カテゴリ:政治経済
税制の問題はとかく誤解が多い。理由は条文が難解で制度の理解が困難であったり、抜け穴が多かったりするからである。今回は農産物のWTOの合意ができなかった事から書き始めるとしよう。
WTO決裂は残念か というqin氏の記事を誤解の一例として紹介したい。 >我が国の農業を守るためには8%以上の輸入品目に数百%の関税をかける必要がある。 とqin氏は書いているが、今日本は8%以上の輸入品目に数百%の関税をかけているにも関わらず、我が国の農業を守れていない、という現実を知って頂きたい。 ホントはコメントを付けて議論したいのであるが、説明が長文になる事。法律の論点を書いても、素人にはピンとこないであろうから、私は独立した記事を書くことにする。 特定の農産物に高額の関税を課しても国内の農業保護にはあんまり効果がない。むしろ高額関税によって日本経済の空洞化が加速しているという問題がある。その理由はこの税制に2つの抜け穴があるからである。 農産物そのものに高額の関税を課しても、その農産物を加工した中間製品・製品は工業製品であるため高額関税を課す事ができないからである。 高額関税農産物の一つに砂糖がある。サトウキビを輸入する場合、379%の関税が課せられる。徴収した関税は国内のサトウキビ生産農家(主に沖縄県)に補助金として交付する財源になっている。沖縄は台風が毎年襲来するので風水害に強いサトウキビしか作れない農地が多いらしい。 しかしサトウキビを輸入して国内で砂糖を生産する事は少なくなっている。2006年の砂糖の国内生産は86万tにすぎない。砂糖の輸入量は129万tである。砂糖を輸入する場合の関税は、重量に対して課税されるが、国際相場が乱高下しているため税率に換算できない。まぁ100~150%位と思っていただきたい。 ところが砂糖等調整品というのがある。これは砂糖に17%の粉状の水飴を混ぜたものである。砂糖等調整品に対する税率は30%でしかない。 国内で和菓子・洋菓子・加工食品などを大量生産している所の使われているのは、ほとんど砂糖等調整品なのである。 さらに小豆を輸入すると400%の関税を払わないといけないのだが、小豆生産大国である中国で餡に加工して、餡を輸入したら、その税率は28%なのだ。 コメを輸入すると778%の関税を払わないといけないのだが、餅米を粉にしてこれに17%の砂糖を混入すると、米粉調整品となる。その税率は30%なのだ。 今、スーパーに行くと4個99円のくず餅などの和菓子が売られている。こんな事10年前にはなかった。なぜそんなに安いのか。それは餡や米粉調整品、砂糖等調整品を材料に大量生産しているからだ。 つまり税率は高いが、抜け道があるために実効税率は低いのである。 これ私が税理士試験を受験した頃に、日本の所得税法に関して言われていた事でもある。 当時は累進課税の最高税率は75%もあり、10.7%の住民税も合わせると高額所得者 は86%もの税負担を強いられていた。はずだが、そんなバカ高い税金をまともに払うバカがいるだろうか。高額所得者にはカネと知恵がある。公益法人を設立して、それにほとんどの財産を寄付しちゃうとか、相続税法の抜け穴を利用して、ほとんど非課税で子供たちに事業を継承させちゃうとか・・していたのだった。 経済学者や民間金融会社の研究部門が調査した結果、実年収5億円以上の高額所得者に対する実効税率はたった15~17%にすぎず、中堅サラリーマンへの実効税率より低い事がわかちゃったのだ。 90年代に税制の多くが見直され、だいぶまともになったのだが公益法人と農業関係については未だ手つかずのものが多い。 80年代までは現在高率の関税を課せられている農産物は全部、輸入が認められていなかったのだ。1994年のWTOウルグアイ・ラウンドの合意により、農産物貿易の原則自由化が実現した。そこで例外品目への高額課税が始まった。 しかし高率の税を課す場合には、必ず例外が設けられている。これ税法の常識である。 それにしても農産物への税率はめちゃ高いのに、調整品への税率が低いのはなぜであろうか?謎を解くキーワードは生産者保護と縦割り行政である。 農水省は農業生産者の利益を代弁する役所である。農産物への課税率を実質的に決めているのは農水省だ。 経済産業省は商工業者の利益を代弁する役所である。工業生産物への課税率を実質的に決めているのは経済産業省だ。 かくてザル法が成立しちゃうのである。工場を海外に作って製品・半製品を輸入すれば高額関税をスルーできてしまうのだ。その結果、国内の農業も製造業も海外に出ていって日本の食料自給率は下がり、産業空洞化が進行し、失業者が増えることになっている。 かかる現状を維持しようと主張する人は特定利権に関係しているか、無知であるかのどちらかであろう。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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