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神経内科医の徒然診療日記・コロナの時代

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takamatsu0224

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Jun 12, 2013
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高齢者の嚥下性肺炎の特徴


 肺炎は日本人の死因別死亡率では第3位であり、全死亡率の8%である。しかしながら65以上の高齢者に限ってみると、肺炎による死亡率が死因別死亡率の第1位となり、その中で嚥下性肺炎が多いことが特徴である。


 この原因は、高齢者には脳血管障害、アルツハイマー病、パーキンソン病などの脳障害をきたす疾患の有病率が高く、これらの症例では共通して嚥下反射や咳反射が低下しているため、嚥下性肺炎を発生しやすいためである。特に大脳基底核の脳梗塞患者では、ドーパミン代謝、更にはその代謝物であるサブスタンスPの分泌が著明に低下しているために嚥下性肺炎が起こりやすい。

漢方薬には半夏厚朴湯のようにサブスタンスPの分泌を改善し、結果的に嚥下性肺炎の発生率を低下させ、肺炎による死亡率を低下させるものがある1)。しかしながら漢方薬は、嚥下性肺炎の発生病態別に選択するのが最も効果的であるので、自験例を中心に解説する2)。


1)  Iwasaki K,Kato s,Monrna Y,etal.:A pilot study Banxia Hoapu Tang, a traditional Chinese medicine,for reducing preumonal risk in elder adults with dementia. J.Am.Geuiatr.Soc.,55:2035-2040,2007
2) 加藤 士郎、岩崎 鋼:病態を考慮した漢方薬による誤嚥性肺炎の治療・漢方と最新治療、19:333-339、2010

高齢者の嚥下性肺炎に使用したいファーストライン


 嚥下性肺炎が発生するには3つの病態が考えられる。

病態1としては、食事中の誤嚥物に細菌が混入しそのまま肺炎を起こす。

病態2としては咽喉頭部に生息している細菌巣からの分泌物が、食事以外のときに微小誤嚥(silent aspiration)となり肺炎が発生するとき。

病態3としては、食後にすぐに臥床させたために、胃や腸の内容物が逆流し、それを誤嚥したために肺炎となるときである。

病態1と2に有効な漢方薬は、半夏厚朴湯である。半夏厚朴湯は、咳反射や嚥下反射を改善することで肺炎の発生率、肺炎による死亡率、食事の自己摂取率を改善し得ることが証明されている。

病態3に有効な漢方薬は、胃の内容物が逆流し、それを誤嚥して肺炎となったときには六君子湯が有効である。六君子湯は胃の拡張と伸展、更に収縮する機能を改善することで胃の内容物を腸に送り出し、胃の内容物の逆流を防ぐ効果がある。腸の内容物が逆流し、それを誤嚥して肺炎となっているときは大建中湯が有効である。大建中湯は腸の蠕動を改善することで、腸の内容物の逆流を防ぐ効果がある。いずれの病態でも漢方薬による治療で、嚥下性肺炎による咳、喀痰、発熱などの臨床症状や検査所見を改善し得る。

 半夏厚朴湯は、食事をするときに喉が詰まったり、異物感を覚えたりするとき、あるいは夜間に発熱したり、咳と痰をきたすことが多くなってきたときに用いる。六君子湯や大建中湯は胃瘻の症例に用いることが多いが、いずれにしても体力が低下している症例が多い。

六君子湯は、胃瘻から経管流動食を投与する前に、心下部に振水音を認め、経管流動食を投与後2時間前後に嘔吐、発熱、咳、痰をきたすときに用いることが多い。

大建中湯は、胃瘻から経管流動食を投与する前に、腹壁の緊張が低下していることが多く、経管流動食を投与後8時間前後経過して嘔吐、発熱、咳、痰をきたす症例に用いることが多い。ガストログラフィンによる消化管造影では、六君子湯適応例では、ガストログラフィンで造影後、2時間以上経過しても胃内停滞をきたす症例が多く、大建中湯適応例では、ガストログラフィンで造影後、8時間以上経過しても腸内で停滞をきたす症例が多い。
治療の実際 ~ファーストライン~

・ 飲み込みが悪い。
・ 喉が詰まる。
・ 飲み込むと咳、喀痰がでる。

・ 嚥下機能が低下しはじめたことによる咳・痰に効果がある。
・ 気分低下があり顔色がすぐれない。
・ 体力が低下している。
・ 胃のあたりにむくみがある。

・ 嘔吐とそれにともなう咳、喀痰、発熱が食後2時間位に起こることが多い。
・ 体力が低下している。
・ お腹の動きが悪い。

・ 嘔吐とそれにともなう咳、喀痰、発熱が食後8時間位に起こることが多い。


気分がふさいで、咽喉、食道部に異物感があり、ときに動悸、めまい、嘔気などに伴う次の諸症:
不安神経症、神経性胃炎、つわり、せき、しわがれ声、神経性食道狭窄症、不眠症 胃腸の弱いもので、食欲がなく、みぞおちがつかえ、疲れやすく、貧血症で手足が冷えやすいものの次の諸症:
胃炎、胃アトニー、胃下垂、消化不良、食欲不振、胃痛、嘔吐 腹が冷えて痛み、腹部膨満感のあるもの

食物は食べやすいように主食も副食もキザミ食やトロミを使用する。 経管流動食を用いることが多い。下痢になるときは低刺激性のものを使用する。 経管流動食を用いることが多い。下痢になるときには低刺激性のものを使用する。

治療の実際 ~ファーストラインの症例紹介~
◇半夏厚朴湯 症例
≪症例≫ 
78歳、女性、無職
≪主訴≫
夜間の発熱、咳、痰
≪既往歴≫
72歳時に脳梗塞
≪現病歴≫
ここ2カ月前から食事をするときに、ときどき喉が詰まったり、夜間に発熱したり、咳や痰をきたすことが多くなってきた。3日前から38.5℃の発熱、咳や痰が止まらなくなり来院する。
≪現症≫
意識状態は比較的清明であり、会話も可能。ADLは介護4、身長154cm、体重52kg、血圧132/80mmHg、脈74/分、整、胸部X線写真上右下肺野、胸部CTscan画像上、右肺S9、S10に肺炎像を認めたため、嚥下性肺炎の診断で入院となった。
≪治療≫
入院後輸液とともに、抗生物質としてイミペネム・シラスタチンナトリウム配合0.5g×2/日、クリンダマイシン1200mg×2/日を併用投与した。入院7日後には肺炎像が消失したため、再度食事を開始した。その直後から再び発熱、咳、痰を夜間に多く認めた。漢方医学的には脈の緊張はやや弱く沈んでいた。腹診で心下痞鞕と腹満があった。半夏厚朴湯5.0g/日を投与したところ、2週間後にはこれら症状は消失した。現在テルミサルタン40mg/日、シロスタゾール100mg/日、テプレノン(50mg)3C/日、半夏厚朴湯5g/日を内服して経過は順調である。

◇六君子湯 症例
≪症例≫
82歳、女性、無職
≪主訴≫
嘔吐、発熱、咳、痰
≪既往歴≫
高血圧、79歳時に脳梗塞
≪現病歴≫
脳梗塞後遺症のために摂食障害をきたし、3ヶ月前に胃瘻を造設、経管流動食を開始した。胃瘻造設1ヶ月後から経管流動食を投与2時間後ぐらいに嘔吐、発熱、咳、痰をきたすことが1-2週に1回程度起こるようになった。2日前に嘔吐があった後、38.3℃の発熱、咳と痰が増強したために来院する。
≪現症≫
意識は比較的清明であり、会話も可能である。ADLは介護5、身長148cm、体重39kg、血圧124/78mmHg、脈72/分、整、呼吸数16回/分、胸部X線写真上の右中・下肺野、胸部CTscan画像上の右肺S6、S9、S10に肺炎像を認めたため入院となった。
≪治療≫
嚥下性肺炎の診断のもと、輸液を行い、イミペネム・シラスタチンナトリウム配合0.5g×2/日、クリンダマイシン1200mg×2/日の併用投与を行った。これらの治療で10日目には胸部X線写真上の肺炎像は消失し、再度経管流動食を投与した。すると嘔吐、発熱、咳、痰を認めるようになった。ガストログラフィンによる消化管造影で2時間以上の胃内への停滞を認め、胃の蠕動不全による嘔吐と考えた。漢方医学的に虚証であり、振水音も認めたため、六君子湯5.0g/日を投与した。投与10日後から嘔吐、発熱、咳、痰は消失し、現在は塩酸イミダプリル5mg/日、シロスタゾール100mg/日、レバミピド(100)3T/日、六君子湯5.0g/日を内服し、経過は順調となった。

◇大建中湯 症例
≪症例≫
83歳、男性、無職
≪主訴≫
嘔吐、発熱、咳、痰
≪既往歴≫
82歳時に脳梗塞
≪現病歴≫脳梗塞後遺症のために摂食障害をきたし、1カ月前に胃瘻を作った。経管流動食を開始したところ、嘔吐、咳、発熱をきたすことが週に1-2回あった。3日前から嘔吐、その後38.3℃の発熱と伴に、咳や痰が強くなった。
≪現症≫
意識レベルは傾眠傾向であり、会話もほとんど不、ADLは介護5である。身長156cm、体重44kg、血圧124/78mmHg、脈90/分、整、呼吸数18回/分、胸部X線写真上、右中・下肺野、胸部CTscan画像上右、右肺S8、S9、S10に肺炎像が認められた。
≪治療≫
嚥下性肺炎の診断で、輸液を行い、イミペネム・シラスタチンナトリウム配合0.5g×2/日、クリンダマイシン1200mg×2/日の併用投与を行った。抗生物質投与6日後には、胸部X線写真上の肺炎像は消失した。経管流動食を再開したところ、嘔吐、発熱、咳、痰をきたすようになった。漢方医学的には虚証であり、振水音はないものの腹壁の筋緊張が著しく低下していた。ガストログラフィンによる消化管造影では、造影開始8時間以上も腸内に停滞を認めた。よって腸の蠕動運動不全による嘔吐と考え、大建中湯7.5g/日を投与したところ、1週間後には全ての症状が消失した。

各処方の使用時期と期間
 半夏厚朴湯は、比較的ADLが良好な症例に適応があり、介護度2-4、すなわち歩行能力が低下し、車椅子を必要とするようになってきた頃に使用するのが最も効率的である。この時期の症例で食事をするときに喉が詰まったり、異物感を覚えたりするときには投与すべきである。この症状に加えて咳や痰をきたしている症例にも適応があり、投与期間は投与量の問題はあるが、継続投与が原則となる。六君子湯と大建中湯の投与は、虚証の症例が原則であり、身体所見としては、六君子湯は振水音がある症例で、大建中湯が腹壁緊張が低下している症例である。介護度4-5の症例がほとんどであり、胃瘻が多い。ガストログラフィンによる消化管造影で、胃部で2時間以上の造影停滞をきたす症例には六君子湯が適応となり、8時間以上の造影停滞をきたす症例には大建中湯が適応となる。投与期間は継続投与が原則となる。

高齢者の嚥下性肺炎
病態1、2に有効な漢方薬は、半夏厚朴湯以外に茯苓飲合半夏厚朴湯、釣藤散、補中益気湯、十全大補湯、人参養栄湯、八味地黄丸、六味丸など、全身状態を改善することで、結果的に嚥下機能が回復する症例が多い。

病態3に有効な漢方薬は、六君子湯や大建中湯以外に、茯苓飲や桂枝加芍薬湯があり、全身状態を改善するというより、胃や腸の働きそのものを改善するものが多い。この理由は、漢方薬でも全身状態までは改善し得ない体力が低下した症例が多いからである。

加藤士郎先生 プロフィール
筑波大学附属病院臨床教授

コメント:5月末の金曜日午後から東京の神経学会総会に出席して、土曜日の午前中のガイドラインコースで、「女性(妊娠)とてんかん治療ガイドライン(2010と新薬を中心に)」、ホットトピックスの「パーキンソン病以外の運動機能異常症状に対する機能的外科治療の位置づけ」を勉強してから、鹿児島で開催されていた日本東洋医学会総会にも出席してきました。

漢方の勉強もいろいろ気になることは残していきたいと思います。






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Last updated  Jun 12, 2013 12:12:08 PM
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takamatsu0224@ Re[1]:ギラン・バレーとジカ、やはり関連(03/08) 大黒町さん >色々新しい病気が出てきて不…
大黒町@ Re:ギラン・バレーとジカ、やはり関連(03/08) 色々新しい病気が出てきて不安になります…
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