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     ヒジャイ        日々の詩

     ヒジャイ        日々の詩

台風十八号とミサイル 2

ミサイル窃盗を成功させるには大型クレーンを運転できる人間はなくてはならない存在である。短時間で手際よく仕事のできる熟練の運転手が必要だった。梅沢は大型クレーンを運転できる人間をピックアップしてあり、腕の立つ人間から順番に電話をかけて明日中にウチナー島に来るように仕事の依頼をしたが、最初に電話をした男は中国でダム建設の仕事をしているという理由で梅沢の仕事の依頼を断った。次に電話した人間は中近東のサウジアラビアに居て二日以内にウチナー島に来ることができないという理由で断わった。梅沢は三人目の人間に電話をした。三人目の人間の名前はハッサンと言い、インド国籍の人間だった。
「やあ、ハッサン。元気か。梅沢だ。」
「梅沢さん。なにかいい仕事ないですか。」
「仕事をしていないのか。」
「道路工事の仕事をしているが給料が安いです。梅沢さん。給料の高い仕事が欲しいよ。梅沢さん。なにかいい仕事はないですか。」
ハッサンの話を聞いて梅沢はほっとした。ハッサンは今度の仕事に飛びついてきそうだ。
「ハッサンは今どこに居るんだ。」
「台湾に居る。」
台湾なら一日あればウチナー島に来れる。
「ハッサン。一日で七千ドルの仕事がある。」
「え、七千ドルですか。やるよ。どんな仕事なのだ。」
「仕事の内容は今は言えない。」
「一日で七千ドルの報酬があるならやばい仕事に決まっている。そうだよな梅沢。仕事の内容は聞かなくていい。俺は仕事をやるよ。」
「それじゃあ決まりだ。しかし、断っておくことがある。この仕事は状況によってはキャンセルになる時もある。その時は一日五百ドル出す。」
「日当が五百ドルなら喜んでやるよ。」
「そうか、わかった。仕事の現場はジャパン国のウチナー島だ。ハッサンはウチナー島を知っているか。」
「知らない。」
「ジャパンは知っているよな。」
「ジヤパンは知っているよ。ジャパンを知らないアジア人は居ないよ。」
「ウチナー島はジャパンにある。」
「ジャパンにあるのか。」
「そうだ。ジャパンの南端にウチナー島はある。台湾からはウチナー島には直行便がある。調べれば簡単に探せるはずだ。ハッサン。今度の仕事は明日までにジャパンのウチナー島に来るのが条件だ。ハッサンは明日までにウチナー島に来れるか。」
「行けるよ。」
「そうか、それなら決まりだ。」
「梅沢さん、お願いがあります。弟のシンも連れて行きたいですが。」
「え、弟も一緒なのか。」
「はい。」
「何才だ。」
「十九才です。」
「十九才か。」
梅沢はハッサンの弟が十九歳と聞いて迷った。
「お願いだ。梅沢さん。シンも雇ってくれ。」
ハッサンは何度も頼んだ。
「シンは英語を話せるか。」
「話せます。」
英語が話せるなら他の人間との共同作業ができる。
「まあ、いいだろう。シンには五千ドル出そう。それでいいか。」
「それでいい。ありがとう梅沢さん。」
「ウチナー島に来る日時が決まったら連絡してくれ。空港に迎えに行くから。」
「これからジャパンのウチナー行きの切符を買いに行く。」
「そうか。ウチナー島で待っているよ、ハッサン。」
梅沢はハッサンとの交渉を終えた。

梅沢はクレーンの運転手を一人確保した。しかし、一人では心細い。なにしろ激しい暴風雨の中の仕事だ。どんなアクシデントが起きるか分からない。予備の人間を準備しておく必要がある。
梅沢はメモ帳からジェノビッチの電話番号を探し、ジェノビッチに電話をした。ジェノビッチはクレーンの運転ができると聞いたことがあったので、クレーン操作のできる人間として梅沢はジェノビッチをピックアップしてあった。ジェノビッチはヨーロッパからジャパンに出稼ぎに来ている人間である。ジェノビッチとは半年以上電話をしたことがないが、まだジャパンにいるはずだ。

「やあ、ジェノビッチ。梅沢だ。」
「やあ梅沢。いい仕事はないかい。」
「ジェノビッチはまだジャパンに居るか。」
「ああ居るよ。ジャパンでは期待していた程は稼げないからチャイナのシャンハイに行こうかとミルコと相談しているんだ。」
「ミルコとまだ一緒なのか。」
「ああ。」
「ジェノビッチはクレーンの運転ができると言っていたよな。」
「ああ、できるぜ。」
「一トンの荷物をクレーンで移動したことはあるか。」
「一トンくらいの荷物なら何度もクレーンで運んだ。」
「そうか、ジェノビッチに七千ドルの仕事があるが乗るか。」
「え、七千ドルだって。何日間で七千ドルなんだ。一ヶ月間でか。」
「いや、二、三日だ。実際に仕事するのは数時間だけだ。」
「え、たった数時間で七千ドルか。殺しか。」
梅沢は苦笑した。
「いや、殺しの仕事じゃない。物を運ぶ仕事だ。クレーンを運転する人間が必要だからジェノビッチに電話したんだ。」
「クレーンの運転なら任してくれ。そんなうまい話だとするとその仕事はヤバイ仕事だということか。」
「まあそういうことだ。断るか。」
ジォノビッチは笑った。
「断るはずがないだろう。」
「仕事の内容について今教えるわけには行かないが、仕事をすれば七千ドルの報酬をやる。」
「二、三日で七千ドルがもらえるなんて、こんないい仕事はめったにない。ぜひやらしてくれ。」
「ミルコも雇いたいが、ミルコはやるかな。」
「あいつが断るなんて考えられない。」
「そうか。ぞれじゃ、ミルコに仕事をするかどうかを聞いてくれ。もし、ミルコがオーケーなら私に電話しろ。しかし、明日中にウチナー島に来れないと雇うことはできない。」
「ウチナー島ってどこにあるのだ。」
「ジャパンの南端にある小さな島だ。ジャパンの人間に聞けばすぐ分かる。」
「そうか。」
「しかし、ことわっておくことがある。この仕事はキャンセルする場合がある。その時は一日五百ドルの報酬になる。その条件でどうだ。」
「交通費も含めてか。」
「いや、交通費は別だ。」
「つまり飛行機料金は梅沢が出すということかい。」
「そうだ。」
「一日五百ドルなら悪くない。ミルコと一緒に明日ウチナー島に行くよ。」
「ウチナー島で待っている。」
梅沢は電話を切った。
これでクレーンの運転手はハッサン、ジェノビッチの二人を確保できた。ミサイルをカリーナ弾薬庫から盗み出すのだから色々なアクシデントが起こるのは覚悟しなければならない。クレーン運転手が怪我をすることもあり得ることだ。それでも二人のクレーン運転手が居れば大丈夫だろう。

梅沢は梅津に電話した。梅津は梅沢の依頼で不良自衛隊員から銃火器などを買い集めて、梅沢に売っている人間である。
「梅津。梅沢だ。」
「あ、梅沢さん。すみません。」
梅津は申し分けなさそうに言った。
「対戦車バズーカ砲はなかなか手に入れ難くいです。色々知り合いの自衛隊員に話を持ちかけているんですが。対戦車バズーカ砲の話をするとみんなびびるんです。」
梅津は対戦車バズーカ砲を入手していないことを梅沢に謝った。
「電話したのはそのことではない。梅津よ、直ぐにウチナー島に来てくれ。」
「え、ウチナー島にですか。」
「そうだ。来てくれ。」
「直ぐにですか。急ですね。」
「そうだ。梅津はウチナー島に行ったことはあるか。」
「いや、ありません。」
「そうか、ナーファ空港に仲間を行かすから、到着時間が分かったら電話をしてくれ。」
「そんなに急ぐ仕事なのですか。」
「ああ、そうだ。その代わり仕事の報酬は大きいぞ。百万円の仕事だ。」
「え、百万円。」
梅津は百万円という大金の報酬に絶句した。
「ほ、ほんとうに百万円をくれるのですか。」
「ああ、ほんとうだ。しかし、仕事が成功すればという条件だ。」
「それは当然ですよ、梅沢さん。分かりやした。これからウチナー島に行きます。」
「ああ、そうしてくれ。」
梅沢は梅津との交渉を終えて電話を切った。

梅沢は大城に電話をした。大城はウチナー島に住んでいる人間である。ウチナー島については梅沢よりも詳しい。大城は不良アメリカ兵と親しくしていて彼らがアメリカ軍から盗んだ銃火器を買い集めて梅沢に売る商売をしていた。
カリーナ弾薬庫からミサイルを盗む計画は大城が「ミサイルを盗めると豪語しているアメリカ兵が居る。」という情報を梅沢に話したことから始まっていた。
梅沢は大城の話に半信半疑だったが大城は「ミサイルを盗めると豪語している」アメリカ兵を梅沢に会わせた。アメリカ兵の話には信憑性があった。ミサイルの種類、大きさ、重さ、ミサイルを保管している倉庫、合鍵を作る方法などの詳しい話を聞いた梅沢はアメリカ兵の話を信用して、ミサイルを盗み出して日本国外に運び出す方法を研究しながら、ミサイルを買ってくれる国際的な武器商人を探した。ミサイルを買うという国際的な武器商人はすぐに見つかった。その人物はミスター・スペンサーと呼ばれている男でアジアから中近東、アフリカ一帯で武器売買の商売をやっている人物であった。梅沢はその国際的武器商人スペンサーからミサイルを一基一億円で買うという確約を取った。
それからの梅沢はカリーナ弾薬庫から盗み出したミサイルを国外に運び出す研究に没頭した。そして、台風の目がウチナー島に上陸した時にミサイルをカリーナー弾薬庫から盗み出して国外に運び出す計画を立て、ミサイルを運び出すための器材を準備したのだった。大城が居なければカリーナ弾薬庫からのミサイルを窃盗する計画は生まれなかった。

「大城。梅沢だ。」
「おお、梅沢さんか。」
「今度の台風十八号はウチナー島に上陸しそうだな。」
「そうだな。俺も気象予報には注目していた。梅沢さんからの電話を今か今かと待っていたよ。」
「そうか、例の仕事を決行するぞ。」
「やっぱりな。決断したんだ。」
「ああ、決断した。」
「いよいよか。しかし、ミサイルを盗むことが現実になるなんて信じられないな。感動ものだよ。こんなスケールのでかい泥棒は一生に一度しか俺にはないだろうな。俺が冗談半分で持ち込んだミサイルを盗む話を本当に実現するとはなあ。俺はまだ信じられないよ。梅沢さん。あんたはすごいよ。」
大城はミサイルを盗むのを現実化した梅沢に感心した。
「しかし、台風十八号がすんなりとウチナー島に上陸するのは百パーセントの確立ではない。今度こそ上陸してほしいよ。」
「俺の感では、今度は確実に台風の目はウチナー島に上陸するね。今度こそミサイルを盗めるよ。」
「そうあってほしいよ。ところで大城。頼みがあるんだ。」
「どんな頼みか。」
「お前のアパートに二、三人の仲間を泊めてくれないか。」
「え、俺のアパートにか。」
「ああ。」
「ううん、俺のアパートに他人を泊めるのか。それは困るなあ。他の人間に頼んでくれないかな。俺は知らない人間と寝泊りするのは嫌いなんだ。ホテルに泊まらせたらいいじゃないか。去年はホテルに泊めただろう。」
「前はホテルに泊めた。しかし、ホテルに泊めると名前の記録が残るし顔もホテルの人間に覚えられる。それはまずいと考えた。だから今年はアパートや自動車モーテルに泊めるつもりだ。行動も素早くできるようにジャパンの運転免許を持っている人間を中心にグループを編成するつもりだ。今度の仕事は台風が相手だ。台風の動きに迅速に動けるシステムを作らないと失敗する恐れがある。」
「なるほど。梅沢さんは頭がいい。」
「だから、グループはいつも一緒に行動してほしいのだ。大城、断らないでくれ。それなりに礼はするから。」
「なるほどな。梅沢さんの言う通りだ。そうだよな。今度の仕事は特別だからな。今度の仕事はスケールがでかいから仕事に参加する人間も多いだろうな。梅沢さん。何人がこの仕事に関わるのだ。」
「合計すると三十名以上になる。」
「そいつはすげーや。その三十名の人間を台風の目がウチナー島に入った数時間に一気に動かすのだろう。とても俺には真似のできない芸当だ。梅沢さん、承知した。俺のグループの人間は俺のアパートに泊めるよ。しかし、言っておくが、もてなしは一切しないよ。俺は人をもてなすのが苦手なんで。」
「それは仕方ない。お前は一匹狼だからな。しかし、今度の仕事は多くの人間の連係プレーで成功する。仲間同士の不協和音があっては仕事はうまくいかない。この計画を詳しく知っているのは私と大城だけだ。だから大城はリーダー的な立場だからな。それを覚えていてくれ。」
「うう。梅沢さんにそんな風に言われると気が重くなるなあ。俺はリーダーなんかになりたくないよ。」
「あはは。とにかく、大城よ。大城のアパートに泊まる連中は今度の仕事の仲間だからな。喧嘩はしないでくれよ。いいか。」
「俺は短気な男だからなあ。でも今度の仕事はスケールがでかいし一生一度の仕事だからな。ぜひ成功したい。梅沢さんよ。俺は仲間と喧嘩するような馬鹿なことは絶対にしないよ。約束するよ。」
「そうか。じゃ頼むよ。大城の部屋に泊める予定の人間がウチナー島に到着したら連絡する。」
「分かった。」



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