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星見当番の三角テント

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歌織@星見当番

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2012.10.30
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こんばんは、星見当番です。本日は『ソロモンの偽証』第三部読了レポをお送りします。
先入観ゼロの白紙状態で『ソロモン』を読みたい方はUターンお願いします。今日もまた、
うっすらどころではなくネタバレ注意!

1991年8月15日。とうとう城東第三中学校の三年生たちによる模擬裁判が始まりました。
中学校の体育館を借りて、開廷期間は五日間。被告も、弁護人も、検事も判事も中学生。
陪審員役も、法廷内の安全を確保する廷吏役も中学生。前年の冬休み、学校の屋上から
転落死した少年の同級生たちが中心になった、前代未聞の卒業制作です。

判事役・検事役・弁護役の三人の生徒がとにかくかっこいい。第一の感想はそれです。
ともすれば、こんなに頭が切れてこんなに行動力のある、魅力的な15歳がいてたまるか!
とツッこまれそうなほどのスーパー中学生たちです。でも、当番は彼らのような15歳が
アリかナシかと問われたら、アリだと即答します。ページのこちら側、当番側の世界にも
いる所にはいるんですよね、こういうすごい15歳。当番の高校のクラスメイトに、
いたんです。検事役を引き受けた女の子によく似た、頭がよくて正義感の強い美少女。
判事役の男の子によく似た、ずば抜けて勉強のできる、背の高いおとなびた男の子。
弁護人役の男の子のような才色兼備の美貌の少年はいなかったけど。当番が彼ら、
我がクラスの藤野さん&井上くん(というのが『ソロモンの偽証』における
検事役&判事役の名前です)を知ったのは高校に入ってからのことでしたが、
頭の中で時間を巻き戻して、14歳・15歳だった頃の彼らをイメージしてみると
きっと作中の藤野さんや井上君のような感じだったろうと容易に思い描けます。

当番と同じクラスで読書仲間だったみんなに『ソロモンの偽証』を読んでもらったら
「うちのクラスだったら藤野さんは彼女だね」「井上君は彼だね」って言うんじゃ
ないかと思います。「うちのクラスの藤野さん」だった彼女は、そう言われたら
彼女独特の抑揚で「いやぁ」と言いそう。久しぶりに高校の読書仲間に電話をかけて、
「ね、『ソロモンの偽証』読んだ?」と訊いてみたい。第一部・第二部を読んでいる間、
第三部を読み終わってから、ずっとそう思ってました。当番にとって、彼らが人生初の
友達であり、読書仲間であることだし。人生初・宮部みゆきを薦めてくれたのも彼らだし。

そう思ってからもう三週間。まだ電話もメールもできていません。確かにいちばんの
友達だったけど、色々あって最後に連絡を取ってから数年経っているので敷居が高くて。
この読了レポを書き上げてテントに載せたら、思い切って電話してみようと思います。
無事連絡がつくかどうかさえわかりません。テントにいらしてくださるお客様に
こんなことをお願いするのはどうかとも思うのですが、どうか当番のために
勇気と幸運を祈っていてください。

第三部感想に戻ります。第一部・第二部の読了レポでも書いたような気がしますが
『ソロモンの偽証』のいいところは「裁判」を開く生徒たちのひとりひとりが
それぞれに魅力的なところです。中心になって生徒たちを引っ張っていく、
頭のいい三人だけではなく、彼らを支える「脇」の生徒たちがみんなかっこいい。
裁判を通じて、かっこよくなっていく。ぼんやりした、ピントのずれた女の子だと
思われていた子が、意外な洞察力や思いやりを示す。チャラ男がミーハー女子を
うまくおだてながら、コンビを組んで検事の裏方を見事勤め上げたりする。
群れの中で変に目立つと叩かれるだけだから、と猫をかぶっていた男の子が、
ある理由から弁護人役の男の子を力の限り支えようと決心する。地の文で、
彼らがどんどんかっこよくなっていく様子を読者に見せるだけではなくて
同級生同士、一緒に動く間に起こるきらりと光る瞬間をお互いに目撃させて
「○○、やるじゃん」と思わせるところが心憎いです。

様々な動機で陪審員役を引き受けた生徒たちもまた魅力的です。バスケ部の部長と
将棋部の部長は、彼らのアイドルであった若い女性教師の「身の証」を立てたいと
裁判への参加を決意。第二部で彼らが登場した時には「そんな理由で?」と
思わず鼻白んだものでしたが、読み進むにつれてこのふたりがなかなかユーモアの
感覚のあるムードメーカーだとわかってきました。彼らの会話場面は和みます。
音楽部所属の女生徒は、同じ部員で不幸な事故により第二部で亡くなった女生徒の
汚名を雪ぐために。「被告」である不良少年にいじめられた過去のある女生徒と
その友人は、「被告」を断罪されるのを見届けるために。不良の女生徒は、
彼女の元彼である「被告」が(今回の事件に限っては)潔白であることを信じて。

小説全体を通じて、本当に様々なタイプの中学生が登場します。読んでいて、
中学高校時代のクラスメイトを当てはめたくなるほど皆リアルです。いたなあ、
こういう子、と思ったり、自分がこの小説の中にいるとしたらポジションは
このあたりだろうな、とも思ったり。…当番自身は自分のポジションを探してみて
結局ひとりには絞れませんでしたけど。裁判の中心に近い方のタイプじゃなかった
ことは確かです。

裁判は五日間続き、裁判の場面の他に幕間的な場面も挟まれます。開廷前の場面、
休廷中に食事をしながら生徒たちが話し合う場面、各日の閉廷後、帰宅した生徒たちが
翌日に備えて準備作業をする場面。各生徒の両親やきょうだいたちも登場して、
それぞれの家庭の雰囲気なんかも垣間見えてきます。ほんのちょっとなのですが、
ここのところがまた、魅力的なんですねえ。クラスメイトの誰も彼も、帰宅すれば
それぞれ親きょうだいがいて、この両親に育てられてこんな子になったんだな、
というのが納得の描写で書かれています。スーパーしっかりもの少女の背後には、
やはりしっかりしたご両親あり。心優しい子だった女生徒(故人)の親御さんは、
やっぱり心の温かい、穏やかなタイプの大人だったり。一方、正義感と保身が
心の中でぐちゃぐちゃに混ざってしまっている自意識の塊の女の子のおうちも、
やっぱり親子でよく似たタイプ。面白かったのが判事役の男の子のご家庭。
彼はハリー・ポッターシリーズで言ったらパーシー・ウィーズリータイプで
学校では上から目線が鼻につきがちな子ですが、ご家庭では傑物の姉さんに
頭が上がらない。初登場時は「何この嫌味な委員長」と思っていた彼が、
最後にはあんなにもかわいく思えたのだから本当に意外です。

頼もしい親や家族がいるおかげで安定して活動できる生徒たちがいる一方で、
こんな親御さんがいるんじゃあ子供があんなになるのも無理はないなあ、と
ため息をつきたくなるような生徒もいます。このふたつのタイプはそれぞれ
「子は親の鏡」の一言で済むのですが、そのどちらにも当てはまらない子供が
ふたりいて、当番はそれが気になりました。ひとりは最初に亡くなった男の子の
お兄さん。もうひとりは、亡くなった少年の第一発見者であり、後に弁護人助手を
務めるになった男の子。このふたりは、両方ともどちらかといえば、「いい子」で
「がんばる子」。だけど彼らの親御さんは、こう言っては何だけど、心の弱いタイプ。
たとえば、判事役の男子生徒や検事役の女子生徒のご家庭では、がんばる子供を
親御さんがさりげなく支えている。だけど、死んだ男の子(とそのお兄さん)と、
第一発見者の男の子のご家庭では、親御さんが子供に寄りかかってる。しかも、
子供は寄りかかられているのに気付いて重荷に感じているのに、親御さんの方では
寄りかかっていることにも、子供がそれをつらく感じていることも気付いてない。

模擬裁判という大きな戦いの陰でひっそり行われる、この小さな戦い。大きな戦いは
冒険小説を読むように楽しんで読めても、この小さな戦いの方は当番自身、少しばかり
身に覚えがあるために読んでいて古傷が疼きました。そんな寄りかかり方をされても
支えきれない!私も支えてもらいたいんだから!そう思ったことがありました、昔。

そんな寄りかかり方をされても支えきれない。実はこれが、物語の発端である
男の子の転落死事件の鍵でもありました。ネタバレになってしまうので、
これ以上のことは書けませんけれど。このこともまた、わたくしごとでは
ありますが、当番の古傷に沁みました。支えたいけれど支えきれない。
好きだけど、これ以上付き合っていられない。もうだめだ、終わりにしよう。
当番からそう言って、関係を断ってしまった友達がいます。テントにも、
以前に書いたことがある友達のことです。あのまま友達でいられたら、
『ソロモンの偽証』を読んだ後、当番が真っ先に電話をかけるのは、
彼女だったでしょう。いま彼女は、永久に電話のつながらない場所にいます。
もうひとりの友達には、これを書き上げたら電話をかける予定ですが、
つながるかどうか。かけてみなくては、わかりませんよね。

まとまりのない記事になってしまいました。取り急ぎ、読んだよというご報告まで。






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最終更新日  2012.10.30 17:07:25



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