エビローグ
俺はその後、一旦実家に戻った。そして、ベトナムで起こったことを、面白おかしく友達に話し回った。おそらく、自分で、自分がして来たことに対して、自信が持てなかったのだと思う。友達から、何かヒントになる言葉が欲しかった・・そんな気がする。しかし、誰一人として、俺がやって来たことに対して、自分が期待するような反応を示してくれるものはいなかった。親にいたっては、気持ちの整理がついたら、社長に対して、ちゃんと挨拶をしなければならないよ、という。俺は、複雑な思いでその言葉を聞いた。確かに、未熟で青臭い俺を、ハノイと言う現実の世界がよく見える場所に連れて行ってくれた人は社長だ。俺の何が見込まれたのか全く分からないが、とにかく、俺は選ばれてハノイに行った。そういう意味では、感謝している。また、赤痢にかかったときに、俺を助けてくれたのも社長だ。しかし、俺の考えを頭ごなしに否定し、俺を追いつめた人でもある。年が明けて正月。帰国後、2ヶ月近くも経つのに、まだ、引きずっているものがあった。そんなある日。俺は、母親が運転する車の助手席に乗っていた。空はよく晴れて、正月らしい天気だった。父親が勤める病院のそばにさしかかった時、俺は、突然、気を失った。持病の発作だ。ハノイのあの過酷な条件で、一度も発作など起こしたことがなかったのに、大学の2年生以来、4年ぶりのことだ。ずっと気が張っていたのが、ふと緩んだせいかもしれない・・・俺は、父親が勤める病院に担ぎ込まれた。気がつくと、病院の暗い部屋。何もかもが歪んで見えた。誰かが俺の顔を覗き込んでいる・・・見慣れた顔・・・でも、名前が浮かんでこない・・知ってる人・・ただそれだけの認識だった。後から、それが親だと言うことが分かった。検査が終わって、俺は約2日間眠りに眠った・・まるで自分をリセットするかのように。