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ほそみちシカゴの日記

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2011年11月28日 楽天プロフィール Add to Google XML

息子の悲しいThanksgiving休暇。
[ カテゴリ未分類 ]    

Thanksgiving休暇でMadisonからシカゴの自宅に帰ってきた息子を見ていると私は彼が悲しい青春を送っていることを垣間見た。
昨日の土曜日は息子は一日中外出するとの事を言っていたが、夕方には帰ってきた。

一体どうしたんだ?と訊くと、所属している研究室の教授から命じられた課題をクリアする解決方法がまだ見つかっていないので呑気に遊んでいる場合ではなく、これから自分の部屋で仕事すると言うのだ。
息子は深夜バスに揺られてシカゴの自宅に帰ってきた夜以来、毎晩朝方まで仕事している。
私も会社では研究開発部のメンバーなので、息子の分野とは全く違うものの、Stuckした時の出口が見えない焦りの気持ちは痛いほどよくわかる。

その日息子が自宅で晩飯を食べるとは思ってなかったので炊飯器には私だけの分しかご飯が残っていなく、早速お米をかしてご飯を炊こうと思ったら、息子は自分の方が上手だと言って私に任せてくれなかった。
それじゃ息子に任せようと思ったのが大間違いだった。
息子は炊飯器のボタンを間違えてしまい、保温モードでご飯を炊いてしまった。
炊き上がったご飯は見事に砂状態。
馬鹿野郎!と私は息子を怒ってしまったが、たかが炊飯器のご飯をダメにしただけで叱られた息子は災難だったと思う。
しかし息子と2回目の晩飯は面白い展開になったのが私には嬉しかった。

たんぱく質の研究をしている息子はNMR(nuclear magnetic resonance、核磁気共鳴)の測定機器を日常的に使用する。
有機化合物の分子構造解析を可能にしたものがNMR分光法であり、有機化学の研究者にとって必須のものである。
生物学とはまったく畑違いの分野で仕事する私だが、先月までレーザー装置の研究開発をしていた私にはNMRは全く知らない物ではない。
NMRは私の専門分野で頻繁に使用するフーリエ変換というアルゴリズムを使用する点では共通することこがある。
息子の口からNMRという言葉が出てきた時に私はしめたと思った。

「フーリエ変換NMRの基礎理論は日本人によって確立されたのを知っているか?FFT(高速フーリエ変換)のアルゴリズムは知っているだろうな?」と私はご飯を食べている息子に色々と挑戦的な言葉を投げかけたが、「お父ちゃん、僕を何だと思ってるの?その辺のことを知らんかったら僕は毎日何をしていると思っているの?」という返事が返ってきた。

フーリエ変換というアルゴリズムは決して特殊な人だけに関係するものではなく、極ありふれた色んなものに使用されている。
息子の専門の生物学的なもので言うなら病院にあるCTやMRIである。
もっと身近なもので言うなら、毎日皆さんが使っている携帯電話での皆さんの声はフーリエ変換された上で圧縮転送されているので、毎日皆さんはフーリエ変換の恩恵に与っているのである。
皆さんが使っている携帯電話は話す毎に結構難しい計算をして忙しく働いているのですぞ!

生物学と電子工学という一見全く異なる分野に思えても、案外やっていることは同じ様なことをしていることを昨日の晩飯での会話で息子も私も悟ったのである。
自分の息子とこんなマニアなトークが展開できるとは今まで夢にも思わなかった。
私が右に行けば必ず左に向かうのが私の息子であるが、結局息子も私と同じような世界で生きるようになったのかと考えると心の底から笑えてきた。

昨日も朝方まで仕事をしていた息子は午前10時半に私のマッサージの先生が来てくれた頃には既に起きて仕事をしていた。驚きである。
どこまでこいつは糞真面目な奴なんだろうと思ったが、最近の若者は誰でもそうであり、息子はOne of themに過ぎない。
今年の9月から始まった院生達も既に落ちこぼれが出ており、研修期間が終った今でもどの研究室にも採用がもらえなかった者達にはThanksgiving休暇どころではないと息子は話す。
毎年何人かの研究生が大学を去ることになるのは、一般の企業と同じではないか。
息子は授業料を払って大学に通っていたのは夏までの話であり、給料をもらって自分の研究をさせてもらっている現在の院生の立場では、全員が毎年大学に残れるわけではないし、全員が学位をもらえるわけではないのである。

日本の大学生達にしても30社、40社受けても内定がもらえない者達も多く、文字通り靴底をすり減らして一生懸命頑張っているのである。
何十年もの昔の話であるが、私が出た二流大学でも理系であれば企業の方からゼミに就職説明に来てくれた時代があり、ダメな学生もゼミの先生に頭を下げて頼み込めば優秀な学生とバーターで何処かの企業にもぐりこめたものだ。
最近の若い奴らときたら...なんて私は若者を馬鹿にする気持ちは一欠片もない。

結局息子は自宅にいる間に課題をクリアすることを諦め、深夜に自分のアパートに着いてから徹夜して明日の朝までに間に合わせると言っていた。
息子のシカゴへの里帰りにわざわざ集まってくれる友達との約束をドタキャンするわけにはいかないと言う。

夕方から深夜高速バスの最終出発時刻までの数時間だけ友達と遊んだ後にオヘヤ空港のバス停まで送ってもらう予定である。
私はその友達との待ち合わせの場所まで送ることを頼まれており、その時間が近づいてきても一向に自分の部屋から出てこない息子に痺れを切らした私は息子の部屋のドアを開けるとノートに殴り書きした複雑な数式とじっと睨めっこしていた。

そして息子を友達との待ち合わせの場所まで送ってやって家に戻った私は自分一人だけの食事の用意をし始めた。
冷蔵庫を開けてみると、ちんちんに冷えているサッポロビール缶がたった一つしか減ってないことに気付いた。
結局この感謝祭の休暇中にあいつはたった一本しか飲める余裕がなかったのである。
フリン体が多く含まれるビールは私にとっては正しく天敵であるが、今私は息子の代わりにサッポロビールを飲んでやっている。


最終更新日  2011年11月28日 13時07分46秒
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