世渡り上手の売れっ子作家と トイレに行かない淑女を小説に登場させる長老作家のモデル論争勃発! 小説「お菓子と麦酒」
みなさんこんばんは。女優の広末涼子(42)とのW不倫で渦中のミシュラン一つ星レストラン「sio」オーナーシェフ、鳥羽周作氏(45)のことを、広末の夫、キャンドル・ジュン氏(49)が、直接謝罪から“逃げている”と明らかにしたことで批判を浴びているようです。今日はサマセット・モームの小説を紹介します。お菓子と麦酒Cakes and Ale:The Skeleton in the Cupboardサマセット・モーム訳 厨川 圭子角川文庫 長老作家ドリッフィールドとその妻ロウジー。同郷で少年時代を過ごしたアシェンデンにとっては特別な想いがあった。亡きドリッフィールドの栄誉を称え伝記を書きたいと友人作家アルロイ・キアに協力を依頼されたのをきっかけに、今はもう誰も知らない二人の本当の姿—奔放で変わり者だが、愛嬌に溢れ人々を魅了する男女の姿を回想してゆく。 発表当時、ドリッフィールドとキアのモデルについて論争が巻き起こった。モームは人物描写がうまいので、特に後者はモデルと目された本人が読んで「これは自分だ!」とすぐに気がついたほど似ていたらしい。「仲間の作家が世間でもてやはされている間、ロイほど心の底から親密さを表す者はいないが、しかし、その作家が怠けるか、しくじるか、あるいは別の作家が成功したためか、とにかくいったん評判に影がさしはじめると、ロイほどやんわりと、よそよそしい態度を示す者も他にいない。」「私と同世代の作家で、ロイほどの乏しい才能をもって、ロイほどの高い地位にのしあがった者は他に思いあたらない。」「たいていの人は、誰かに卑劣な仕打をすると、その相手に対していつまでも心のしこりが残るものだが、ロイの心臓は常に狂いがないと見えて、そんなけちな感情はもたない。ロイは相手をいかに粗末に扱おうと、後でいささかも相手に対して心のしこりを残さない。」「アルロイ・キアの一番すばらしい特性は、その誠実さにあるのだ。二十五年間もぺてん師であることは不可能だ。偽善ほど実行するのにむずかしく、神経のすりへる悪徳はない。たゆまず気を配らなくてはならないし、並はずれて超然とした精神を必要とする。姦淫の罪や、暴食の罪のように、暇な時にするというわけにはゆかない。常時していなければならない。その上、皮肉をまじえたユーモアの精神がなくてはならない。なるほどロイはよく笑うが、打てば響くようなユーモアのセンスがあるとは思えないし、皮肉はロイにはとうてい無理だ。私はロイの小説を終わりまで読み通したのはほとんどないが、読みかじったのはたくさんある。私の感じでは、その膨大なページのどこを見ても、彼の誠実さははっきりと現れている。これが、彼の人気が安定している主な要因にちがいない。」 いやこれは二重の意味で本人がきつい。いくらフィクションだと断っていても「モームはそんな風に自分の事を見てたのか!」と知るダメージと、「ふーん、あの作家ってこういう人だったんだ」と一般読者にイメージが広まるダメージ。作家なので作風について褒めている所はあるが、人格についてこれだけ書けば、天秤は一方に傾くだけだ。上流階級を描くことに長けている」と評された売れっ子作家に対して、大御所作家の得意分野は逆である。 「彼が一番よく知っていた階級の人々、つまり農場主、農場労働者、店主、バーテン、帆船の船長、運転士、料理人、有能な船乗りなどを描いたときに発揮されるのは明らかである。もっと上の階級の人を登場させると、いくら彼を賞賛している読者でも多少の違和感を覚えるのではないかと思われる。彼の描く立派な紳士は信じがたいほど立派で、高貴な生まれの婦人はあまりに善良で、純粋で、気高いので、これじゃあもったいぶった、こむずかしい言い方しかできないのも無理はないと思ってしまう。彼の描く女性は生きた生身の人間とは思えない。もっとも、これは僕だけの意見かもしれないというのをお断りしておく。一般読者や一流の批評家は口を揃えて、魅力的なイギリス女性の典型で、活気があり、勇ましく、高邁であると誉めそやしている。シェイクスピアの有名な女主人公と比較されることも多い。女性が便秘しやすいのは誰でも知っているはずであるのに、彼女たちがトイレに行くことがまったくないかのように描くというのは、騎士道精神の行き過ぎではなかろうか。驚いたことに、女性の読者は自分がそのように描かれるのを好んでいるのだ。」アシェンデンが世評に左右されない批評眼を持っていることは以上からも明らかだ。「作家の一生について考えてみた。それは苦難の一生である。」から始まる作家論は、モームの実体験からきた感想だろう。 辛辣なアシェンデンがただ一人絶賛したのが、最愛の女性をモデルとした大御所作家の最初の妻ロウジーで、原題のお菓子と麦酒=人生を楽しくするものの象徴的存在だ。再婚相手はキアをはじめ皆が絶賛する糟糠の妻タイプで、最初の妻の事は、彼女のバックグラウンドも含め“なかったことにされている”が、名文家モームの手にかかればこの通り。女性諸君、愛されるなら名文家に限る。 2009年に英国ガーディアン紙が発表した、「英ガーディアン紙が選ぶ必読小説1000冊」選出。【中古】お菓子と麦酒 (角川文庫) サマセット・モーム; 厨川 圭子/角川グループパブリッシング/サマセット・モームBUY王おまとめ店