祈りの儀式

祈りの儀式

 アイヌは平和な暮らしをいつまでも保障してくれるよう祈願し、
これまでの祈りを聞いてくれたことへの感謝を捧げる為に“祈り”という儀式を通して、思いを言葉に託し神に捧げます。
イナウ(木幣)やサケ(酒)、ハル(食料)を捧げながら神に祈る事を、
カムイノミ(神への祈り)またはカムイコオンカミ(神に対する礼拝)といいます。
多くは、知識と経験の豊富な長老達によって行われます。

 祈りの際は、イナウイクパスイ・杯・酒をいれる片口等が用いられます。
アイヌの祈りはそのまま直接神へは伝わりません。
両者の間を媒介する伝達者がいます。
それがイナウイクパスイです。

祈る時、人間は立てられたイナウに対し、左手で酒の入ったトゥキ(杯)を持ち、右手でイクパスイを持って、
イクパスイの先端に酒をつけ、それをイナウに軽く触れるようにつけながら祈り言葉を唱えるのです。
そうすると、人間の言葉はイクパスイに伝わり、イクパスイはその言葉をイナウに伝え、
イナウは次のイナウを従え、人間の言葉と供物を伴って神の国へ向かいます。
人の目に見えずとも、鳥の姿になって向かうのだと言われます。
あて先の神のもとに着くと、これこれしかじかと快く人間が贈り物を持たせてくれた旨やら、感謝の意や願いやらを事細かく報告します。
 神は人間から沢山貰ったものを大勢の神々に接待し、ふるまいます。
集まった神々は、心よい人間に感心し、競ってその人間の里を訪れます。
つまり、人間に自然の恵みが与えられ、幸せが訪れるという事です。



カムイノミ 1

本当に尊い火の女神
偉大な女神の お顔の前を お開きして
言葉を申し上げることを 私がしますならば

神というものは
猟場の神であっても
祭壇の女神であっても
国土の女神であっても
一緒にお心を ひとつに持つものなので
このような神から 授かった 本当に尊い木を
神に捧げたことを 本当の神々へ
感謝して申し上げる言葉を 私はたてまつるのです。


カムイノミ 2

高い天から降ろされた神
尊い女神の お顔の前を お開きして
ふたたび神への感謝を お礼の参拝を 私が申し上げるのならば

神というものは
他人だとか身内だとか いって考えて
人をお守りになるのでは ないのです。
神というものは
人間達の肩の上に 目を配って
守ってくださるのが 神というものなのです。
中の冷たい風 中の冷たい雲が
私たちが住んでいる 北海道の国土の上に
空にかぶさって暗く なったなら
神が尊ぶ 手草というイナウによって
中の冷たい風 中の冷たい雲を
やってくる途中で 逆戻りさせるようになるならば
そのあとは 何の心配をすることも なく
本当によく 神に大事に見守られるように 私たちはなることでしょう。
神がいらっしゃるおかげで
人間たちというものも 互いに成長を助ける ものなのです。
人間がいるからこそ 神々も あがめたてまつられる ものなのです。
神の真実も 言葉の真実も
ひとつの真実となって
励ましあい支えあう ならば
神も人間も お互いに頼ることができる ものなのです。
神のお力で 人間の子孫たちが
成長し すこやかになりましたら
神の話や人間の話を いつまでも
忘れ失って しまうこともなく
一番はじめに 神に感謝し
神にお礼を申し上げながら 神に感謝する ものなのです。

これまでで 私の言葉を納めます。
拝みたてまつります。



ヌサ(祭壇)の神々

アイヌの住まいはチセ(家)といいますが、家庭を見守る神が東窓にいます。
シンヌカムイといいます。
その東の窓の外、チセの外にはヌサ(祭壇)があります。
幣場ともいいます。
その祭壇は三つに分かれています。
真ん中が高くなっていてリーヌサといい、左右の低くなっているのがラムといいます。
イナウがその神の数だけ立っています。


アイヌ  神への祈り  アイヌの世界観


© Rakuten Group, Inc.