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ふゆゆん亭

ふゆゆん亭

私が読んだ本・5

●読んだ本●


「喪失」 ジュディ・マーサー著 
北沢あかね=訳 講談社文庫









■あらすじ


目が覚めた時、頭にこぶがあり、顔には傷があり、
血まみれの服と銃がベッドの上にあった。

しかも自分が解らない!
その上、鏡で見た自分に違和感を覚え
他人の身体に入り込んだ気持ちだった。

挙句に見覚えのない家の中は
物が散乱していて、
これ以上に無いほどの荒らされようだった。

一体、ここで何があったのだろう?
私は何をしたのだろう?


記憶喪失になっていたエアリアルは、
不安と恐怖感におののきながらも

家の中を片付けながら
自分を知るために色んな物に目を通して行った。


その間もシェパード犬がエアリアルの傍を
片時も離れなかった。

この犬も私の犬?


会社の上司からの電話や近所の人とのやり取りで
自分の生活を少しずつ知り、

これまでのエアリアルを知ると
まるで今の自分には想像の付かない女性がいた。


エアリアルが暗闇で手探りしているような状態の中、
また恐ろしい事件が起きて

エアリアルは自分が記憶喪失になった原因と
それまでの自分の生活を調べ始めた。


新しいエアリアルの人生が始まり、
一つの永遠に失われた出会いと、

それにまつわる素晴らしい出会いと、
事件と自分の謎が解き明かされた。







■感想

「喪失」なんて言う悲しい題名なので
用心しいしい読み始めたのだが、

エアリアルがとても賢い女性で
人に頼らずに自分で切り開いていく工程で

どんどん知らない自分を掘り起こしていく様子が
とても面白かった。


勿論、警察や医者に頼るべきではないか?
とじりじり思ってしまったのだが、

自分が犯罪者かもしれない恐怖もあって
自分で情況を把握しないうちには

自分をさらけ出さないように行動するあたりが
エアリアルにあって私には全く無い
用心深さと芯の強さと強靭さとを感じた。



それまでのエアリアルとは
別人格になったエアリアルは

実は
それまでのエアリアルの中でも
息づいていたに違いないと
私は勝手に思った。


人間は表層の人間の真ん中に
本来の芯を持った自分がいるんだろうと思うこの頃。

私の中には
もっと賢い私が沈んでいるのかもしれない。

人間として生きるための力を持っている賢さを
この愚かで弱い私だって
持っているに違いないと思うのだ。


そして余りにも自分を追い込んだり、
余りにも無理をし過ぎた時に

体調不良や病気や頭痛で
これ以上無理をしないようにと教えてくれるのだ。

そう言う点で
私は私の中の賢い自分を信用している。



ジュディ・マーサーはエアリアルの中の
そんな賢いエアリアルを引き出したに違いない。

賢く正直でまっさらなエアリアルは
親からの虐待や惨めな生活を

他人事のように客観的に眺めて
これまで受けたであろう悪い影響を
全て打ち壊してしまった。

衝撃的な出来事で
エアリアルは生まれ変わったのだが、

私は自分の意思でそうなりたいと思っている。


調度そう思っていた時期だったので、
この本はとても興味深いものだった。

人間は変わる事が出来る。

客観的に捉えれば
私だって出来るかもしれない。


そんな風に考えながら読んでいたので
とても面白かった。


しかもそんな私の思い入れがなくても
この話はとても面白くて

読み始めたら途中で止めて寝るのが
とても難しいほどだった。


一度は朝になるまで
何時間も読み続けてしまった。

きっとこの作家が
素適な人なんだろうと思う。


作品は作家を反映しているので、
私の場合は

人間的に魅力を感じない作家の作品を読んでいると
小説にも魅力を感じなかったりする。



先に第2話の「偽装」を読んで面白かったので
第1話の「喪失」を読んだのだが、
予想以上に面白かった。



あっと言う間に読み終わった。

お勧め度は★★★★★です~♪
甘いかな?





●読んだ本●


「精霊の守り人」上橋菜穂子著 
偕成社 ワンダーランド15











■あらすじ


新ヨゴ国建国200年後の秋口。


女用心棒のバルサは皇族専用の橋で起きた
牛車の暴走を目撃し、

川に振り落とされた第二皇子を
命からがら助け出した。


すると第二皇子の母君である二ノ妃から招かれ
国を創った英雄であり
神として崇められている皇族の二ノ宮で歓待を受けた後、

真夜中に現れた二ノ妃により
第二皇子チャグムを連れて逃げるよう依頼される。


バルサは自分で決めた道のため
チャグムを助ける道を選び

チャグムを連れて抜け道を通り
城を逃げ出した。


そこから新ヨゴ国建国の歴史と存続に関わる
バルサとチャグムの数奇な旅が始まった。








■感想

これはBSアニメで知っていた話で、
アニメは近年でも一番と言えるほどの

ストーリーも画質もレベルの高い
面白くて緊張感に満ちた作品だった。


原作があると知って読み始めたのだが、
ストーリーを知っているものを読むのは
事の他難儀だった。

つまりワクワク感がないので
読むスピードが落ちてしまう。

だからちっともはかどらなかった。
私は知らない話しを読むのが好きなようだ。



だけど内容はとても素晴らしかった。
文章力も素晴らしかった。

日本のヤングアダルトの作家で
胸を掴まれるような強い引力を感じたのは

「バッテリー」(あさのあつこ)以来である。

上橋菜穂子さんの心の深さと
文章力の素晴らしさに感動した。


セリフの一文一文に
登場人物の命がけの思いが込められているような
力強い迫力を感じた。

とてもクオリティーの高い作品に出会ってしまった。




アニメでは知り得なかった登場人物達の
心の内を知る事が出来て

色んな事の意味がようやく理解できた。


建国と皇子の状況の関係性。
星読博士の何たるか。

王の態度の理由。
狩り人達の事情。

チャグムの行動の意味。
バルサの思い。

タンダとトロガイ師の考え。
ヤクー人達の歴史。



これで再放送を見る時、
初めて見た時より深い理解を持って見る事が出来る
贅沢を手に入れてしまった。





守り人シリーズは沢山あるので、
これからはストーリーを知らない

ワクワク感を楽しみながら読めると思うと
うれしくて仕方がない。


良い作家さんを知る事ができて
とってもとってもうれしい~~~(^_^)




原作を紹介して下さった
Lake Moraineさんありがとうございますm(_ _)m









●読んだ本●


「猜疑」ジュディ・マーサー著  
北沢あかね=訳 講談社文庫







■あらすじ

TVプロデューサーのエアリアル・ゴールドは
事件に巻き込まれ記憶喪失となりながらも、

持ち前の機転と粘りで事件を乗り越えて来たが
記憶喪失以前に取材していたらしい

ジャック・スパーリングに出会い
ジャックの事件を再び追い始めた。


それは二年前に
ジャックの妻が大型ヨットから失踪し

ジャックが容疑者として逮捕され、起訴されたが
評決不能で釈放された事件だった。


2年前の自分の話を聞きだしたい事もあって
ジャックと食事をしたエアリアルは
二人がひどく気が合う事に気付いた。

複雑な思いを心に秘めたまま
エアリアルは事件関係者に会って
事件の洗い直しを始めた。


エアリアルの前には難しい選択肢が広がり
何が正しくて、何を疑うべきなのか解らない
デリケートな情況に陥って行く。


ジャックの妻を殺したのは誰なのか?
ジャックはウソを付いているのか?

ヘンリーに後ろめたさを感じながらも
ジャックに惹かれて行く気持ちは
動き出してしまった。


エアリアルは混乱した感情のまま
事件を調べて行く。









■感想

エアリアルが主人公の「喪失」「偽装」と続いて
これが第三作目。


最初の2作がとても面白くて
文章も勢いがあって
楽しみに読み始めたのだが

ヘンリーとの関係も特にうれしくはなく

(エアリアルがとても魅力的なのに
 私がヘンリーに魅力を感じていない。

 魅力的な主人公と魅力を感じない男性が
 付き合っているってうれしくない)

魅力を感じるジャックが犯人か犯人じゃないのか
ぐるぐるぐるぐると廻って
ちょっとくたびれたのかもしれない。

途中でどうでも良くなって来て(笑)
流し読みになってしまった。


何だろうか?

エアリアルの中途半端な感情や行動に
イライラしたのだろうか?


今までのエアリアルに感じていた魅力を
今回は感じなくて

読み進めるのに
努力が必要になったのかもしれない。


読み終えるのに
3週間も掛かってしまった。

楽しくないから
ちっとも進まなくて。


それに最後の最後でも
ジャックは何だったのか良く解らず

多分こうなのかな?と考えると
気付いたなりに悲しくなり

なんとも言えない
未消化な気持ちが残った。



う~~~~~~ん。
なんだかなぁ。



バリンバリンと突き進んでいくエアリアルが
恋をするとふにゃふにゃになっちゃうのかな?

ではヘンリーとは恋じゃないのかな?

それともヘンリーとは
自分らしさを生かせる関係なのかな?



理不尽な感情だけが残ってしまった。



まあ、
シリーズ物を読んでいるから読むんだけどね。



あちこちに突っ込みを入れたくもなった。

あんなに頭が良いのだから、
こっちの可能性を考えない訳がないでしょう?

別の可能性を避けて考えているのは
不自然じゃないの?

なんてね。




あんまり楽しくなかった。








でも、
今まで生きて来た事で植え付けられた
トラウマも記憶も消して

大人の人間として自分を再構築しながら生き直すというのは
今の私にはとても魅力を感じる設定だ。


お年寄りが時にひどくねじくれた感情に左右されて
頑固者になるのは何故なのだろうかと

子供の頃や若い頃に思っていたのだが、
自分が環境によるクセやトラウマによって

良いものから逃げたり、
自分を追い込んでしまう事を自覚してからは

経験によって刻まれた恐怖心や不安感や
自己不信や悲しみは

自分ではなかなか消し去れない物なので
それを消し去ってしまった記憶喪失を乗り越えるために

空っぽの記憶を埋めるために
大人になった自分を再構築すると言うのは
ひどく魅力的に見えてしまう。


普段の生活の中でも
湧き上がってくる苦しみや悲しみに
飲み込まれそうになると

よくエアリアルの事を思い出す。




環境に左右されない芯となっている自分て
どんな自分なんだろうかと
よく考えるこの頃。


その点でこのエアリアルシリーズは
私に新しい視点をくれた。






●読んだ本●


「獣の奏者」1闘蛇編2王獣編
上橋菜穂子著 講談社 


 






■あらすじ


リョザ王国の神聖な真王(ヨジェ)領を守るために
大公(アルハン)領には闘蛇(トウダ)を使う闘蛇衆の村が12ある。

その一つの村で生まれ育った10歳の少女エリンは
幼い頃に父を失くし、
霧の民(アーリョ)の母と2人暮らしをしていた。


ある朝、
母が世話をしている最強の闘蛇<牙>たちが全て死んでしまった。

村は大騒ぎとなり、
観察官は全ての責任をエリンの母に押し付けて

野生の闘蛇が住む沼に投げ込んで食い殺される刑(闘蛇の裁き)
に掛けられてしまう。


エリンは母を救おうと、
短刀を身に付けて沼を泳いで行くが
闘蛇の集団に囲まれてしまう。

母は「大罪を犯す」覚悟を決めて
戒律を犯してエリンを救う道を選ぶ。


この先、
エリンは遠く真王領でジョウンに助けられ、
全く違う人生を歩み始める。


真王や真王を守る「堅き盾」達、
王獣使い達や大公の息子達、

王獣保護場でのエリンの生活と
王獣との出会い。


一つの王国の壮大な物語が
エリンの生き様を中心に描かれている。








■感想

純粋で観察力と判断力と決断力の優れたエリンが
聡明さと知恵と潔さで人生を切り開いて行く様子が
気持ち良かった。

王獣の治療の様子や蜜蜂の世話の様子が
とても臨場感があった。


エリンはとても魅力的な少女だった。
堅き盾のイアルにも惹かれた。

大公の長子シュナンも魅力的な人だった。
エリンを救って育てたジョウンも豊かな人だった。

真王も筋の通った人だった。
エリンを擁護し続けたエサルも重みのある人だった。


人間として魅力的な人が沢山登場し、
波乱に満ちたエリンの人生はまだ始まったばかりなのに

重くて辛い出来事を
いつも逃げ出さないで立ち向かって行く。


私には無い「智慧」と「逃げない」「誤魔化さない」
とで人生を文字通り切り開いて行くエリンの強さに
感服した。


それぞれの登場人物の生き様が
それぞれの事情と人生を背負い込んでの
重くて真っ直ぐなものだった。


児童書だが
大人こそが読んで見えるものがあると思った。


生きると言う事。
何を信じるかと言う事。
価値基準をどう選ぶかと言う事。


壮大で豊かで重みのある物語だった。


確かな文章力と構成力。
充実した内容だった。

続きが読みたくてワクワクしながら楽しんだ。


お勧め度は★★★★★ですなぁ~\(~o~)/








●読んだ本●


「西の魔女が死んだ」 梨木香歩著 小学館








■あらすじ

授業の合間のまいの元に
祖母の訃報が入った。

祖母の家に向う母の運転する車の中で、
2年前に過ごした祖母の家での

一ヶ月余りの輝く記憶が
まいの心に戻って来た。



その時、
中学1年になったばかりのまいは
学校に行けなくなり

喘息もあったまいは
田舎暮らしをしている祖母の下へと
療養を兼ねて滞在することになった。



祖母はイギリス人で
自然に囲まれた家に一人で住んでいた。

毎朝、
飼っているニワトリの卵で朝ごはんを作り

ハーブや野菜に水をやり
片付けや掃除をする祖母の手伝いをするうちに

まいは自然豊かな祖母の家での暮らしに
どんどん馴染んで行き、

林に囲まれた陽だまりの
大好きな場所も見つけて
自分に優しく出来るようになった。



「お祖母ちゃん大好き」とまいが言うと

祖母はいつも

「アイ・ノウ」と微笑むのだ。

まいはお祖母ちゃんが大好きだった。



そしてまいは
祖母の一族が予知能力や透視能力に長けた

魔女である事を知り
まいもまた魔女修行をしたいと
お祖母ちゃんにお願いをした。


お祖母ちゃんがまいに与えた修行は
精神を鍛えるために

早寝早起き、
食事をしっかり摂り、
よく運動し、
規則正しい生活をする

と言うものだった。



がっかりしたまいにお祖母ちゃんは

「いちばん大切なのは、
 意思の力。

 自分で決める力、
 自分で決めたことをやり遂げる力です」


「まいにとっていちばん価値のあるもの、
 欲しいものは、
 いちばん難しい試練を乗り越えないと
 得られないものかもしれませんよ」

と話した。


まいは自分で生活を決めて
自分で行動して
意思の力を強くする修行を始めた。



そうしてまいの生活は祖母の強い軸を元に
しっかり築かれて行った。











■感想(一部ネタバレ)

数年前に友人に勧められていた本を
ようやくようやく読みました。

多分、
魔女と言う言葉に抵抗があったようです。



これは児童書ですが、
「考え方で全てが決まってしまうよ」

と教えてくれる
大人にも優しい本でした。


あらすじを書いていて
これではSF小説のようだと思いました。

実は全くそうではなく、
傷付いたまいの成長の話しで

優しさに包まれた
誰にとっても大事な事を思い出させてくれるような
清清しい話でした。



お祖母ちゃんとまいの生活を読んでいるうちに
私は今よりもっと
庭にハーブを植えたいと思いました。

私はハーブがとても好きなのですが、
この話しにはハーブが沢山出てきます。

ハーブが好きなのに、
中古で買った私の家の庭は和風で

この庭を造った人の意思を壊すようで
手を付けられないでいたのです。

私はこの本を読んでいて
うちの庭の好きじゃない植物は抜いたり
切ったりして

自分の好きな物で満たしても良いのだ!
とようやく気付いたのでした。


今年の目標がもう一つ増えました!!

「庭を自分の好きなものにする」

と言う事です。


そうだ、
どうして私は前の住人に遠慮していたんだろう。

私はいつもそうなんです。
自分を中心に考えられないようなんです。

もしくはそうなるまでに
ものすご~~く時間が掛かるんです。


それで庭は関しては
ここに住んで6年以上も経って

ようやく自分の庭にしよう!と
思えるようになったのでした。






この本を読んでいるとハーブの他に
木々の匂いもして来ます。

私は山や緑が大好きなので
この家に住みたいと思いました。


毎日、
小さな幸せに満ちた
優しいルールに守られた
静かで穏かな日々。


いいなぁ。

ピーがよく言う

「高原の一軒家で暮らしたい」

はこう言う刺激の少ない生活をしたいと
ピーは思っているのだろうか?

と思いました。


ここで言う刺激とは
他人からの刺激で、

自然がもたらしてくれる刺激は優しくて
自分を見つめ直すマイペースを与えてくれる。

そんな感じです。



勿論、
実際に田舎の一軒家で暮らす事は
色々な不便があるでしょうが。



その不便を補って余りある生活
と言う風が
この本の中から吹いて来るのでした。




以前、
ドキュメンタリーで見た

山口県の老夫婦が
山奥の電気も水道も電話も無い所で

自給自足を楽しんでいる生活を
思い出しました。


その老夫婦はとてもお互いを労わり
気遣い合っていました。

日本人の愛ってこういうものなんだな~と
暖かく、暖かくおもったものでした。


何もないから何もかもに感謝し
大事な物が見えて来るんだろうなぁ
と思いました。


私は携帯電話を使い始めても
携帯電話の便利さに
飲み込まれないようにしたい
と思いました。




短い話しでしたが、
こんなに沢山の優しい思いをさせてくれました。


でも、
不登校児を持つ母親としては

1ヶ月で気持ちが切り替わって
都会の生活に戻って行くと言うのは

あまりにも都合が良過ぎるのではないのかな?
と思ってしまいました。


傷付いた心は
そんなに簡単には癒されないのではないのかな?
と感じてしまいました。


私の娘は小学5年で不登校になり、
中学3年の今もまだ

同学年に対する
不信感に満ちています。


娘の描くイラストは
悲しい、暗い、危険な感じのものから

最近は明るくて
優しい感じのものになって来ました。


5年も掛かって
自分を取り戻そうとしています。



勿論、
心のあり方も傷付き方も
人様々ですが。



ですが、
傷付いた心に新たな傷は
追い討ちを掛けるだけで

新たなスタートのための
起爆剤にはならないと思うんです。


そこの所、
まいが自分の中の問題を解決しないで
自分を傷つけた生活に戻ると言う点が

お祖母ちゃんの言う
「意思の力を強くする」事
になったとは思えないのです。


だから中学に戻った時に
スムーズに生活して行けるのかな?
と疑問に思いました。


あんなに素適なお祖母ちゃんとの
新たな確執を心に持ったまま

新しい環境で楽しく過ごせるのかな?
と思いました。


そんな都合の良い事が出来るのであれば
そもそも不登校なんかには
ならなかったのではないかと思われるのです。


だって、
自分の中の小さな疑問や不快や嫌悪を
無視出来なくなったからこそ
不登校になるんだと思うのです。


これはこの5年間、
娘を見て考えて、

不登校児の親の集まりで
皆さんの話を聞いていて、

そして自分の事も考え続けたからこそ
思う事だと思います。



問題はそんなに簡単な事じゃないんだぜ。
なんて思ってしまいました。


感想も人それぞれ。





とても暖かい気持ちや
自分にとって大事な事は何かを

自分で考えて決めることの大事さを
改めて強くさせてくれた話しでしたが、

不登校児と言う問題については
ちょっと不満でした。




短いお話でしたが、

そんな風に沢山の沢山の思いを残してくれた
一冊の本でした。






●読んだ本●


「闇の守り人」 上橋菜穂子=著

偕成社 二木真希子=絵 




 
単行本     文庫本 








■あらすじ


短槍使いの女用心棒バルサシリーズ2作目。

新ヨゴ皇国の第二王子、
チャグムの精霊の守り人
としての運命を助けたバルサは

恩人のジグロと自分の運命を大きく変えた
故郷カンバルに向かうために

地底に広がる洞窟に入って行った。


無常な運命に翻弄された
6歳だった少女のバルサが

泣きながらジグロに手を引かれて
抜けた真っ暗闇の洞窟を

逆に辿ってみようと思ったのだ。


入ってはいけない、
火を持ち込んではいけない恐ろしい洞窟を

ジグロの短槍の柄を書き写した模様に従って
手探りで進んで行くと

松明の匂いと子供の悲鳴が聞こえて来た。


暗闇の中を走って助けに向ったバルサは
ヒョウル(闇の守り人)と闘い

少女と少年を救うことで
カンバルの国を揺るがす事件に巻き込まれて行く。








■感想

うつうつとしていたために
最近は全く本が読めないでいた。

少女マンガばかりを読んで
現実逃避に走り込んでいたのだが、

「闇の守り人」を返却する日が過ぎていたので
重い腰を上げて焦って読み始めたら

これが面白くて面白くて
一気に三分の二を読んだ。

時間があれば
全部読みきっていたろうと思う。


「精霊の守り人」を読んだ時は
アニメでワクワク感を経験してしまったため

色んなシーンでの人々の心理や
経緯やバックボーンを知るのが面白くて
すごい作者だと確信した。



今回はストーリーを知らないので
始めからずっとワクワク感の連続で

思いも掛けない展開や
バルサへの信頼感や頼もしさが
とても楽しくて面白かった。

文章の確かさは言うに及ばない。



バルサ達が新ヨゴ皇国の秘密を知る事で
国と民が救われたように

カンバルでも
大きな自然の秘密を知る事となった。



上橋菜穂子さんの自然への豊かな思いや
人間の弱さゆえの愛おしさが
伝わるような気がした。



そして時々
ハッとするような言葉が出てくる。

例えばP23のジグロの言葉。

「ふしぎなもんで、武術をやる者には、
 争いごとがむこうからやってくる」



私は二十代後半に
中国拳法を習いに通っていたのだが

そこで知り合った高校生達の中で
師範の弟さん(当時校3)が

「俺が小林拳をやっていると言う噂を聞いて
 色んなヤツがケンカを吹っかけてくるんだ。

 こっちはケンカなんかしたくないのに、
 駅や道で待ち伏せして襲い掛かって来るんだ。

 仕方なく応戦して勝つと
 益々そういうヤツがやって来る。
 
 時々、小林拳なんか
 やらなければ良かったと思う事がある。

 普通の高校生として生活したかった」

と話していたのが印象深い。


私はブルース・リーのファンで
強くなれば自分の身を守れると思っていたのだが、

強くなる事で
腕馴らしや腕を見極めるために

ふざけたヤツ等が群がってくるなんて
それまで考えた事も無かった。


上橋菜穂子さんはどうしてその事を
知ったのだろうか?



上橋菜穂子さんは豊かな人だなぁ。
バルサはカッコイイなあぁ。

生き様が潔くて素晴らしい人だなぁ。



バルサシリーズをもっと読みたくなった。








● 読んだ本●




「聖なる黒夜」 柴田よしき著 角川書店


 
単行本  文庫本上・下







■あらすじ


捜査一課の係長、
麻生龍太郎が朝方に事件の連絡を受けて現場に着くと

被害者の韮崎誠一(東日本連合会春日組の大幹部)
がバスタブの中で死んでいた。

非常に頭が良くて用心深い韮崎が殺された。
これは非常事態だった。

抗争事件に発展する前に犯人を捕まえないと
戦争が始まってしまう。

マル防の及川たちも出張って
捜一と強力体制を取り、
捜査本部が設置された。


麻生が及川に促されて連れて行かれたのは
韮崎の資金作りをしている山内練の家だった。

山内は韮崎が殺された事を知って
大量のアルコールを摂り
まともに話し合える状態ではなかった。

山内の顔を見た麻生は驚いた。

10年前に大学院生だった優男の山内を逮捕して
起訴したのが麻生だったからだ。

しかし、
山内の事件は女子大生障害未遂で初犯でもあり
執行猶予が付くと踏んでいたので、

麻生は山内には執行猶予が付いて
すぐに更生するだろうと思っていたのだ。


美しい女顔の山内を刑務所なんかに放り込んだら
どんな生活が待っているか解っていた麻生は

山内を早めに自白させようと
空調施設の壊れた真夏の暑い部屋で

泣き続けて頑固に否認する青年に
苛立つ神経をなだめながら落としたのだ。


所が10年後に会った山内は
暴力団の大幹部の韮崎の愛人の一人であり、

暴力団の資金を作る土地転がしや
株取引をする裏方の人間になっていた。


麻生は山内がそこまで転落した理由が気になり
調べ始めた。

そこに見えて来たのは
自白よりも証拠で詰めて行くのを心情とした
麻生が目差していた理念を覆すものだった。


そして韮崎事件の追及によって暴かれた
闇に葬られた悲しみが次々に麻生を見舞う。



韮崎を殺したのは?
山内が転落した理由は?

自分の信念は?
己がどんな人間なのか?

麻生の進む先に未来はあるのだろうか?









■感想

辛い内容だったので、読み切るのに時間が掛かった。

でも、濃い内容だと感じたので頑張って読んだら
最後には声にならない長いため息が出た。

「ああ、なんてこった・・・」
そんな濃い思いの詰まったため息が出た。



始めは、男性同士の絡みのシーンが
事細かに綴られている所が多くて参ったのだが、

多分これは必要な描写なのだろうと
私にしてはすごく頑張って読んだ。

だって読み飛ばしたら
大事な所で話しが見えなくなるかもしれない。



「人は愚かな生き物で、
 それでも地べたを這いずって生きている。」


大きなくくりとしての感想はこれ。



人の愚かさは恨み辛みを生み出し、
人が人を裁くことで難しさは増強されて行く。


憎しみは憎悪を生み、
憎悪は仕返しを生み、

仕返しは犯罪を生み、
人の心を蝕んで堕ちて行く。


冤罪は
その人とその家族と関係者を全て巻き込み

取り返しの付かない事実ばかりを生み出し、
取り返しの付かない人生を生み出す。


人はほんの少しでも油断すると
大きな間違いを犯す。

だからと言って
私のようにいつもビクビク生きる訳には行くまい。



悲惨な事実の積み重ねで
物語は悲壮感と重厚感に貫かれ、

複雑で説明出来ないほどの情況に
悲しみと憎しみ連鎖が連なり、

それで出た最後のため息
「ああ、なんてこった・・・」



この本を読んでいる間中
ずっと重かったのだが、

淫乱でヤクザの片棒を担がされている練が
それでも私は好きで、

幸せになって欲しいと
ずーーーーっと思っていた。


練は本質的に良心を持っていて
抗いがたい運命に翻弄され

暗転の人生で自暴自棄になりつつも
それでも人を憎み切れず

諦めつつも心の中に大事なものを抱えて
ずっと大切にして来たのだと思った。

だから練の所業も余り気にならず
その健気さと心もとなさに魅かれて
この人だけは幸せになって欲しいと思った。

私は健気な人に惹かれるんだなぁ。


主人公の麻生はとてもストイックで
淡々とした感情の人で正義感があり
安心して読んでいられた。



結局の所、
悲惨な事件が沢山扱われているのに、

悪党が沢山出てくるのに、
私自身は憎しみを感じる事が出来なかった。


ただ、悲しみが渦巻いている。
そんな感じ。





読み応えは予想を遥かに上回り、
手応えのある話を読みたい方にはお勧めします。











●読んだ本●


「家守奇譚」(いえもりきたん)

梨木香歩著 新潮社



  
単行本      文庫本





■あらすじ

頃は明治。

売れない作家の綿貫征四郎は、

学生時代に湖で亡くなった親友高堂の
実家の守を頼まれて住み込み始めた。

高堂の父親が隠居して娘の近くに住むので
窓の開け閉めなどの家の守をして

月々なにがしかの物も貰えると言う事で、
渡りに船と越して来た。

庭の木々は伸びるに任せていたが、
綿貫は散歩の折に

池の傍のサルスベリを毎日撫でていた所
サルスベリにすっかり惚れられてしまった。

嵐の夜に床の間の掛け軸の中から
高堂が出て来て
サルスベリの話しなどをして行った。


ある時、
稿料が入って綿貫が肉を買って来た所
犬が家まで付いて来てしまった。

すると高堂が現れて、
その犬を飼えと言う。

しかも名前を「ゴロー」と
名付けて行った。


このゴローと言う犬が
一緒に暮らしてみると
とても飼いやすくて便利な犬だった。

犬好きの隣家のおかみさんが
ゴローのために食べ物を差し入れしてくれる事から

綿貫の食事が豊かになり
犬を養う所か犬に養ってもらう身になってしまった。

他にも池の周りで起きる
ゴタゴタの仲裁をしたり、

河童の干からびた物を
川まで返しにお使いに出たり、

狸のいたずらから助けてくれたりと
ゴローはひどく優秀で役に立つ犬であった。


高堂の実家に住むようになってから
不思議な事が通常の生活になってしまった
綿貫の不思議な心地良い生活が綴られている。




■感想

夏目漱石の「坊ちゃん」のような
昔風の美しい文体の語り口で綴られているこの本は

とても心地良くて
身近に置いておきたいと思った。


この本は
摩訶不思議なことが日常に起きて

いつの間にかそれが
何の不思議もない事になって行き

さあ、
今度は何がやってくるんだと

とても楽しくなる、
他に類を見ない

楽しくて可笑しくて心に沁みるような
大切な一冊になった。


綿貫と近隣の人々との交流も
ほのぼのとして気持ちが暖かくなる。

こんな小説は初めて読んだ。


美しい文章を読んでいると
日本語が繊細で
表現の豊かな力を持っている事を思い出した。


宝物の一冊だ。








本が読めなくなった私が
ようやく読んだ本。


最近精神的にネガティブなので
感想も暗いす(^^ゞ



●読んだ本●2008・06・18


「卵の緒」瀬尾まいこ著
(短編集) 新潮文庫










一話目「卵の緒」 (ネタバレ有り)

■あらすじ

鈴江育生(小4)は母と2人暮らしだ。

育生は学校の授業でへその緒の事を知り
日頃から不安に思っていた

「自分は捨て子なのではないのか」
を確認しようとしたが、

母は卵の欠片を渡して
「卵で産んだ」と言う。

不安が消えない育生だが、
明るく元気な母と

優しい祖父母、
母が好きな朝ちゃんや

同級生の池内君など
育生を取り巻く人々は優しい。

その優しい心のやり取りが綴られている。



■感想

現代の童話みたいだと思った。

心から愛してくれる他人に育てられるのと
愛してくれない実の親に育てられるのと

あなたならどちらを選ぶだろうか?
みたいな究極の選択を思った。


私は実の親に育てられたから
大きい事は言えないけれども

選べるものなら
愛してくれる他人に育ててもらったら

・・・・・・・・・・・・・・・
どう育ったのかなあ。


でも愛してくれる人に育てられた人は
自分の居場所を持っている気がする。

自己肯定が出来るんだから
無駄に自分を責めて苦しむ事がないんだもの。

だからいざと言う時強いんじゃないかと
私は勝手に思っている。



赤ちゃん時代に父親を亡くした男の子が
大人の男性を

そんなに簡単に受け入れることが
出来るのだろうか?

どう接して良いか解らずに
うろたえるんじゃないだろうか?

と思ってしまった。

あんまりするすると問題が解決して行くので
童話みたいだと思った。

ほんとかよ、
みたいな。


これがデビュー作と言う事だが、
文章は綺麗で読みやすい。

心地良い後味で
そう言う点ではいい気持ちです。







二話目「7's blood」 (ネタバレ有り)  

■あらすじ

高校3年生の七子は父を病気で亡くし、
母と二人暮しだった。

父の愛人だった女性が傷害事件を起して
刑務所に入っている間だけ、

七子と父親が同じ七生(小学6年)を預かると
母が言い出した。

七生は気が利いて素直で可愛くて
家事を何でもこなす

誰にでも好かれる男の子だったが
七子は疎ましく感じていた。

しかし、母が入院してしまい
2人きりでの生活の中で

少しずつ心の距離が縮まり
七子の気持ちが変わって行った。




■感想

著者の瀬尾さんは
お父さんのいない家庭で育ったそうで
二話とも母子家庭の話だった。

埋めたい家庭内の「父親」と言う
穴を埋めるための話のように感じた。


でも、
どちらも厳しい内容ながらも
とても柔らかい感触がして暖かさが残る。

瀬尾さんは愛されて育ったのだと思った。



七子は
お母さんから愛されているじゃないか。

愛された人は
一人になっても強いんじゃないかと
やはり勝手に思っている。


邪険にされ、
母親の気まぐれに翻弄されて生きて来た七生が
こんなにも素直に育つものだろうか?

七生は厳しい環境で育ったから
現実面では強いかもしれないけれど

自分を支えると言う点ではどうだろうか?


母親の都合で振り回されて生きて来た子供が
自分を支える手立てを持っているとは
なかなか思えない。


だから七子より七生の方が強いなんて
ちょっと納得行かないなぁ。

と言う、
私の中から出て来た感情。



多分、
私の中にある被害者意識が

七子の持っている「愛されている者」
へ嫉妬しているのかもしれない。



私のように
ネジレタ感情に身もだえしていない人は
きっと優しい気持ちで読めるだろうと思う。


著者の暖かさと強さと
孤独感?心の穴?
欠損部分?

そう言うものを感じて、
とても複雑な思いがした。



だけど全体としては
柔らかくてしなやかな絹の布のようだ。









●読んだ本●


「歩道」 柴田よしき著

(「聖なる黒夜」単行本
 限定冊子に収録された短編)



この「上」に収録されているようです。



2月25日に書いた「聖なる黒夜」の感想
詳しいあらすじが書いてあります。



「聖なる黒夜」に出てくる練が

事件に巻き込まれる前の
生活が書いてあります。

練の家族と育った家庭環境。
静かに生きていた練の生活。


あの悲惨な人生に転落していく前の
青春の真ん中の練がそこにいて、

「聖なる黒夜」の
最初の練の無力さが
よく理解出来ました。


私はとても練に同情しています。


それは、
全く責任の無い練が

邪な連中の犠牲者になり
ただただ巻き込まれて翻弄され

自分を失い、
全てを失い、

細い糸のような偶然によって
ようやく生きながらえて来た人だからです。



何が自分にとって良い事なのか、
どう生きたら良いのか解らなくなって

川面を流されて行く木の葉のように
自らではどうしようもない力に押し流されて

立ち向かい様もなくもろい精神が、
少し私に似ている
と感じたからかもしれません。



親の道具に過ぎない存在と言う点でも
私と似ていると思いました。



積極的に生きて来たのではなく、
成す術が無く

現状を把握出来ずに
うろたえながら生きて来た、

と言う
練の人生に同情したのだと思います。



苦しみに翻弄される前の練は
孤独で地道に生きる静かな青年でした。

その後を考えながら読むのは
余りに切ない気持ちになりました。



小説の中の人物なのだけど
練が幸せになって欲しいと思いました。




だけど、
どうして題名が「歩道」なんだろう?


練が車道に投げ込まれる前が
歩道を歩いていた・・・

と言う感じの人生だから?

ら?














私が読んだ単行本には
この短編が付いていなかったので

わざわざコピーして送って下さった
Lake Moraineさんに
心からお礼を申し上げますm(_ _)m


ありがとうございます~~ヽ(´▽`)ノ”




















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