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星見当番の三角テント

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歌織@星見当番

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2009.10.28
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初めて読む人のためのムーミンシリーズ案内、こちらは後篇です。
新着記事から読んでいる方はまず前篇からどうぞ。前篇はこちら。


『ムーミン谷の冬』1957年刊行

ムーミンシリーズのターニングポイントとも言える一作。
時系列としては『ムーミン谷の夏まつり』の後。ムーミン屋敷には
ムーミン親子とスノークのお嬢さんが滞在。スナフキンは旅行中。

真冬。冬眠している筈のムーミン屋敷で、なぜかムーミントロールだけが
突然目を覚ましてしまう。初めて見る冬の世界は、夏とは何もかもが違う。
夏の常識が何一つ通じない冬の世界で、ムーミントロールは
自分とは違う生きかたをするさまざまな生き物たちに出会い、
世界で初めての「一年を丸ごと知っているムーミントロール」になる。

『たのしいムーミン一家』に登場したモランが再登場。
冬の冒険を見守ってくれるお姉さんキャラクターとして、
頼もしい「おしゃまさん(トゥーティッキ)」が初登場。
レギュラーキャラクターからはちびのミイが参戦。

ムーミントロールもだんだん大人びてきて、
『洪水』や『彗星』のときのような幼児っぽい性格から
小学校高学年くらいの少年に近づいてきているのがわかる作品。
スポーツ万能な大きいお兄さんに無理矢理スキーをさせられて、
運動音痴な自分に劣等感を感じてしまう場面の感情描写が素晴らしい。

冬が終わり、他の家族が目覚めた後のムーミントロールのセリフも素敵。
一年丸ごとを生き抜いたことで、物事の一面だけを見て判断しないようになった、
ちょっと大人に近づきつつあるムーミントロールが見られます。


『ムーミン谷の仲間たち』1963年刊行

時系列としては、『洪水』から『冬』の直後までの間、いろいろ。
ムーミン世界の住人たちひとりひとりを主人公にした短編集。

一人でいることを愛するスナフキンと、芸術家スナフキンに憧れるはい虫の物語。
自分の空想にあまりにのめりこみすぎて、手痛いしっぺ返しを喰らうホムサの物語。
愛する相手に愛されず、愛されたい相手が自分の親友を愛してしまって
切ない思いをするムーミントロールの物語。

大災難が来て全てを失うという不安で心がいっぱいのフィリフヨンカの物語。
にぎやかなのが嫌いで、若隠居を望む変わり者のヘムル青年の物語。
育ての親から皮肉を言われ続けて、透明になってしまった女の子の物語。
ニョロニョロに憧れ、家族を捨てて出奔してしまったムーミンパパの物語。
手放したくなかった犬のぬいぐるみを手放してしまい、凹むスニフの物語。
クリスマスが来ると騒ぐヘムレンたちを見て、まだ見ぬ「クリスマス」を
何とか迎え撃とうとする(笑)ムーミン一家の奮戦の物語。

ほろ苦い、大人の味が混じった短編集ではあるけれど、
「自分の言うこと、感じていることを理解してもらえない切なさ」を
既に知っている子供であれば、小学生だって充分に読んで理解できる物語群です。

(何を隠そう当番が最初に読んだムーミン本が『仲間たち』でございました。
当時小学校の三年生。そのとき気に入ったのはスナフキンの「春のしらべ」
フィリフヨンカの「この世の終わりにおびえるフィリフヨンカ」、それから
ホムサの「ぞっとする話」。現在は「しずかなのが好きなヘムレンさん」も好き。)


『ムーミンパパ海へ行く』1965年刊行

『小さなトロールと大きな洪水』から丸20年。『ムーミン谷の彗星』から19年。
人間だったらもう成人式、のムーミンシリーズ第8巻は、ビターな大人の小説。

一家の長としての自分の存在意義が揺らいでいると感じたムーミンパパが、
夢よもう一度と家族揃っての移住を宣言する。行き先は灯台のある孤島。
何も知らず、ただ新しい冒険だと信じてついていく息子ムーミントロール。
ムーミンパパの真意を見抜きながら黙って従う妻、ムーミンママ。
同じくムーミンパパの真意を見抜きながら、こっちはこっちで
勝手にやるわと独立独歩のミイ。

パパの考えでは、灯台島に行って立派な灯台守にさえなれば、
家族の尊敬と信頼はすぐに自分のところに集中する筈だった。
しかし自然も家族もそんなにパパを甘やかしてはくれない。
灯台の明かりは点火せず、前の灯台守は失踪し、息子は思春期、
養女は…まああれは仕方ない。妻は黙って密かにホームシック中。
そしてパパは拗ねて子供返り。ムーミン一家、家庭崩壊の危機。

パパがパパらしくなくなり、ママも普通のママじゃなくなり、
一人海岸にさ迷い出たムーミントロールは、運命の出会いをしてしまう。
運命の相手と、というよりは、「思春期」という運命の時期と。
美しいものへの憧れ、その美しいものと同じような存在になれないために、
憧れの対象から鼻もひっかけてもらえない切なさ。誰にも打ち明けられない恋心。
そして憧れの美しいものとは対極の、暗く恐ろしいものとの対峙。

ムーミントロールは、初めて「ママのムーミンぼうや」であることをやめ、
ママの言いつけに反してモランと交流する。その手に自分だけの光、
石油ランプを持って。その時、ムーミントロールは島の誰よりも、
父親よりも母親よりも、はるかにおとなっぽい(『ムーミンパパの思い出』と
読み比べてみると、父と息子の、似ているようで違う性格がよくわかる)。

子供の頃よりも、大人になってからの方がずっと楽しめる一冊。
また、西洋占星術に関連した記述があるので、そっちの趣味の人には
それを探す楽しみも。

もしもこれを読んでムーミンパパが嫌いになりかけたら、どうか
お茶を淹れなおして『ムーミンパパの思い出』を再読して愛情チャージを。
パパ、悪い人ではないんです。少年の夢をこじらせたまま父親になって、
そして中年になって再発した「男のロマン病」は重い、ってそういう話なんです。


『ムーミン谷の十一月』1970年刊行

『ムーミン谷の彗星』から24年。最初のムーミン物語をワクワク読んだ子供も、
既に大人になって、第二世代のムーミン読者が出てきたであろう頃に出た最終巻。
時系列としては、『ムーミンパパ海へ行く』と同時期。

ムーミン一家が留守にしている十一月のムーミン谷に、
心にからっぽの穴を抱えた(一部例外あり)人たちが
家庭の温もりを求めてやってくる。

ムーミンパパとはまた違った意味で中年の危機を迎えたヘムレンさん。
同じく、命の危険を味わって、自分の人生の意味のなさを感じてしまった
神経質なフィリフヨンカ。想像の中のムーミンママを崇める孤児ホムサ・トフト。
それまでの人生をすっかり忘れてしまった100歳の老人・スクルッタおじさん。
新曲のアイデアをムーミン谷に置いてきてしまったと信じるスナフキン。
そして、特に心が空っぽというわけではないけれど、久しぶりに妹に会いに来た、
ノンシャランなミムラ姉さん。

潤滑油となるムーミン一家を欠いたまま、六人の奇妙な同居生活が始まる。
ムーミンパパのポジションを得たい仕切り屋のヘムレンさん、
ムーミンママになりたくてヘムレンさんに反発するフィリフヨンカ、
本物のママ以外のママを拒否する(と言って、実のところ妄想上のママしか
受け付けない)ホムサ・トフト。ひたすらわがままなだけのスクルッタ老人。
ミムラ姉さんは無責任に面白がり、スナフキンは辟易気味。

ぶつかり合いが起こるたびに、そこにいないムーミン一家が持っていた
不思議なちからが際立ってきます。どんな大所帯になっても、誰が来ても
変わらずお客さんを受け入れ続け、適度に構いつつ放っておいてくれた、
あの一家のようになれないのはどうしてなんだろう。この私たちと、
ムーミン一家はどう違うんだろう。

『ムーミンパパ海へ行く』と同じように、これは大人のムーミン小説です。
当番はこの作品を、「ムーミンシリーズの宇治十帖」だと思っています。
『源氏物語』で光源氏が生きている間は、「スーパーモテヒーローらしいけど
こんな情けない男はいない」と思って読んでいたけれど、源氏が死んで
光になれない薫や匂宮のヘタレっぷりを見ると「あれ、もしかして
源氏の君って息子や孫に比べるといいヤツだったかも」と思う、みたいな。

でもね。当番は宇治十帖の薫右大将や匂宮は大嫌いだけれど、
『ムーミン谷の十一月』のヘムレンさんやフィリフヨンカのことは好きです。
それから、まさしく「ムーミン谷の薫右大将かっ!?」と思っちゃうような
ホムサ・トフトのことだって大好きです。トフトはいい子なんですよ。
ここでトフト語りを初めてしまうと長くなるので、それはまた日を改めて
語ることにしますけれど。

夜も更けてきましたので今夜はこのへんで。
次回は、ムーミンママと「月」の話、それから時間に余裕があれば
ムーミントロールと「太陽」の話をする予定です。







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最終更新日  2009.10.29 02:19:12



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