方に水溜りが見えません。」 「スピードの落とし方が変です。障害物がないのにかなりスピードを落としています。」 斎藤は大城達の車のスピードの落とし方を変に感じたが、斎藤は大城達の車に合わせるようにスピードを落とした。すると大城達の車はさらにスピード落としていった。大城達の車に合わせて斎藤もスピードを落としたので大城達の車はますますスピードを落とし、最後には停まってしまった。 「あ、前の車が停まりました。前方に障害物らしきものも水溜りも見当たりません。あんな場所で車を止めるのは変です。もしかしたら私達の尾行に気づいたのでしょうか。」 「分かりません。後ろからは大型トレーラーが近づいてきます。どうしますか。」 「どうしますか。」 斎藤と鈴木は顔を見合わせた。 「彼らに尾行していることが知られているとしたら、ここに停車しているのは危険です。それにここに停車し続ければ尾行していることを確実に知られてしまいます。仕方がありせん。尾行を中止しましょう。」 「え、尾行を中止するのですか。」 「この車は大城達に覚えられています。この車で尾行するのは無理です。引き返して青木隊長の指示を仰いだ方がいいと思います。」 斎藤はユーターンした。 「梅沢さん。やっぱり俺達を尾行している車のようです。俺達の車が停まったらその車も止まりました。で、止まったままです。」 「くそ。あり得ないことだ。信じられない。そいつらの正体は一体何者なんだ。いいか梅津。こうなったら逃がすわけにはいかねえ。絶対に捕まえろ。」 「分かりました。」 「あれ、前の車がユーターンしたぞ。」 怪しい車がユーターンしてガウリン達の方に向かってきた。ガウリンは怪しい車が逃げるのを防ぐために反対車線に車を入れた。トレーラーを運転しているロバートはガウリンの車が反対車線に入ったのを見て、ユーターンしてやってくる車が敵の車であり、逃げ道を防がなければならないと思った。ロバートは反対車線にカーブを切り、トレーラーで二車線道路を塞いだ。 斎藤は逃げ道を塞がれて車を止めた。 「まずいです。後ろの人間にも尾行を気づかれたようです。トレーラーが二車線を完全に封鎖しました。ここから逃げるのは不可能です。」 斎藤は再びユーターンした。 「どうしますか。」 「どうしますか。」 前も後ろも塞がれたので若い斎藤と鈴木はパニック状態になった。 「仕方がありません。前の車を抜きましょう。それしかないと思います。」 「そうですね。それしかないと思います。」 斎藤は大城達の車に近づいていった。 「やっぱりやっぱり。くそ。あの車は俺達を尾行していたんだ。尾行しているのがばれたので逃げる気だな。大城、あの車の逃げ道を塞げ。」 「まかせとけ。」 大城は車をバックさせて道路の中央に止めた。 斎藤は大城の車が道路中央に移動したのを見て車を停めた。 「車が道路の中央に移動しました。どうしますか。」 「前方の車の側面を通って逃げるしかありません。もし、前方の車にぶつかってもそのまま突っ切ったほうがいい。」 「わかりました。もし、前方の車と衝突して車が止まってしまったら走って逃げます。それでいいですか鈴木君。」 「それしか方法はないようです。了解。」 斎藤はアクセルを踏んだ。斎藤と鈴木は車から素早く逃げれるようにシートベルトを外した。斎藤が運転する車は大城達の方に向かってゆっくりと走り出した。 正体不明の車が大城の車にゆっくり接近してきた。 「ここを強行突破する気だな。そうはさせないぞ。大城、あの車にここを突破させるなよ。」 「ああ、まかせとけ。」 梅津は急いで車から降りて車の後ろに回って拳銃を抜いた。大城はハンドルを握り、走ってくる車を待った。走って来る車が左側を通り抜けようとすれば車をバックさせる。右側を通り抜けようとすれば前進する。走って来る車が右側を通っても左側を通っても進路を断つつもりだ。大城はギアをニュートラルにして接近して来る車を待った。接近して来る車は右側を通るか左側を通るか。 梅津は車の背後に回り拳銃を構えた。正体不明の車はゆっくりと接近してくる。正体不明の車が大城の車にぶつかって止まったら、直ぐに車に駆け寄って正体不明の車に乗っている人間に銃を付きつけて彼らを捕まえる積もりだ。 斎藤は梅津が車の後ろから拳銃を構えたのを見た。 「鈴木さん。相手は拳銃を持っています。」 斎藤は車を止めた。 「そうですね。武器窃盗団だから拳銃を持っていて当然かも知れません。」 鈴木は拳銃を抜いて安全装置をはずした。 「前を突破する以外に方法はありません。」 「そうですね。」 斎藤も拳銃を抜いた。 ガウリンは斎藤達の車を追ってスピードを上げた。 「どうしたのですか、ガウリンさん。」 異常事態を察知したハッサンはガウリンに聞いた。 「あの前の車は大城さん達を尾行している車のようです。捕まえなきゃ。」 「敵ですか。」 「ああ、敵だ。」 ハッサンはガウリンの話を聞いて拳銃を抜いた。 正体不明の車は急にスピードを出して右側の車線に入った。大城は前進して正体不明の車に接近した。正体不明の車は急停車するとバックして止まり左側車線に入ってきた。大城は慌ててバックして反対車線に入った。すると正体不明の車はカーブを切って右側車線に入ってスピードを上げた。・・・逃げられる・・・と思った梅津は正体不明の車に向かって拳銃を撃った。梅津が放った銃弾は正体不明の車のフロントガラスを撃ち抜いた。 |