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神経内科医の徒然診療日記・コロナの時代

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takamatsu0224

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Feb 1, 2007
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カテゴリ:医学関連

 最近、時々デイサービスに通っている患者さんや、施設入所中の患者さんでも自分で身体を動かせないと低温熱傷を起こす方がおられます。

低温熱傷について調べてみました。 

低温熱傷はなぜ深くなるのか?


 普通なら火傷しないような温度で起こる熱傷の事を「低温熱傷」と呼ぶ。原因はさまざまで電気アンカ,ホットカーペットなどがあり,これらの低温熱源に長時間肌が触れる事で起こる。

この低温熱傷の問題点は,最初は大した事がないように見えて,時間の経過とともに火傷が深くなる事にある(実際の症例写真はこちら)
 その理由について,例によって「いい加減な考察」をしてみる。


 まず,基礎知識として皮膚,皮下脂肪の血流がどうなっているかが判らないと話にならない。これは図に示すように,筋膜を貫く動脈(穿通枝という)があり,これが皮下脂肪の層をほぼ垂直に上昇し,真皮直下で枝分かれし,真皮下血管網を作り(ブドウ棚のような感じですね),ここから皮膚への血流が供給されるという形態をとっている。


 ここで重要なのは,皮下脂肪ではほとんど枝分かれをしないことである。このため,皮膚(真皮)は非常に血流に富んでいるが,皮下脂肪は血流が乏しいことになる。

 


 さて,低温熱傷について考える前に,通常の高温熱源による熱傷について思い起こしてみよう。


 熱湯に触れれば誰だって熱いし,痛い。だからよほどの事情がない限り,熱湯に触れれば反射的に手を引っ込める。このため,皮膚と高温熱源が触れる時間は短いのが普通である。

一瞬しか高温熱源に触れなければ損傷される部分は表皮表層のみであろうし,長い時間熱源に触れていれば損傷は表皮より深い部分に及び,結果的に「深い火傷」になる。つまり,熱傷の深さとは単純に熱源の温度,熱源との接触時間で決まってしまう

 ところが,低温熱源に触れた場合はどうだろうか。これらの温度は通常「ちょっと熱いけれど,痛みを覚えるほどではない」。このため,これらの熱源に触れても反射的に手を引っ込めたりする事はなく,眠かったり,酔っ払っていればそのまま一晩中,熱源に触れっぱなしになってしまう。


 低温熱源に皮膚が触れれば当然,皮膚は暖められるし,長時間にわたって皮膚と接触していれば皮下組織(皮下脂肪)も暖められる事になるだろう。しかし,低温といっても蛋白質を変成させるには十分な温度である。

深部の温度は皮膚表面からの距離に比例して(?)低化するだろうが,接触時間が長時間に及べば脂肪層の温度は上がってくる(もともと脂肪層は血流が悪いから,鬱熱の状態になりやすいはずだ)。要するに遠火でじっくりと焼いているようなものである。
 このようにして,脂肪層の温度が蛋白変性が起こる温度に達した場合,どういう現象が起こるだろうか。


 ここに前述の「皮膚と皮下脂肪の血流量の差」がかかわってくる。血液は36度くらいだから,低温熱傷の熱源よりは温度は低い。従って,血液が流れている組織は冷却される事になり,冷却効果は単位体積あたりの血流量に比例するはずだ。つまり,皮膚と皮下脂肪を比べた場合,皮下脂肪は皮膚より冷却されにくいのである。

 このような原因から,低温熱源と長時間接触することによる組織の損傷は,皮膚より皮下脂肪の方で強くなり,皮下脂肪で強く組織変性が起こってしまう


 低温熱傷の特徴は「最初は大した事がないように見えるし痛みもないのに,時間の経過とともに皮膚が死んでいく」ことにある。「最初は大したことがない」のはつまり,低温熱傷に気付いた時,皮膚は損傷を受けていないか,受けていても軽度である事を意味する。

 そして「時間の経過とともに皮膚が壊死」するのは,低温熱傷として気付かれた時には既に皮下脂肪が壊死していることが原因である。


 皮下脂肪が壊死すれば,その部分に含まれる穿通枝動脈も閉塞するだろう。その小範囲であれば周囲からの血流があるため,皮膚に影響が出ることはないが,しかし,壊死が広範囲であれば多数の穿通枝動脈が閉塞してしまい,中心部の皮膚を維持する血流がなくなり,その結果として皮膚は壊死してしまうのだ。


 この考えが正しいとすれば,低温熱傷には「初期治療」の手段がないことになる。発見された時点で既に皮下脂肪の壊死は確定しているわけなので,皮膚を冷却しようと皮膚に軟膏をつけようと,壊死した皮下脂肪を生き返られることは不可能だ。

もちろん,被覆材で湿潤療法(うるおい療法,閉鎖療法)をしたって無駄だ。 同時に,低温熱源を除去してしまえば皮下脂肪の壊死はそれ以上進行しないわけだから,その時点で何らかの治療をしてもしなくても,脂肪壊死が更に悪化する事もない

 要するに,低温熱傷は発見された時点で,既にその後の運命が決まっていて,壊死した組織を生き返らせる方法がない以上,その運命を変える治療法は存在しないのではないかと思われる。

 このように考えると,低温熱傷と通常の熱傷は,全く病態も異なっているし,治療法も異なっていることがわかる。通常の熱傷では被覆材などによる湿潤療法(うるおい療法,閉鎖療法)は著効を示すが,低温熱傷では湿潤療法(うるおい療法,閉鎖療法)は効果がないし,患部の冷却も軟膏治療も意味がないのである。


 要するに低温熱傷の発症機序は褥瘡と極めて類似していて,どちらも「先に深部が壊死して,最後に皮膚が耐えきれなくなって壊死する」ことで一致していている。従って両者は,初診時の皮膚の症状,所見から,その後の経過は予測できないのである。

コメント : 調べてみると低温熱傷にはこれといった治療法がないようですね。実際に受診された患者さんは、独り暮らしの高齢の方で、右手を下にして寝たら電気カーペットに触れていた右上肢から胸にかけて水泡ができていました。

救急処置としては乾燥滅菌ガーゼで覆っておいたのですが、やはり予防が大事ということでしょうか。






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Last updated  Feb 2, 2007 03:39:25 PM
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DUGAとも@ Re:頸性めまいその2(頸部自律神経系)(06/24) 私もこの目眩かもしれません!効果的なス…
takamatsu0224@ Re[1]:ギラン・バレーとジカ、やはり関連(03/08) 大黒町さん >色々新しい病気が出てきて不…
大黒町@ Re:ギラン・バレーとジカ、やはり関連(03/08) 色々新しい病気が出てきて不安になります…
大黒町@ Re:睡眠不足でたまる脳内物質が記憶力減退の正体だった。(01/25) これは役に立ちますね。 引用させてくださ…
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