“変幻自在の小説の魔術師”が33年の生涯のうちに物した傑作群 東逸子さんの表紙が美麗! 短編集「金剛石のレンズ」
みなさんこんばんは。大谷翔平選手が結婚しましたね。さて今日はファンタジー小説の短編集を紹介します。金剛石のレンズThe Diamond Lens and Other Storiesフィッツ=ジェイムズオブライエン創元推理文庫『From Hand to Hand手から口へ』作家ウルマン氏はオペラの帰りに鍵を開けようとするが、なぜか開かない。外は雪で寒い。ぼろを着た少年達の所にでもしけこもうか、と考えていた時に「私のホテルでただで一晩過ごさない?」と、めっちゃいい話を持ち掛けられる。はい、いい話には裏がある。そのホテルの壁には目、口、鼻、手がついていた(キモすぎる!)。そしてウルマンに課されたのは、毎日コラムを書く事だった。作家とはいえ気難しいウルマンは、原稿なんてまっぴら御免だったが、何とそこで金髪の美女(そうなんだよ美女は金髪なんだよアメリカの場合)ロザモンドと出会い、彼女と一緒にホテルを出るために奮闘し始める。しかし彼女「足がない」とヘンな事を言い始めて。いや、いや、このオチは反則だと思うぞ。『The Worndersmithワンダースミス』表向きは修理屋だと思われているヘル・ヒッペの正体は、人形に邪悪な魂を込めて、キリスト教徒の子供達を抹殺しようとするバルタザール大公ワンダースミス氏だった。ヘル・ヒッペはジプシーからさらってきた娘ゾーニラと猿ファーバロウに芸をさせていた。そんなゾーニラに、背中に瘤のある青年ソロンが恋していたが、二人の仲を知ったヒッペは激怒。仲間の産婆で占い師のマダム・フィロメル、ジプシーのケルブロネとオークスミスと運命の夜に彼も一緒に殺そうとする。そして人形たちがまず向かった先は。ありがちだ。『A Dead Secret絶対の秘密』医師を訪ねてきた青年は「自分は絞首刑になるはずなのに、こうして生きている。そもそも私は絞首刑になるはずじゃなかった!」と言いながら延々自分のこれまでを話し出して、最後は隙を突いて姿を消してしまう。ホントか嘘か煙に巻いた話。『The Dragon -Fang Posessed by the Conjuror Piou-Lu手妻使いパイオウ・ルウの所有する龍の牙』皆が集まる広場で、手妻使いパイオウ・ルウが手品を披露する。その夜官人ウェイ・チャン・ツェの家を訪ねたパイオウ・ルウは自分の正体を明かすのだった。当時中国は漢民族の明が亡び、清だったという点がミソ。『The Bohemianボヘミアン』21才になった貧しい私は雑誌原稿を書いて暮らしていた。そんな私の前に「君やわたしのような心を持つ者に、労働を期待するのは冒涜だよ。明らかに楽しむためにつくりだされたわれわれが、繊細な好み、洗練された感受性、高度に鍛えられた肉体を具えながら、どうして他人の楽しみに奉仕して、人生を費やさなければならないのだね」とめっちゃ上から目線の「ボヘミアンとして暮らそう!」誘いを受ける。しかしその代償はもちろん甘くはないわけで。後に著者の生涯を述べるが、ボヘミアンと、彼に目を付けられる男性には、著者自身が投影されている。『Seeing the World世界を見る』優れた詩人になることを夢見る男性が「すべてを見ることができる力」を与えられる。しかしこれ、透視力を手に入れたもので、所謂見たくないものまで見てしまう。さて、詩人は幸せだったのか。『Jubal,The Ringer鐘つきジューバル』ノートルダムの鐘ダークバージョン。『The Pot of Tulipsチューリップの鉢』資産家が妻の不貞を疑い続けて亡くなった。孫娘と婚約中の男性は「貧しくても彼女と結婚する」と誠実な態度を見せるが、そんな彼の前に資産家の幻が現れて。珍しいハッピーエンド。他『The Diamond Lens金剛石のレンズ』『What Was It?A Mysteryあれは何だったのか』『The Lost Room失われた部屋』『The Child That Loved a Grave墓を愛した少年』『Mother of Pearlパールの母』『How I Overcame My Gravityいかにして重力を克服したか』 本邦初訳作を含む14篇を収録。 著者はかなり裕福な家の一人息子として育ち、莫大な遺産を相続した。ロンドン、パリで遺産を蕩尽するボヘミアン的生活を送り、借金取りからの逃亡を兼ねた心機一転で渡米、ケルトのポオと異名を取る幻想科学小説や戯曲を発表、南北戦争に志願従軍し、負傷して死亡。何不自由ない富豪として生涯を送る事もできたのに、それだけではない何かを求め続けた生涯だった。【中古】 金剛石のレンズ (創元推理文庫)AJIMURA-SHOP