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昨日、仕事で
六本木の泉ガーデンタワーへ行った。 ヒルズな人々が新しいエリートの文化を創造している場所である。 このビルの中を歩くと、自然に、コンサルタント、金融プロフェッショナル、 ベンチャー長者を連想してしまう。 実際には、さまざまな業種の方々が棲まわれておられるのだろうが、 俺があまりなじみたくは無い匂いとオーラを ビル全体が発散している。 何の匂いか。 別に何の根拠も無いが、金と、フレンチフードと、イタリアンスーツに 「高級」Tシャツと、会員制スポーツジムをまぶして 発酵させると、俺が今感じている匂いになるかもしれない。 それは貫目のないあんちゃんの匂いにどこか似ている。 俺のお客さん、知人もここに何人か働いているので あまり、邪険な表現はつつしみたいが、 俺にはこの匂いはどこかうそ臭い、ずる賢いあと味を残す。 どうしてなんだろうね。 最近、たいまいをはたいて、というか五年月賦で 新車を購入したら、そこにカーナビなるものがついていた。 これが、案外おもしろい。 今日は、俺が顧問を仰せつかっている会社のゴルフコンペが千葉であり、 帰りに、カーナビの指示に従って走って見た。 海ほたるのある、東京湾アクアラインを抜けてからのルートは 俺が今まで通ったことのない道であった。 まず、川崎大師方面に出る首都高速に入るのだが、 そこに俺が見たのは、ブレードランナーやフィフスエレメントの一場面のような あちこちを錆付いたシルバーの鉄の管が這い回り、 いたるところから、シューシューと 煙を吐き出している薄汚れた無機質な未来都市であった。 京浜工業地帯である。 この高速は日曜日にはほとんど車が通っていないので、 主に産業用なのだろう。 このエイリアンの合体したような石油コンビナート の圧倒的な非在感(妙な形容だけど)は、 しかし、俺の中に何かを喚起する。 機械油と、油泥を洗い流した砂石鹸の匂いである。 そして、鼻腔にざらついた感触を残す鉄粉の匂いである。 高速はほんの数分で産業道路に下り、川崎の工場街へぬけ、 そのまま芥の浮く 多摩川の下流域にかかる大師橋にさしかかる。 この川沿いの風景もまた、 「キューポラのある街」や、「下町の太陽」でみたような、 近代化に取り残されたようなすがれた風情をかもしており、一度は時間をとって 川本三郎さんのような「歩き」をしてみたいところである。 川には釣り船がたくさん係留されており、 バラックのようなリバーサイドハウスが並んでいる。 ルートはそこから大鳥居を左折して、 糀谷へと入る。 糀谷といえば、東京の中では数少なくなった、 街角から洟垂れ小僧が飛び出してくるような 場末の雰囲気を町全体が発散させているなつかしいところである。 かつて、俺の空手の兄弟弟子が、この街の図書館に食堂を出していたが、 いつも行くところの無い悪ガキ連中に飯の種を掠め取られていた。 要するに、飯をただで食わせてあげていたそうである。 そこから、蒲田を抜けると、俺が生まれて育った 千鳥町という場末の場末にたどり着く。 俺の実家は最近まで、ここに町工場を構えていたのである。 だから、機械油と砂石鹸の匂いは、俺の鼻腔に染み付いている。 日本という国が、その近代化の果てにつくった街の風景は、 さきの、泉ガーデンのようなきらびやかでスノッブなビル街と 川崎の工場街のようなブルーカラーの生きる街の 鮮やか過ぎるコントラストである。 そのふたつの街の風景を取り囲むように、人々のホームがあり、 相まみえることの無い人と文化がまだら模様を作り出している。 片方だけ見ていては、何か最も重要なことを見落としてしまう。 なんてことを、しみじみと考えさせてくれたカーナビ付の 新車を降りて、家にもどる。 その足で、夜の道場稽古に出かけ、 二時間たっぷり汗を流す。 師範代負傷のため、このところ俺がずっと稽古をつけているのである。 深夜になって、風呂に入り、今やっと一息ついたところである。 ブログを見ていると、 ウチダくんが、こちらがお願いしていた経営者ブレストでの 講演を、そのまま本にしたいがどうかという提案を書いている。 ウチダ&ヒラカワの「東京ファイティングビジネスマン。世相編」ということ を考えているようである。 いかにもワンソースマルチユースの現代思想の旗手らしい突飛な提案である。 ウチダくんは、突飛な提案には、ヒラカワは飛びつくと思っているらしい。 まったく。 そのとおりだから、困るのである。 「ウチダくん、いいですよ。」
Last updated
June 12, 2005 08:58:48
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