|
カテゴリ:邦書
宮部みゆきによる短編集。 5編から成り、表題作がデビュー作。 解説: 我らが隣人の犯罪 片方の隣人の犯罪を暴いたつもりが、もう片方の隣人の犯罪まで暴いていた、という手の込んだどんでん返し。 この点に関しては面白いと言える。が、それまでの過程がほぼ主人公の思惑通りに進んでいて、最終的には何の傷も負う事無く切り抜ける、というのは出来過ぎ。 特に、叔父の言動や発想は、堅気とは思えない。寧ろ彼こそが大犯罪者なのでは、と思ってしまう。叔父があまりにも犯罪に手馴れている様子だったので、実は叔父が脱税の黒幕だった、なんてオチが用意されているのではと予想したくらい。が、そこまでのどんでん返しにはなっていなかった。 もう片方の隣人も脱税を働いていた、との事だが、実際には無実で、叔父が罪を擦り付けたのでは、という解釈も可能(銀行通帳を叔父が天井裏から盗んだ場面を他が目撃した訳ではない)。 タイトルは「隣人の犯罪」だが、結局タウンハウスの三軒が全て犯罪者である。 この子誰の子 あまりにも出来過ぎた話で、リアリティが無い。 人工授精で生まれた子と、その精子提供者の妻が偶然にも顔を合わせる、という確率は低いだろうに。 遺伝学上の親子だからといって、一目見て「この子は夫の子だ」と恵美が思える程顔立ちが似るとも思えない。サトシが赤ん坊を見て自分と似ていると感じるのもおかしい。 恵美は、サトシの住所を調べ上げ、意気込んでサトシの家に上り込んで嘘を並べ立てながらも、一晩経ったら「全て嘘でした」と自分から認めて退散している。この展開も、意味不明。 その程度で怖じ気付くなら最初から何もするな、と思ってしまう。 ポテンシャルは高かったものの、一番有り得ない、低いレベルの結末で纏められてしまった感が否めない。 サボテンの花 何をどうしたかったのかが分かり辛い小説。 生徒らが生意気で鼻に付き、感情移入を妨げたのも助けにならない。 ハイライトのサボテンを使った実験も、結局は子供騙し(正確には子供が教師を騙している)の手品という事で終わってしまっている。手品はテレビや実演で観る分には面白いが、小説で描かれているのを読んでもあまり驚けない。 本作は、生徒と教頭との交流について描きたかったらしいが、もう少し分かり易く描けなかったのかね、と思ってしまう。 祝・殺人 短編小説というより、長編小説の粗筋を読まされた気分。 短い割には登場人物も多く、いくつもの事件を扱っていて、全体が把握し辛い。 探偵役の明子の思惑通りに捜査が進み、彼女の無理のある推理通りに犯行が実施された、という結末になっていて、違和感が。 ちっとやそっとの事では解除出来ない高度な指紋認証ロック、という設定なのに、切断された手を使えば解除出来る、というのも分からない。高度な指紋認証ロックなら、指紋そのものだけでなく、体温も感知出来るようになっていると思うのだが。 警察は、事件捜査に関しては完全な素人の明子に指摘されるまで、事件の全容をまるで掴んでいなかった事になる。いくら何でも無能過ぎ。 5篇の中で最も推理小説っぽくなっていて、それなりに読めるが、内容的には平凡というか、心に残らない。 気分は自殺志願 これも、意味がよく分からない小説。 何故ボーイ長がレストランを辞める為にここまで苦労せねばならないのかが全く不明。 業界で名が通っている、というのも中田の勝手な思い込みにしか思えないし、料理人の息子に将来に影響を及ぼす可能性がある、というのも考え過ぎだろう。 腑に落ちないまま物語が進み、腑に落ちないまま勝手に終わってしまった感が。 5篇ともイマイチ感が否めない作品集。 一部は面白くなりそうにスタートするのだが、終わる頃には失速しているというか、面白くない方向にあえて舵取りしている印象を受ける。 著者の初期の作品なので、習作的要素もあり、プロット作りに甘さがあった、と言えなくもないが……。 それから後に書かれた小説も、読んでみると矢張りイマイチ感が否めないのが殆ど。スタートが良くても、結局失速する。 デビューから現在に至るまでこうしたイマイチに終わる小説しか書けない作家らしい。長々とした小説にする技術は身に着けたらしいが。 にも拘わらず、世間の評価は異様に高い。 単に作風がこちらの好みに合わない、て事か。 粗筋はこちら
お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
2017.03.03 21:04:03
コメント(0) | コメントを書く
[邦書] カテゴリの最新記事
|